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ガラクタの町

ある人は「良い処だよ」と言った。大いに笑う。でもって、蒐集。
フローリングに放置されたダンボールにはこの町で集めたガラクタ
が無秩序に詰め込まれている。物事を粗く捉えた。そういうわけではない。
だが「良い処」と言えるほどこの町にある物全てを見てきたわけではないだろう。


僕にとってこの町は、良いも悪いもなく『ガラクタばかりが目につく』町だ。
今日見つけた、プラスチックの破片は、恐らく文房具の一部だろう。


週に一度やって来る『何でも屋』は様々な物を売りつける。厳つい顔をした
若い男は、サングラスの下でどんな目をして僕等を見つめているのか。常連
は「ああ見えて商品は悪くない、だから悪い人ではない」と評価している。
僕は良いか悪いかは別にしても、何故このような町にあんな人がやってくる
のかが分らない。


目的は何だろう。一度問い質した時、彼はこう答えた。


「俺がここに来るのは何の為でもない。ただ売りに来る為さ」


全くもってその通りである。彼は売れるものを売る事によって金を稼ぎ、生計
を立てている。偶々この町で売れ行きが良いからここに来て、売って、また
売りに来る。それだけなのだろう。必然性はないと言えるし、売れるという条件
を満たすところなのだと言えば、必然だったとも言える。何にせよ、『何でも屋』
はこの町を今のように成り立たせている要因の一つになっている。



僕がこの町に溢れているガラクタを集めようと思ったのは数年前。その時には既に
『何でも屋』は来ていたし、今と余り変わりない事が続いていた。何故だか僕は、
この町にはガラクタが多いと思うようになった。それは一般的に言えば『ゴミ』で
それを清掃しない自治体が悪いとか、そういう事もあるのだが、何よりそれを
そのままにしても何も感じない人々の共通した感性がそうさせていたのだ。勿論、
気になるところにそういうものが置かれているわけではない。だがそれがある
という事は誰もが認識しているし、「それはなんだ?」と訊いたら10人中10人が
「ガラクタ」だと答えるだろう。



ガラクタがそのまま置かれている変な町なのだ。


この町を「良い処だよ」と言った友人は、一年前この町を出ていった。理由は、
「他に面白い処があった」からである。人は面白いものを求める事がある。「良い」
という理由ではそこに留まる十分な理由にならない。友人と高校時代こんな話を
したことを覚えている。


「なあ、○○」

「なんだい?」

「君は世界の事とか、どうでも良いと思うか?」

「何で?」

「いいから、どう思う?」

「どう思うって言っても、僕はこの町で生まれて、この町で暮らしている。ここに
居るってことは、ここで何かをしているって事で、それも世界の出来事なんじゃないの?」


「…まぁ、そうとも言えるな。だけど、ここが全てではないよな」

「そりゃあそうだね」


友人が確かに「良い処だ」と言ったこの町は、友人が居なくなってもこの町だった。
厳密に言えば、友人が居なくなったこの町だ。居なくなった頃には僕の集めたガラクタ
は何となく大所帯になっていた。それぞれが、それぞれを主張し、そして、ガラクタ
だった。



ある日、僕は『何でも屋』の男に常々思っていた事を話してみる事にした。蝉が
やかましく鳴いている公園で、男はいつもの様にシートや簡易の机の上に商品を
並べて静かに立っていた。


「あの」

「なんだい?」

男はいつもの様にサングラスの下から僕を見ているだろう。多分、いつもと同じ目で。


「もし、ここで商品が売れなくなったら、お兄さんはここに来なくなるの?」


男は一瞬だけ何かを考えたように沈黙し、口を開いた。


「さあね」

「『さあね』って、そんなんで良いの?」


「俺は売れるからここに来る。でも売れなくなったからと言って、ここに来ないのか
なんて俺自身にも分らない。何せ、俺も考えが変わらないとは限らないからな」


「確かに」



次の週、僕はダンボールのガラクタを抱えて『何でも屋』に向かった。いつものように
そこに居た男に、ガラクタについて説明した。


「僕が集めたガラクタ」

「ああ、ガラクタだな。なんの価値もない」

「何故、ガラクタが置いてあるのか誰も知らないし、誰もそれを気にしない」

「ガラクタだからな」


男はやはり同じように佇んでいる。


「それが無くなった事に、誰かが気付くだろうかと言われれば誰も気づかない」

「…」

「でも…」

「でも?」

「無くなった事で、気付かれなくても何かが変わる事がないとも言い切れない」


男は言った。


「お前の部屋がガラクタで一杯になるだけだろう」

「そうだね」
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