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保管

連休を利用した帰省中、実家で謎のメモを見つけた。


『あれは俺が保管しなければならない』


それは小さなメモ用紙に書かれたもので字体から察するに、どうやらそれは兄が残したもののようだった。几帳面で綺麗な字を書く兄にしては珍しく、走り書きのようで、わざと分り難くしているようでもあった。兄が何を考えて書いたかも謎であるが、このメモの内容が本当だとすると、兄が何かを保管しているという事になる。久しぶりだが兄に電話してみようと思った。


「もしもし?兄ちゃん、久しぶり」


「おう。なんだ。元気にしてたか?」


「あ、今実家なんだけどさ」


「そうか。こっちはまだ仕事があって、今回は行けるかどうかわからない」


「そうなんだ。ところでさ、何かこっちで兄ちゃんの書いたっぽいメモが見つかったんだけど」


「え…?なんだって?すまないがもう一回言ってくれるか?」


「なんか、『あれは俺が保管しなければならない』っていうメモ」


すると兄は急に黙り込んで、二人の間にしばらく沈黙が訪れた。


「…弟よ」


何かとても重々しい様子になっている。


「何?」


「悪いことは言わない。それ以上、家の中を探し回ってはいけない。あと、急きょ予定が変わったから、今日中にそっちに向かうから。とにかくそれまで、決して家の中を漁ってはいけない…」


「え…何で?」


「何でもだ。とにかく直ぐにそっちに行くから」


すると電話はぷつーんと切れ、一瞬呆然としてしまっていたが、ふとメモを見直して「これは探すしかないな」と確信した。絶対に怪しい。そうと決まれば探すところは当然兄の部屋である。私はスイッチが入ったように、急いで二階へと駆け出し、兄の部屋にやって来た。兄には悪いような気がしたが、昔兄にもよく悪戯されたからその仕返しという意味でこれは正当化されるだろう…と自分に言い聞かせた。


だが兄の部屋を探していてもあるのは難しそうな本ばかりで、ノートもあるが恐らく勉強用のノートだから特に変わったものはない。


「何もないじゃん」


私は先ほどまでの勢いが急激に失われてゆくのを感じた。面倒くさくなって、部屋を後にしようと思ったとき、たまたま机に激突してしまって、その振動で一冊のノートがぽろっと下に落ちてしまった。慌てて拾い上げると、それは意外なものだった。ノートの表には「創作ノートⅡ」という題が書かれてあって、悪いと思いつつも好奇心からチラッとだけ覗き見ると、複雑で良くは分らないが、小説の構想のようなものがそこには書かれてあった。


これが兄が保管しようとしていたものなのだろうか?



数時間後兄が帰ってきた。母は兄の突然の帰省に驚いていたようだが、兄は会話もそこそこに自分の部屋に籠って何かを始めているようである。私は閉めきってあるドアをノックする。


「兄ちゃん。何してんの?」


「いや、何でもない。整理しているだけだ」


「あ、そういえばさ、兄ちゃんて何か「創作」してるの?」



すると、兄はドタドタとこちらの方に駆けてきて、ドアを勢いよく開け放ってすごい形相で私を見つめながら言う。


「何故それを知っている?さてはお前、この部屋に入ったな!!」


「でも何も見つかんなかったよ。保管しているっぽいものって何も無かったし」


「いや…だからそれは何というか、保管されているものは無いんだよ」


「え?でもメモにあったじゃん、保管しなくちゃって」


兄は「はぁ…」と深いため息をついた。そして悩ましげな顔で言う。


「どうしても説明しないと駄目か?」


「うん。お願い」


「まあ、もう半分ばれているようなものだからな…仕方ない」


「なになに?」


「設定だよ。書いた小説の設定…この前帰省した時に浮かんでとっさにメモ用紙に書き残したのが拙かったかな…」


「じゃあ、保管するっていうのも小説の設定?」


「そうだ。実を言えばこの設定を説明するのが一番恥ずかしいんだ」


「なんで?」


それまでとは一変して当惑しながら兄は語る。


「あのさ、ある日お前がこの世界にモンスターを実際に呼び寄せられる装置を開発したとしたら、どうする?」


「は?」


「いや、そのままの意味で、モンスターを呼び寄せられる装置を開発したとしたらどうするよ」


「えっと、多分、使い方に困るかなと思うね…普通は」


「そうだろう。だからその装置を保管しようとして、悪用しようとする組織に追われるっていう物語を構想したんだよ」


「あ、それで保管…」


兄は生真面目で、小説を書くにしても普通の小説だと思っていたから、SFというかファンタジー小説を書いているとは思わなかったのでちょっと吃驚している。


「まあ、この創作ノート自体が俺にとってはモンスターみたいなもんになってしまったんだけどな」


「ははは…」


苦笑いするしかなかった。ちなみに後日、兄がネット上で公開しているという小説を読ませてもらって以降、私が小説についての感想を求められるようになってしまったのは、果たして良かったのか悪かったのか…モンスター装置の小説を最後まで読んだ感想は、


「やっぱり保管しておくべきだな」


という事である。
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