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ナンセンスとそれから

物語を書くつもりです。リンクフリーです。

花火を見に

Posted by なんとかさん on   0  0

できるだけ、「そう」ありたいなと思う。



夏の終わりを待っているようで、どこか夏らしさに夢を見ているここ数日の心境。どことなく溜息をついてしまいそうな三時過ぎに、アイスを一つ頬張る。今年の花火を見るか見ないかで知り合いとちょっとしたやり取りがあって、『結局は当日の天気次第だね』なんてまとめたところ。そこまで望んでいないけれど、心の何処かでそれを見なきゃ後で残念だと思う日が来るんじゃないかと考えている部分があって。



で、行くとしたら出店で「焼きそば」と「唐揚げ」は食べたいよなとか考えていたところに別な人から連絡があってどうしても地区の催しを手伝ってほしいとの事。花火の会場とは反対方向の催しなのでもし手伝うとしたら花火の時間に間に合うか甚だ微妙になる。別な人…とは言ったけれどつまりは親戚で、少し断りにくい間柄であった。惜しい気もするが、知人には「頼まれごとがあって、当日いけるかどうかわからなくなった」と連絡する。もともと酒の席で『暇だったら行ってみようという』ノリの発案だったので、具体的な用事がデキてしまうと優先順位が低くなってしまうのが何とも言えない。



そして当日。


「今日はごめんね、どうしても人手が欲しくってさ」と手を合わす親戚の姿を見ていると本当に人手が欲しかったんだろうなと思えてきて、それはそれで手伝えて良かったなと思える。やはりここでも夏祭りで、昼頃に開催の合図の小さな花火が上がって天候としては恵まれていた。


<音だけの花火も悪くないよな>


と自分に言い聞かせて半分仕事と割り切って、やれる事を探して運営を手伝う。時折小さな子供が自分の方を興味深そうに見ているのを発見して、ちょっとお道化たりしてみながらぼんやりと自分がそれくらいの年齢だった頃の事を思い出していたりした。


「どう。楽しい?」


わたあめの袋を片手に静かに立ち尽くしているその少年に保護者のような感覚で思わず声を掛けている。少年は、


「今日、花火も見に行くの」


とだけ言った。もしかしてと思い、


「花火って、〇〇市の方の?」


と訊いてみると小さく頷いた。どうやら行こうとしていた花火会場の事だった。


「そっか。楽しみだね!」


うらやましいなぁという偽らざる気持ちが表情に出てこないように注意しながら言うと、


「うん」


と言って少し笑った少年。その時親戚から呼ばれ、「今度は屋台の方を少し手伝ってくれ、焼きそばも食べていいから」と告げられる。そうこうしているうちに先ほどの少年もいつの間にか見えなくなっていた。



☆☆☆☆☆



夕方が近付いてきて、あと一時間くらいで花火大会が始まるなと思っていたところで親戚がゆっくり近づいてきて、


「今日はありがとね。もうそろそろ人も足りてきたから好きな時に上がってもらっていいよ」



と言われた。好意なのだけれど、それもそれで何となく微妙な心境になってしまいそうなのは不思議な話である。ただ、今から移動すれば花火大会に間に合う計算なのに思い至って急遽知人に連絡をしてみようとスマホを取り出した。生憎、連絡が繋がらず行く場合には一人でぶらぶらする事になるなと一考する。



「どうしようかな…」


迷う自分の脳裏に浮かんだのはあの少年の「花火を見に行く」という言葉。何も誰かと見に行かなくても花火というものは良いものだと、ちょっとした気持ちが沸き起こってくる。決め手はその時親戚がお礼にと手渡してくれた「焼きそば」と「唐揚げ」とスポーツドリンクだった。



<これを飲み食いしながら花火を見たらさぞ気持ちいいだろうな>



本質的にその欲求に負けたからなのかどうかは分からないけれど、いそいそと花火会場に車を走らせていた。会場までの道で雰囲気が出そうだなと思って、最近良さが分かり始めたフジファブリックの某曲をカーステレオで流してみると何だろうか、夕陽も相まって妙にノスタルジックな気分になった。



そのノスタルジックな気分も会場の混雑に一瞬消えかかってしまうのも現金な性格ゆえだろうか。がっしりした見かけほどごちゃごちゃしているところが好きではない自分にとって、若人が練り歩く歩行者天国には少し参ってしまいそうな雰囲気である。ただ、そう言いつつも適当に川沿いの空いている場所を探して座り込んでみると段々と情感あふれる光景に見えてきて、少しぬるくなっていたスポドリを口に含んで見た時には始まっても居ない花火の音が聞こえてきそうな気がしてくる。




「まあ、悪くないよな。こういうの」



最近はなるべく「そう」あろうとしている。つまりいつでも何かに「良さ」を見つけて『悪くないよな』と言ってみせる気概を持つというか。言葉で説明すると妙に理屈めいてくるけれど、心掛けているのはそういう事である。昔はそんな事自然にできていたのに、頼みもしないのにどしどしと入ってくる世知辛い話題が世の中に多くの希望を見出さなくさせていて、本当に心が若いままだったらと思ってしまう事も多い。一方でそんな中でも何かを思い出し気を取り直して再開することの大切さを実感している。



<なるべくこうあれればな…そうすりゃきっと…>



総括に近い事を思いかけたところで遠くからマイク越しにアナウンスが流れてくる。どうやら開会式らしい。テンションが2つほど違う女性の声が夜空に響き、辺りは少しにぎにぎしくなる。待ちきれないのか男性の「おー」という声が聴こえてきたり、子供たちの声も段々と目立ってくる。気温もそれほど高くない絶好のコンディションだけあって、みな心待ちにしているようである。




ひゅるるるる~ドン


ドン ドン ドン



最初の一発を合図にするかのように、夜空に花火がどんどん打ちあがって開いてゆく。この頃になると妙な一体感に包まれて、来た甲斐があったなと思ってうれしくなる。



ひゅるるるるるるる  ドン ドン ぱららら  ドン



時折花火の音に歓声が混ざる。すでに大分暗くなっている夜空だが花火が上がった時に一瞬周りの全てがはっきりと見えるくらいの明るさになる。それが子供の頃は無性に不思議というか、分かっていても凄いなと感じていたりした。今思えばこの日本の風土によく合う光景を誰もがずっと見てきたのだ。あまりロマンチックでもない自分でさえ自然に『これはもうDNAに刻み込まれているんだろうな』と感じている。そうして自分ももしかしたら誰かにこの光景を引き継いでいきたいのかもなと思ったりする。



<そういうのって、本質なんだろうな…>




サビ付きそうになりながらも、時々こうやって浸って呼び覚ます。魂を揺さぶるこの情景は毎回新しくてもどこか懐かしい。一度に見てしまうのは勿体ないと思いつつも、花火は順調に、次々と打ちあがってゆく。そして。



『いよいよ今年の最後の花火となりました。そして皆さんもご存知のあの曲に合わせて花火を見ましょう!』



元気のよい女性の声で「もしかしたら」と思う。思った通り、たんたんたんたん、という心地よいリズムの曲がスピーカーから流れ始めて『真夏のピークが去った』という歌が始まった。車の中でも聴いていたのに、このタイミングで始まってしまうと途方もなくじーんとしてきてしまって、眼がしらが熱くなっている。



ドン ドン ドン ドン




歌われる歌詞の情景を思い浮かべ、上を眺めているとまるで知らない場所に来たかのよう。サビの部分で華やかに彩られる夜空に、近くにいた誰かが曲を口ずさんでいるのが聞こえ、そういう何かを目の当たりにすると胸いっぱいに何かを感じる。それは何と言えば良いのだろう。



「やっぱり『何年経っても』…」



本当に半端ない曲を作ってしまわれたんだよ。なんだこの気持ち、やべーべ。くそ、なんだこれ、と心の中の語彙が乏しくなってしまうほど気持ちが溢れてゆく。そしてそれを妨げるものは何もない。何度となく叫んできた大サビで気付くと立ち上がっている。







…今思うとあの瞬間の自分の空白は全てを言い表しているような気がする。『あの瞬間』、自分にもあった何かの瞬間、そういうものが一体になって迫って来たあの時。そして本当に最後の花火が終わって、演奏もエンディングを迎え、余韻だけが残る。何かが実際に起こったというわけではないのに、確かに何かの『存在』、何かの『真実』そう言ったものを余すところなく実感しているその余韻。




周りの事も気にせず立ち尽くしている自分に気付いて、ふと我に返ってしまう。そして何だか苦笑いしているというか、変な感じなっているそんなことも含めて、凄く良い夜だったなと思う。最後に紙コップの底に残っていた唐揚げをつまんで口に放り込み、花火会場が混雑しないうちに帰宅を選択した自分。そこで知人からの『ごめん、今気付いた』というメッセージ。何となく申し訳なく思いつつも顛末を説明すると、実は知人も違うところから花火を見ていたらしい。


<なんだかなぁ…>



いかにも自分らしい展開だから引き戻される感じで笑ってしまいそうになっている。そう言いつつも、車の中でまたあの余韻を取り戻したくて再びあの曲を再生している自分。ふと空を見ると空に星が輝いている。


「これは悪くないな」


今年はそんな夏だった。

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なんとかさん

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