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こけしに焦がれる

時に後ろめたさを感じつつも、振り返ることなく前に進むようにして生きてきたけど、それは本当に前と呼べるか分らないところだった。私は組合に属している。組合とかいうと古臭いイメージで、何か政治的活動をやっているのだと思われるけれど、実質がないというか、ただ人が集まる為だけに「組合」を名乗っているけれど、活動はただ集まって何が出来るか考えているだけ。


実際のところ、問題は何ひとつとして解決しない。そもそも何の組合なのかよく分からない。気が付いたら何かをしようとして行き場のない人が、そこに集っていて、「何をしようか」と話し合っている空間が出来あがっていて、私はそこの副代表をやっている。


ある組合員は言う。


「このまんまじゃいけません。何かしましょう」


私は冷静に諭す。


「だから何を?」


そうすると組合員はそれきり口を閉ざして何も言わなくなる。要するに、皆何を目指しているのかよく分からないし、多分見失っているのだろうと思う。いま喋った組合員は比較的若く、政治や社会問題に詳しいわりに、ビジョンがなく、傍目からは焦っているように見える。別な組合員、古株だが特に何をしたというわけではないAさんは重々しく口を開く。


「僕らはね、多分やりたいことがないんだと思う。だけど何かやらなきゃって思いで集まっているんだよね」


それは分かるけど、中身が無けりゃ何にもならないわけで、何でもいいからやろうと言うけれど、集団になると身が重くなるのか、だれも取り仕切る人がいないのか、動いたためしはない。組合の代表は一応形式的に何かを言う。



「私達がすべきことは、未来に何を残せるか考える事ではないでしょうか?」


そこでまだ入ったばかりのBさんはすかさず揚げ足を取る。


「具体的に何を残すんですか?」


代表はそこでいつもの様に逃げ回る。


「それをこれから考えるのです。君も考えてください」


私はこの光景を見て、いつも終わっているなと思うが、孤立するよりはマシだと思ってついつい、ここに参加してしまう。見限ったところで一人では何も出来ないという事を良く知っているのだ。その時、一番この組合に興味が無さそうなCさんがスマホを弄りながら呟く。


「活動って言っても、要するにみんな自分の待遇が良くなれば何でも良いんじゃないの?未来に何か残すとかって、それは聞こえはいいけれど、自分達が楽しく暮らせりゃそれでいいわけじゃん?」


「…そんなことは…」


それはまさにそうだ。何の事は無い。『崇高な活動』というイメージだけがあって、本音と建前で言えば、本音の部分に自分達が楽しく何かをやりたいという事が入っていないならば、それは虚飾でしかない。ただ単にやりたいことが、他の人からすれば崇高に見えるだけで、全然他の人に対して何も与えていない活動というものも多分存在するだろう。結果的にそれは自己満足になるわけであって、何となく建前の綺麗ごとなんだなと思えてしまう。


世の中を良くするとか、変えてゆくとかいうけれど、意識というものを強引に変えようとするのはある種洗脳だし、傍迷惑だ。要するにみな自分のペースがあって、それで自分で分って変わるのだ。他人の為になる事を続けてゆける社会が訪れた事はあるだろうか?他人の為を思うなら、『放っておいてくれ』という結論も出てくるような気がして、そうなると互いは余所余所しく、今ここの雰囲気みたいに、関係があるのに関係がないような関係になる。



私も批判ばかりをしていてもしょうがない。当事者意識を持つならば、何かを言う必要がある。あるいはサイレントマジョリティーを気取るしかない。


「…私は思うんです。今進んでいる方が「前」だって、言えるんでしょうか?」


Cさんは「何を言っているんだこいつは」と言った目で私を見ている。Bさんは一応聞き耳を持ってくれているようだ。Aさんはもう聞いていない。代表は、真摯に聞こうとしている。


「前っていうのは、目標がある時に言うことです。目標が無いのですから、これは行き当たりばったりの、ただ何でもやってみるという事以外の何もないような状況なのではないでしょうか。そしてどの方向に進んでも、何かを置き去りにし、大切なものを忘れ、それでも何処かに進むしかないような、そういう時間なのではないでしょうか?少なくとも目標が出来るまでは、そういう時間を繰り返すしかない」


「で?哲学的な事は良いから、楽しい事って何よ」


Cさんは根本的なところに対して容赦がない。だがそれもある意味そういう役を自分から進んでやっているのではないかと思える時がある。常に客観的視点で何かを見つめている人なのだろう。それが問題がないというわけではないが、私は微かな手ごたえを感じる。


「とにかく、今は苦しくても何かをやってみませんか?結局未来に残すってそういう事なんじゃないでしょうか?その行為が苦しくても楽しい事だったりするのでは?」


Cさんは「ふっ」と笑ってみせる。しかしすぐに厳しい口調で言う。


「そんで?分ったけど、だから何やるのさ?」


「例えば…こけし研究とか…」


「「「ん?」」」


一同の声が重なった。こけし研究とか、あんまりやらなそうだし、誰もやってなさそうだから面白くないかって思ったんだけど、脈略がなさ過ぎるようである。説明すると、Cさんはからからと声を挙げて笑い転げた。


「嫌いじゃないけど、好きでもないな…こけし」


代表の無難な一言で、もうちょっと案を出さないといけないと思う私だった。
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