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ATJアナザー ⑦

人の良さそうなおじさんに再会したその次の週の土曜日、私は松木さんと最寄りの駅で待ち合わせをしていた。そこは『地方にある中規模の駅』という感じの比較的静かな場所で、待ち合わせに使われるという事はあまりなく、土曜の午前にも関わらず人通りは少ない。真面目な目的があるとは言え、女性を待つという経験をあまりしていない私は、松木さんがやってくるまでの時間、少しばかり緊張していた。前日に貰ったメールには「じゃあ、明日よろしくお願いしますね!!」とあって、私に期待している様子が窺われた。


「まあ、何とかなるかな」


半分にやつきながら駅に設置してある自販機で苦いコーヒーを丁度飲み干した時、


「Nさ~ん!!」


と大きな声で手を振っている松木さんが駅の中から出てきて駆け寄って来るのが見えた。「N」さんとはもちろん私の事である。人は少ないが全く居ないわけではなかったのでちょっとだけ恥ずかしくなったがそこは堪えて、彼女に言った。


「やあ。早かったね」


「Nさんこそ!あっ…」


「どうしたの?」


「いえ…。よし!!本日はどうぞよろしくお願いします!!」


松木さんは丁寧に頭を下げた。一瞬戸惑ったが私も、


「こちらこそ、よろしく!」


と彼女に倣った。「えへへへ…」。彼女は嬉しそうである。その心を推し量れば、自分のキャラクターがようやく活動できる姿を見る事が出来るというのが楽しみで仕方がないのだろう。私も彼女の笑顔を見て嬉しいと思う反面、彼女の期待を裏切れないなと冷静になる。



私と松木さんは、その後駅から10分程のところにある、商店外の外れのある駄菓子屋の前にやって来た。駄菓子屋の外装はまさに昔ながらの『駄菓子屋』であり、内装も私にとっては懐かしいと言えるもので埋め尽くされていた。店の中で「すいませーん」と声を掛けると奥からこの店を切り盛りしているらしい人が現れた。それは笑顔が素敵な、親しみを込めて『おばあちゃん』と言いたくなるような女性だった。彩月さんと名乗ったその人が今回の依頼者である。おじさんが紹介してくれた仕事、それは昔ながらのこの駄菓子屋に集まる子供を店のマスコットとして相手をして欲しいというものだった。彩月さんは嬉しそうに


「本当に、まあ!!貴方たちがやってくれるって聞いて嬉しかったのよ!ありがとね」

と握手してくれた。


「おばあちゃん!!私と…Nさんに任せてください!ね?Nさん!」


「はい!!何とか期待に応えられるよう頑張りますので」


その後、軽い打ち合わせをした後、「あ、そうだ!!」と何かを思い出した松木さんはバッグからA4のノートを取り出して、私に手渡した。私は首を捻った。


「実はこれ、『設定集』なんです。ケロ子の…」

「ケロ子の…」


ノートには約10ページにわたってびっしりと『設定』が柔らかな綺麗な字で書かれてあった。結構設定が細かい。基本的な情報を紹介するとこんな感じである。



愛称   :ケロ子
フルネーム:蛙屋ケロ子
性別   :女の子
年齢   :ヒミツ
特技   :歌


家族構成とか、住んでいる場所とか、どういう事をする女の子なのか、という事は箇条書きでなくストーリー形式で書いてある。一部分を述べると、

『この世界の何処かにある、カエル村。その中で最近大人の仲間入りした蛙屋の長女ケロ子は、アイドルデビューを目指して人間界にやって来た歌が得意な女の子。だけどまだ人間にはあんまり知られていない。今は地方で地道に活動している…』


という感じである。なかなか上手い設定で私も感心した。設定の後には注意書きのように、「○○な時には△△感じで振る舞ってください」という要望も書かれている。松木さんは見た目に似合わず、しっかりと計画する人なんだなという事が窺われる文章だった。私はじっくりノートを読み込んで、頭にイメージを膨らませていった。
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