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猫通り

表通りよりも裏通りの方が好きだ。私は通りには人が少ないのを確かめてきょろきょろと辺りを見回しながら歩く。何か面白いものはないだろうか、意外なものはないだろうか、目と耳で探しながらますます入り組んでいる道にわざと迷いこんでみる。でも、本当の目的がある。


「たいていこういう所には『あの子達』が…」


『あの子達』はこの街ではあたりまえのように見かける。あの子達は到る所に居る。特に人気が少ないところなどに。


「あ、居た!!おいで」


私が見つけたのはその辺りでよく見かける白と黒のぶちの猫。私は「ぶちろう」と呼んでいる。ぶちろうは、緑の首輪をつけているから多分飼い猫なのだけれど、誰にでも愛想よく懐くので、この辺の人が可愛がっている姿を良く見る。


「うにゃーん」


「お!えらーい」


当然、私にも懐いてくれる。自分のアパートでは飼えない猫。実家には二匹の猫がいるから、ここでぶちろうを可愛がるのはその子達にとっては浮気になってしまいそうだけれど、ぶちろうは私にとって「アイドル」みたいなものだ。屈んで身体や頭を撫でてあげると気持ちよさそうに目を細める。私の顔も緩んで自然と笑みがこぼれる。その時だった。


「おーい、コロ~。どこ行ったの~」


近くから聞こえたその声にぶちろうはピクッと反応した。声はだんだん近づいてきて、私が来た方向の反対側からエプロン姿の女性が現れたと思ったらぶちろうを見て「あっ」という顔をしている。


「あ、コロ。またここに居たの?」


私は女性に会釈して、立ち上がった。


「あ、良いのよ。ちょっとコロが気になっただけだから」


「この猫、「コロ」って言うんですか?」


「そうよ。コロコロ気変わりするからコロ」


「私、猫が好きで、実家には居るんですけど、アパートでは飼えなくて。だからついつい猫を見かけると触りたくなっちゃうんですよね」


「そうなんだ。コロはね、とにかく人懐っこくて特に女の人が好きな子なのよ」


「え~そうなんだ」


「身体も大きくてまるで雄のような雌よね」


「え…あ、この子女の子だったんですか?」


「そうよ」


「てっきり男の子だとばっかり思っていました」


まさか「ぶちろう」などと失礼な呼び方をしていたとは言えまい。しばらく話をしていて分ったのは、女性は近くの和菓子屋さんの奥さんだそうで、コロはそこの看板猫でもあるという事。なるほど看板娘って事か。


「良かったらうちに寄ってちょうだいよ」


「はい。是非」


立ち話もなんだからという理由で、私は和菓子屋さんに招かれることにした。店は本当に近くにあって、かなり老舗という感じがした。コロは奥さんに抱えられて戻ってきた。中に入ると、最初に目についたのはショーケースの中の栗の入ったどら焼きである。他にも色んな和菓子がならんでいたけれど、栗が好きなのでそれをいただくことにした。


「ありがとうございます」


「あの、ここで食べていって良いですか?もし宜しければコロの話聞かせていただけませんか?」


「いいわよ。ちょっと待っててね。あ、ここに座ってちょうだい」


と言って店の片隅の机に案内される。奥さんも正面に座る。


「コロの話ね。実はねコロはおばあちゃん子だったのよ」


「お母さんですか?」


「家の旦那のお母さんね。この店結構歴史があって、私は嫁いできたの。それで、コロもおばあちゃんが拾ってきた猫だったの」


「おばあさんは今どちらに?」


「去年亡くなってしまったの…」


「あ…すみません。なんか」


「いえいえ。話が出来る人があんまり居なかったから思い出を話せておばあちゃんも喜んでいると思うわ。でね、コロはおばあちゃんにとても良く懐いていたの」


「それじゃあ、居なくなってコロは…」


「でも、確か亡くなってしばらくしたらコロがやたらと外に出たがるようになったのよ。それまでは家の中にいる事が多かったのに、で、気付いたらいつの間にか外に出て愛想ふりまいて可愛がってもらっているのよね。もともとコロはおばあちゃんと私と旦那とでは態度がコロコロ変わる猫だったんだけど、私には結構懐くんだけど、旦那には「ぷん」って感じだし、外に出れば出たで、女性に対しては愛想が良いのよ」


「なんなんでしょうね。」


「さあね…でもね、おかげでこのお店、女性のお客さんが増えたのよ。前までどちらかというとお年寄りが多く立ち寄ってた店だったんだけど、貴女と同じくらいの女の人とか、私くらいの女の人とか、結構コロが呼び寄せるのよね…」


私も呼び寄せられたのか…と一瞬思ったけれど、どら焼きがとても美味しかったので気にならなくなった。と同時に私の頭にはあるイメージが浮かんできた。コロとおばあちゃん、おばあちゃん、和菓子屋…


「もしかすると…コロ、おばあちゃんに何か託されたんじゃないですか?『この店を頼むよ』って感じに」


「ふふふ…貴女面白い事言うのね。でもそうね、もしかするとこの店の為にそうしているのかもね」


「あと、私達の為にも。だって、私猫を探していてこうして素敵なお店に出会えましたし。奥さんともこうしてお話できました」


「あらっ、口が御上手ね!」




『あの子達』は私達を裏通りに招き入れる。『あの子達』ならではの気紛れさと、優しさで。
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