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ぶんがくねこ

「ご主人、今何を読んでいるのですか?」

私はご主人と呼ばれる事に対して若干の違和感
を隠せない。だが、現実的な関係を言えば、飼主
とペットという関係だから、「ご主人」が正しい。
そうと分ってもむず痒い。そう思って1年ほど
過ごしてきた。


マロ。雄猫にして2歳の茶トラの猫は、喋る。
比喩とか冗談ではなく喋る。もう一度言う、『喋る』。
その経緯は十分に説明したと思うが、私がおかしい
と思われないように念のために毎回確認する
事にしている。


さて、そのマロが私が本を読んでいる時にその
中身について質問をしてきた。私はその時たまたま
猫が出てくる小説を読んでいた。


「へぇ~。なかなか面白そうな小説ですね。でも
『事実は小説よりも奇なり』…なんて言葉をボクは
存じております。どうせ、その小説の猫も、その辺に
いる猫と変わらないんでしょ?」


前回も触れたように、マロは少し傲慢なきらいがある。
自分も猫のくせに、喋れるからか、「その辺の猫」と
一括りにしてしまう。言っておくがこの小説に出てくる
猫は、主人公と恋人を繋ぐ大切なマスコット的な
存在だ。自分でも小説に入り込んでいるような気に
なっているから、この猫の特別さを理解しないまま
語られたくないと思ってしまう。


「マロ。俺にとってお前がかけがえのない猫であるように
少なくとも飼主にとって猫は大切な…」

「大切な…?」


私はここで少し頭を悩ませた。『大切なペット』だと
なんか普通だし、『大切な仲間』だとちょっと行き過ぎて
いて…私はまあそれしかないような事を言った。


「存在なんだ」


するとマロはまた例の前足を左右に振って「チッチッ」
と口で言ってから、私の目を見つめてこう断言した。


「ご主人は文学的才能に欠けております。それじゃあ
夏目漱石もがっかりです」


吾輩は夏目漱石と何も関係ない。何故これで駄目なのか
マロに詰問した。


「なんで駄目って。そりゃあしっくりくる表現を最後まで
探し求めないと、小説なんてハイカラなもんを読んでいる
んですから、ちったあ文学的表現で格好つけて下さらないと…」

ちょっとイラッと来た。それはそうとハイカラっていつの時代
の猫だお前は。


「じゃあ、お前だったらどうする?マロ」


「ボクなら、『大切な友達』が無難な表現で、『大切な癒し系生物』
とかが最近の表現で、『大切な平和の表現者(アーティスト)』って
なところでしょうかね」


「最初の二つは良いが、最後のは主観がかなり入っていないか?」


「良いんですよ。文学なんてそんなもんです」


「良いのかな…?」


マロは確かに平和を訴える事がある。「人類と猫が手を取り合って素晴らしい
社会を築いてゆく事こそ理想郷なのです」と常日頃から言っている。
文学ではないが、やや志が高い猫である。


「まあいいや。話は逸れたけど、猫っていうのはそういう何か
なんだよ。飼主にとっては。だからこんな小説も生まれるんだ」


「あ!!!」


マロは突然大きな声をあげた。嫌な予感がする。


「どうした?」


「それが本当だったら、ボクの事も私小説かなんかでネット上に公開
して下さいよ。いくらご主人のように文才が褒められた人ではなくても
ボクとの邂逅から今に至るまでの出来事は、普通に書いただけでも人々の
感動と興奮を呼ぶはずです!!」


「」え…


あっと思わず、括弧の外に漏れだしてしまった。何だかんだで結局この
小説を書いているが、皆さん、これは小説ですよ。フィクションですよ。
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