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ナンセンスとそれから

物語を書くつもりです。リンクフリーです。

めらねったー(後編)

Posted by なんとかさん on   0  0

「来てしまったな」

「そうだな」


『未来創造社』なる会社の噂を真に受け、友人とわざわざ候補地に遠征してきてしまった事に感心気味に頷き合っていた某駅前。そもそも「切れ者」の友人が有力な候補地を発見したのは会社に勤めていた蓋然性が高いアカウント主「とりにとろ@駅前」の名前からの推測だった。ここで友人との新幹線の中でのやり取りを再現する。


「『駅前』っていうキーワードがあるからさ、過去の投稿で駅について述べられているものをピックアップしてみたんだ。」


「ほうほう」


友人はそこで得意げにこちらに顔を向けてこう言った。


「そしたら〇〇県の△△駅という駅がどうやらその人物が住んでいた場所に近いらしかったんだ。これ」


と言って僕にその投稿内容を見せてくれる。確かに特定はし難いものの駅が映り込んだ画像があり、今回向かっている〇〇県内の駅に絞り込めば周辺の建物の配置から駅を特定できる可能性は高い。実際友人は…ちょうどこれと言って話題がなくて暇だったらしいので、仕事が終わってからストリートビューなどを駆使して特定したらしい。


「凄いな…。というか敵に回したくないよ…」


その時思わず漏れてしまった本音に友人は苦笑していた。まあSNSをやる上で特定に至る可能性のある情報はセーブするのが基本だけれど、この人物の場合別に会社の事を伏せなければならない理由もなかったろうし、自分の投稿がこういう事に利用されているとは思いもしなかっただろう。凄く現代的な展開だなと感心しつつ、再びやって来てしまった某地方都市の様子をとりあえず観光気分で眺める。すると友人が少し遠くを話を眺めつつ切り出す。



「前に昼食を摂ったお店(『加茂屋』という)とこの駅が収まるような半径で適当に円を描いてみたらさ、隣駅寄りなんだけどそれらしいビルがあったんだ。多分営業所、事務所なんだろうけど未来創造社、思いのほか小さい会社だよ」



「そうだったのか。確かに加茂屋は隣駅だからな。頷ける」



「隣駅でも良かったんだが、まずはここに降りて駅前の様子を見て画像と見比べたかったんだ。確かにこの駅で間違いない」


「そうだよね。あそこにカラオケ店があって、反対側の様子も同じ」


「問題は…」


そこで渋い表情をする友人。どうしたのかと思って続く言葉を待っているとこんな言葉。


「休日だから会社の場合だと休みだろうという事だ」


「あ、そうだよな…考えてなかった」


割とこれは大きな失敗かも知れない。というか、焦り過ぎたのと予定が合わなかったので土日を利用しての旅行にするしかなかったが、事務所なり営業所が空いてなかったら空振り同然だろう。まあ証拠は見つかるが…。


「その場合は場所と連絡先を調べられるかどうかだろうね」


僕はそれでもよかったのだが友人はやや残念そうに、


「そうなんだよ。これもうさん臭さを増幅させている理由なんだけど、証言をしている人がアップロードしている名刺には連絡先が載ってないんだよ。配慮なのかなとも思ったんだが、どうやら元々そういう特殊な名刺らしい…」



と言った。そこは確かに僕も気になっては居たのだが、何だかそうなると敢えて隠すように存在しているんじゃないかという気さえしてきて人情としては余計気になる。好奇心の強い友人は徹底的に調べたいらしいことがこの辺りで伝わってきた。


「まあとにかく行ってみようぜ」


そう言って不案内な場所をスマホのアプリを頼りに歩き出す僕。目安としてはここから2キロほどの所らしい。タクシーを使うかどうか微妙な距離であった。



☆☆☆☆☆☆



秋で風が涼しくなってきたとは言え昼前の日が照り付ける中を歩いていたせいかうっすら汗を掻いてしまった。途中道行く人の様子から、中心街から離れてきたなと感じていたけれど、現場に到着すると普通に建物がありほとんど「特徴がない」場所で呆気に取られてしまった。


「本当にここなのかな…」


対象のビル、その3階がどうやら『未来創造社』に関係する場所らしい。歩いている途中、あの手掛かりからどうやってそれを調べたのか訊いてみたが、


「『キャッシュ』って言って昔はネットで調べ物をしている時に使った方法だけど、要するに新しい情報に更新される前の古い情報が検索エンジンに残っていて『未来創造社』の記述があったページに住所と思われるものを見つけたんだ。しかもさ、それが直接の記述じゃなくて昔この地域で何かのイベントをやった時に協賛か何かの形で協力して、その一覧に住所が載ってたんだ」



「うわ…すごい」



『凄い分かり難い』とそれを見つける『凄い執念』という二重の意味で僕はその言葉を発した。



「ただなぁ…その情報が古いから、仮に移転とかになってると…」



鋭さゆえの憂慮があるらしい友人を励ますように「先ずはビルに入れるかどうかだ。行ってみよう」と僕は率先して動き出す。実は、僕はこの時絶妙に腹が空いてきて、早くこの調査を終わらせたいという気持ちになっていたという事をここに白状する。




それはともかく二人でビルの入り口付近に来た時、どうやら一回はフロントになっているらしく少なくともそこで情報を得られそうだなという事が分かった。なるべく迷惑にならないように静かに窓口に向かい、そこに人が待機していることを確認して訊ねる。



「すみません。こちらに『未来創造社』という会社の営業所、もしくは事務所はあったりしますかね?」


するとそこに居た管理者らしい女性は、


「はい。営業所がございます。ただ本日は休日なので多分誰も来ていないと思いますけど」


と普通に対応してくれる。まあ普通なのは別に不思議でもないんだが、あっさりと見つかってしまったので拍子抜けしてしまった感がある。


「何か御用でしたか?何かの取材とか?」


「えっと仕事の事でではないんですが、会社の事で知りたい事があったので。アポとかは取ってません。というか連絡先も分からなかったので…」


僕達が完全に私服で来ていたのもあるし何か思い至る事があったのかも知れないその女性は、

「そうでしたか。私の方から後日会社の方にお伝え出来る事があれば」


と申し出てくれたがもし普通の会社だった場合全く知らない人物が訊ねてきたと言われても困惑させてしまうだろうなという常識が働いて、そこは遠慮した。ただ友人はそこでしっかりとこう切り出す。


「あのもし可能でしたら未来創造社の連絡先を教えてもらいたいのですが…」


僕はそこで「おおー!」と声を挙げそうになった。いや普通に仕事では連絡先を確認するのは僕でも思い付くけれど興味本位ゆえの及び腰だからだろうか、その時は失念しそうになっていた。


「はい。大丈夫ですよ。少々お待ち下さい」


そう言って一旦奥の方に向かった女性。数分後、何かの紙を持ってきてこちらに手渡してくれた。


「パンフレットです。小さな会社なのであるのはそれだけですが、連絡先もそこにあります」


「うわ。ありがとうございます!助かりました」


これは現状で非常に大きい収穫だった。それにしてもそのパンフレットはこれでもかという位に必要最小限の情報しか載っていない、不親切と言えば不親切な造りだった。ビルを後にして、とりあえず近くで昼食を食べれる場所を探しながら歩こうという事になったが二人でそのパンフレットをまじまじと読んでいるうちに、何だか段々と気が遠くなってくるのを感じた。それには理由があった。


「確かに『在る』って確認して証拠もこれで十分だけど、イマイチ実感が湧かないよな」


それは僕の偽らざる感想だった。もともとオカルトチックなネタとして興味を抱いて、実際に遠出してここまでの労力で手にしたものが「これ」というのも何だか疲労感のある話である。


「だからどうしたのか…って事だよな。俺も同感だ」


友人も目に見えてテンションが下がっている。


「『普通』過ぎる…」


「全くだ」


実際問題、会社名はありがちと言えばありがちだし捻くれた見方が許されるなら、小さい会社が知名度を高めるために、今時の手法でSNSの口コミ作戦を行った可能性だってトコロなのかも、と今まで高揚感を台無しにしそうなそんな気配さえその時はあった。何より勢いで遠出してきたは良いが、特に前から旅行をしようとも思ってないのにここからここで何をすればいいんだという絶望感がやってきそうである。そんな時、


「あ、あそこ。なんか美味しそうじゃね?」


友人が何やらよさそうな店を見つけたらしい。少しネットで評判を調べてみるとそのラーメン店『冥々軒』は某ログで「4.2」という素晴らしい数値。書き込みも、おススメという言葉が並ぶ。それを示すかのように、人通りのあまり多くない場所にあって今も一人の女性が入店したのを見た。



「よし。とりあえずそこで食べて作戦会議だ」



☆☆☆☆☆☆☆


ずずず、ずずず


「まあパンフレットをさ撮影してアップロードすればそれでいいんじゃないか?」


ずずず、ずずず


「現実的にはそうだよな…」


ずずず、ずずず


絶品としか言いようがない和風醤油ラーメンを啜りながら会話を続ける僕ら。正直このラーメンを食べていると他の事がどうでもよくなってきた感がある。ただ…



「そうなのよ。マスター、またね、あの人が『確率』がどうとか言うのよ。そっちの方面はあたしはちんぷんかんぷん。必要なものが必要な人に行きわたればそれで十分なのよ」


「…」


先に入店したおそらく常連の女性(おばさんというか…そういう年齢の人)がせっせとラーメンを作っている店主に話しかけている。マスターの方は無視しているわけでもなく、かと言ってしっかり相手をしているわけでもない。見るからに「押し」の強い女性で、マイペースに誰かについての文句のような話をしている。で、なるべく意識しないように努めていた僕だが、


「ねえ、そう思わない?お兄さん」


と何故か僕に突然話しかけてきたのである。


「へ?」


唖然としているけれど、友人は関わりたくないのか無反応でやり過ごしている。結果的に僕は女性の相手をする羽目に。


「お兄さんも『確率』が大事?算数が大事?そういうのロマンなの?」


「えっと…」


困惑しているのを見かねたのかそこで店主が、


「お客さん困ってるよ、小松さん」


と言ってくれた。女性が『小松』さんであるという事が分かったがそれが何なのだろう、僕はたまらず、


「あの…小松さん。話がよく分からない…というか僕らここら辺の人ではないので、ちょっと…」


と伝えると彼女が突然「はっ」とした表情になって、


「そうだったの!それなら貴方に良いものをあげる。まあ会社の商品なんだけど『手帳』」


と言ったと思ったら何故かおもむろにバッグから何かの『手帳』を取り出して僕にくれた。


「え…?何で僕にくれるんですか?」


「おばさんの相手してくれたお礼と思ってよ。カワイイ猫のキャラクターなの」


小松さんの言う通り手帳はカワイイ猫のキャラクターが表紙に描かれていて、どちらかというとこれは女性向けの商品である。


「えっと…」


「じゃあマスター。ご馳走様!お兄さん達も頑張ってね!!」


そう言って嵐のように去って行った『小松』さん。友人がその時こちらを見てクスクス笑っていたのを僕は見逃さなかった。



☆☆☆☆☆☆☆



『手帳』の事はともかくあの女性も悪い人ではなさそうだし、旅行としてはエピソードができて悪い気分ではなかった。その後はゆっくり観光という事で、あまり予定を立てず行き当たりばったりにはなったが久しぶりに友人と色々会話ができてよかったと思う。夜、あるホテルの浴場で一緒に湯船につかっている時に彼がこんな事を言った。



「メイがお前に会いたがっていたよ。新社会人になって仕事が大変なんだってさ。まあ分かるな。気持ちが折れそうになる時もある」


『メイ』とは友人の3つ年下の妹の事である。僕も自分の妹のように可愛がっていたせいか、他人事ならぬ同情の気持ちがやってくる。そして友人はこう付け加える。


「本当はこの旅行にも連れて行ってやれば良かったのかもなって思ってる。気晴らしとしてね」


「そうだよな。まあ俺だったらいつでも連絡してもらって大丈夫だよ」


「助かる」



頭の切れる友人も流石に妹の事情となると難しいようで、影ながら手伝えることがあればなと思っていたりした。そんなことがあって翌日そこを発って新幹線で移動し、流れで駅から友人宅に向かっていた時の事だ。前を見ていた友人が「あ」と何かを発見した。何かと思ったら友人宅付近に、何か見覚えのある姿が。


「メイ!!」


噂をすれば何とやら。メイちゃんが兄を訪ねてやって来たところに出くわしたらしい。


「あ、お兄ちゃん。よかった!!」


元気よく駆け出してくる。


「あ…仁さんも…!!」


途中で僕の姿を認めて気のせいか嬉しそうにしている。


「久しぶりだね。メイちゃん。あ、そうだ…」


と僕はここで『小松』さんに貰った猫の手帳をメイちゃんにあげようと思いついたのである。


「これ。プレゼント。猫のだよ」


「え…もしかして、私の誕生日覚えてくれてたんですか!?」


「…ん、ああ」


悟られまいと必死に頷いたのだが、もちろん『小松』さんに貰ったものなのでメイちゃんに誕生日の事は完全に忘れていた。咄嗟に友人の方を見た時に凄まじい表情をしているのを見て、完全に空気を読んで「誕生日プレゼント」という事にしてしまったが、それは別に悪いことではないと思う。そこで機転を利かせた友人が、


「お前『猫』がめちゃくちゃ好きだろ。丁度旅行行った時に良いのがあったんだよ」


と間髪入れずにフォローした。この機転の利き方は凄いの一言。というわけで何故か色んな事が功を奏して状況も状況だけに感極まってしまっているメイちゃん。目にはうっすらと涙が浮かんでいるのを僕は見て取った。


「ああ、メイちゃん。実はね面白い話があるから聞いてよ!!」


そして僕達は友人宅で『未来創造社』とか『パンフレット』の件とかを面白おかしく話し合ったのだった。

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なんとかさん

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