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曲がる鼻

ご近所づきあいというのは非常に大切だ。特に、料理の美味しくない家に育った私にとって隣家のおばさま方から恵んでもらえる、味覚を正常に、胃袋を清浄に保つための貴重な食糧は、まさに生命線だ。我が家の成員はこれまで何度、食あたり、食中毒、食による一時的な麻痺、気絶、臨死体験、といった経験をしてきただろう。大抵そういう事件は、味覚音痴な祖母と、味覚超越者の母が『創作料理』という名の科学実験を行う日に発生する。私と父と妹はその日を「魔族の襲来」と呼び習わしている。
 
先月、家に魔族が襲来したのは4回。運が良いのか悪いのか味覚を超越できなかった者達は、襲来を第六感で察知し、それぞれの方法でこの危機を回避していた。一家の主には、家に真っ直ぐ帰らずに飲んでくるという常套手段があるのでいいとして、妹と私はもてる力と技と時の運を生かして、これを避けねばならない。

最近妹が編み出した技は、「年頃の乙女の悩みで食欲が湧かない」であるが、これは一晩の空腹をカロリーメイトと水で満たさなければならないというリスクを伴う。けれど、妹は「それでもいい、この空腹に耐えないとわたしに未来はないの」と真剣に訴える。事情を知らない人たちは、彼女のスリムな体型を羨ましがる。私はなぜかは分からないが切なくなる。

だが私は自分の事を考えなくてはならない。血が繋がっている兄妹といえども、胃袋は繋がっていない。だから私は、私の胃袋と、できれば舌を守らねばならない。さて、私が生み出した方法を今日試す時がやってきた。いつもならおばさま方のご好意に甘えてきた私がひとり立ちする瞬間だ。失敗すれば、魔族に身も心も滅ぼされてしまう。私は料理が並べてあるテーブルに着席する。妹は心配そうに私を見ている。

分かっている大丈夫だ!!見よ、これが兄の生き様だ!!

「こんな不味い(デンジャラスな)料理が喰えるか!」

がっちゃーん。

いわゆる伝家のちゃぶ台返しである。私は見事に決まったと思った。
 

…確かに見事に決まった。翌日から、三食全ての料理当番に。母と祖母がボイコットして作らなくなったのは良かったけれど、私も私でクソ不味い、がしかし何とか料理と呼べるものを作らなければならなくなった。でもこれも一つの平和のカタチなのかも知れない。

ご近所づきあいというのは非常に大切だ。特に、一介の大学生がおばさま方の美味しい料理を教わりに行くときなどは。
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他人事ではない

 こんにちは。
 これ読んでて他人事ではないと感じてしまいました。
 私の母も料理は上手ではありません。はっきり言って下手です。しかも事料理となると記憶が極端に悪くなるらしく、私の嫌いなものをことごとく好きだと思っているのです。
「なんだ、〇〇はこれが嫌いだったの。好きだと思って作ってあげたのに。」
 何度聞いたセリフだろう。その都度不機嫌になるからますます始末が悪い。
 そんなわけで母が億劫がってご飯を作らない日は素晴らしい。自分で作れば嫌いなもの、不味いものは絶対に食卓に上らない。
 ちなみに嫌いなものは

 粕漬け・粕汁
 味噌などに漬け込んだ肉・魚
 いくら・うに・かずのこ
 わさび漬け(白いどろっとしたやつね)
 ぬた

 位なものなのですが・・・orz 

Re: 他人事ではない

うわ…実体験…

家庭の料理って、実験の要素が結構ありますよね。

「これきっとおいしい」から作ってみよう、っていうのも
「きっと」であって、おいしいかどうかは食べてからじゃないと分らない。
だから調理中は味見が必要なのですが、どうしてか分からないけれどその
大切な部分が面倒くさくなるという人が多分いるんだろうなって。

それが「悲劇の幕開け」です。まあ味覚が超越していたら
味見しても関係ないという。


ですが、この作品でそんな方々にちゃぶ台返しをする勇気を
与えられたらいいなと思います。
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Author:なんとかさん
ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

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