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憂いのガララ

小窓を開けた。眼下に見える景色をほうれん草と呼ぶ。正面の道を通り過ぎる自転車に乗った少年どもにはきっと未来が見えていると、柄にもない事を言ってみる。こいつはなんてこったのモロヘイヤ。記憶も吹っ飛ばして、安全弁を取り外した。と、危ない事も言ってみる。


「一体、何だと思っているんですかねぇ。最近道路工事が多すぎですよ」


工事が多いのは事実だ。実は最近、体長10メートル級の怪獣「ガララ」が現れて、道路に足跡を残してゆく。特に悪さをするわけではないが、律儀に道路を歩いて移動するので、住民も市も頭を悩ませている。市の財政は、「ガララ」のせいでひっ迫している。必要な工事について僕に愚痴をこぼす、近所に住むゲーム廃人の高良さん。


「まあ、道の補修は必要だからね。穴がボコボコ空いてちゃ車も出せないよ」


「そりゃあそうですけど、こっちにしてみりゃゲームの妨害になるのは工事の方ですよ」


「あんたその歳になってゲームの方が大事ってどういう頭してんのよ!」


常識人のマリアさんは、この町に来て2年、大分高良さんの扱いにも慣れてきたようである。マリアさんは地元の塾でラテン語を教えている。何故必修でもないラテン語なんて学ばせているかよく分からないが、マリアさんの熱血指導もあって塾は好評である。



「マリアさん。ゲームをしないと老けますよ。っていうか、ボク老け顔に見えるけどまだ20ですよ。」


「ゲームしても老けてるじゃん」



マリアさんの的確なツッコミ。高良さんはゲームのし過ぎで日常生活におけるやり取りでボケが進行している。天然ボケというよりは、醸成ボケである。流石に頭のネジが飛んでいるという自負がある僕でも、そこまでのボケはやろうと思っても出来ない。尊敬する。


「マリアさん、そんな事より「ガララ」の事についてもうちょっと真剣にかんがえましょうよ」


マリアさんは途端に難しい顔になる。


「わたしはね、自国の愛獣団体に所属しているの。基本的に獣を愛でるし、大目に見ることにしているのよ」


「僕はマリアさんの考え方には賛同できません。「ガララ」のせいで車が二回パンクしたんです。しかもそのパンクした日に限って町内でイベントがある日で、遅刻しちゃったんですよ」


僕は基本的に自分に害があると分かると厳しくなる。「ガララ」は地元のアイドルみたいな扱いをされているけれど、実際のところ実害を受けた者からすれば追い出したい事この上ないのである。高良さんが口を開く。


「でもね、太郎さん(僕の名前)…ボクらは言ってしまえば日曜の昼間っから飲み屋で愚痴をこぼしているだけなのです。特に見どころもないこの町のアイドルにしたいのか害獣認定するのかの判断を躊躇っている市は、確かに情けないですが、ボクらの内でもこうやって意見の対立があるわけだ。そしたら、議論が進まない理由も分かるような気がしませんか?」


「そうよ。怪獣が出現する確率はそんなに高くないんだし、超人的なヒーローに依頼するのもお金が掛かるし、ここは共存が良いとお告げに出てるわ!!」


「何のお告げですか?」


「神社のおみくじ。『災い転じて福となす』と書いてあったわ」


マリアさんのおみくじ云々については、多分気紛れだからスルーする事にして、マリアさんの言った超人的なヒーローに退治を依頼するには現金にして、この市の予算の二年分に相当する。そんな予算、どっかの篤志家でもいない限り無理だ。現実的ではない。かと言って、そのまま共存して、道路が滅茶苦茶になるんだったら、あとあとの事を考えて…とも思うはずである。


「いい…世の中というのは、何よりも現金が必要なのよ」


マリアさんは何かを悟ったかのような、遠い目をして言った。マリアさんがそう言ってしまう理由を僕は何となく知っている。何でもマリアさんの国は財政破綻気味で、実はマリアさんは半ば出稼ぎのような事でこの市で就職したという噂である。


「現金だけに、まーね。まねー。」


「は?」


「え…それはちょっと…」


クライマックスに完全にボケナス。僕は、ただ車がパンクしないようにと密かに祈った。
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