いやな食事会
食事会に招かれた客はみな一様に微妙な表情をしていた。テーブルに並んでいるディナーがなかなか減らない。その原因は味が微妙だという事である。会を企画した太郎は場を和ませるためにとっておきのギャグを言う。
「空調が悪いですが、食うちょう」
空調だけでなく、空気も不味くなる。しかし企画者の太郎の味覚が変なのか、太郎は料理が不味いという事に気付いていないようである。太郎にパワハラ紛いで半ば無理やり参加を強要された陽子はこの時間が続く事の方が不味い料理を食べる事より苦痛だったため、そんな中でも全く意に介せず食べ続けている。その様子を見て何か勘違いしたらしい年長の洋二郎は、
「おや、お嬢さん。良い食べっぷりですね。なんなら私の分も食べてもらって結構ですよ」
と陽子に押し付けようとする魂胆が丸見えである。
「いえ、結構です」
「そんな事言わずに、その量では足りないでしょう?」
「いえ、私は早食いなだけですから」
ちょっとキレ気味に嘯いた陽子は、人を殺せそうな視線で太郎を睨みつける。危く余計に食わされそうになった事について相当イラついているようである。洋二郎の妻のシェリーは何かを思いついた様子で突然立ち上がった。
「やっぱり慣れない日本食はなかなか食べにくいですわ…ごめんなさいね」
「嘘つけ。お前昨日も今朝もずっとうちは日本食だ」
洋二郎が告げ口するとシェリーは洋二郎を宿敵のように見始めた。「この旦那は肝心なときに役に立たない」とでも言いたげである。洋二郎はわざとらしく咳をした。一同の様子を冷静に観察していた修平は、場に相応しくないような陽気さを装って言った。
「みなさん!太郎さんが用意してくれた料理が不味くなってしまいます。ここは何か面白い話でもしませんか?」
「面白い話って?」
ほとんどやけくそで料理を口に入れていた陽子はこの会食が長引くのが嫌なのでドスを効かせながら言った。修平は不敵に笑う。
「では私から…これは今みたいに幾人かの人がある館に集まってディナーを開いた時の話です」
「ほうほう」と言った洋二郎は興味があるようである。妻は興味が無いのかあさっての方向を見ている。
「面白そうですね、続けて下さい」
太郎の了承が得られたので修平は話を続けた。
「その日も今日みたいに嵐の日でした…」
「嵐じゃないわよ」
陽子の的確なツッコミは受け流して修平は進める。
「AさんとBさんは「おい、この料理は美味しくないぞ」と出された料理について文句を言いました」
「同じね」
シェリーは小声でだが厭味っぽく言う。洋二郎は「こら!」と窘めて「どうぞ」と修平に微笑みかける。
「AさんとBさんの発言に館の主は肩をすくめて、「お口に合わず残念です…ではお帰り下さい」と言いました。しかし嵐の中をどうやって帰ればいいのでしょう。AさんとBさんは嫌々ながら食事を再開しました。それを見守っていたCさんは、彼等が何もしないのを見て主に言いました。
「ご主人。このお二方は料理が不味いと言っているのです。でしたらこの場合はご主人が料理を用意し直す必要があるのではないですか?」
「それもそうですな、ですが食材がもうありません」
「それならば良い考えがあります」
するとその場に沈黙が訪れました。皆一様にCさんの一言を待っていますが、なかなか喋ろうとしません。あんまりにも長い沈黙だったので、食事を中断していた皆の前に置かれている料理はすっかり冷めきってしまいました。
「ああ…何という事だ。これではもう食べる事が出来ない」
仕方なく料理を片付けると、すっかり嵐は過ぎ去っていて、皆は館を後にしました」
話し終えると修平はニヤリと笑った。そして洋二郎に目配せをした。その意味を了解した洋二郎は、
「ほぅ…面白い…では私が次の話をしよう」
と言った。洋二郎は話をしようと言ったきり押し黙ってしまった。場に沈黙が訪れるかに見えたその瞬間。
「あ゛ぁ?何言ってんの?さっさと食べてお開きにしましょうよ。こんな不味いもん食ってしかもご飯が冷めるまで待つなんて私はいやよ!!」
と無理やり料理を胃袋に押し込んでしまった陽子が荒々しい言葉を一同に投げかける。修平と洋二郎は「ちっ」と舌打ちをした。シェリーは最早白目を剥いている。場の空気が最悪になったところで太郎が能天気に口を開く。
「そんな陽子さん。不味いなんて意地悪を言って。美味しそうに食べちゃったじゃないですか。はははは!」
「あらそうね。美味しかったわよ、『とっても』。皆さん先ほどのお話のように冷めてしまうと勿体ないからお早め召し上がれ!!」
陽子は邪悪に哂っている。修平と洋二郎は苦笑いせざるを得なかった。
「空調が悪いですが、食うちょう」
空調だけでなく、空気も不味くなる。しかし企画者の太郎の味覚が変なのか、太郎は料理が不味いという事に気付いていないようである。太郎にパワハラ紛いで半ば無理やり参加を強要された陽子はこの時間が続く事の方が不味い料理を食べる事より苦痛だったため、そんな中でも全く意に介せず食べ続けている。その様子を見て何か勘違いしたらしい年長の洋二郎は、
「おや、お嬢さん。良い食べっぷりですね。なんなら私の分も食べてもらって結構ですよ」
と陽子に押し付けようとする魂胆が丸見えである。
「いえ、結構です」
「そんな事言わずに、その量では足りないでしょう?」
「いえ、私は早食いなだけですから」
ちょっとキレ気味に嘯いた陽子は、人を殺せそうな視線で太郎を睨みつける。危く余計に食わされそうになった事について相当イラついているようである。洋二郎の妻のシェリーは何かを思いついた様子で突然立ち上がった。
「やっぱり慣れない日本食はなかなか食べにくいですわ…ごめんなさいね」
「嘘つけ。お前昨日も今朝もずっとうちは日本食だ」
洋二郎が告げ口するとシェリーは洋二郎を宿敵のように見始めた。「この旦那は肝心なときに役に立たない」とでも言いたげである。洋二郎はわざとらしく咳をした。一同の様子を冷静に観察していた修平は、場に相応しくないような陽気さを装って言った。
「みなさん!太郎さんが用意してくれた料理が不味くなってしまいます。ここは何か面白い話でもしませんか?」
「面白い話って?」
ほとんどやけくそで料理を口に入れていた陽子はこの会食が長引くのが嫌なのでドスを効かせながら言った。修平は不敵に笑う。
「では私から…これは今みたいに幾人かの人がある館に集まってディナーを開いた時の話です」
「ほうほう」と言った洋二郎は興味があるようである。妻は興味が無いのかあさっての方向を見ている。
「面白そうですね、続けて下さい」
太郎の了承が得られたので修平は話を続けた。
「その日も今日みたいに嵐の日でした…」
「嵐じゃないわよ」
陽子の的確なツッコミは受け流して修平は進める。
「AさんとBさんは「おい、この料理は美味しくないぞ」と出された料理について文句を言いました」
「同じね」
シェリーは小声でだが厭味っぽく言う。洋二郎は「こら!」と窘めて「どうぞ」と修平に微笑みかける。
「AさんとBさんの発言に館の主は肩をすくめて、「お口に合わず残念です…ではお帰り下さい」と言いました。しかし嵐の中をどうやって帰ればいいのでしょう。AさんとBさんは嫌々ながら食事を再開しました。それを見守っていたCさんは、彼等が何もしないのを見て主に言いました。
「ご主人。このお二方は料理が不味いと言っているのです。でしたらこの場合はご主人が料理を用意し直す必要があるのではないですか?」
「それもそうですな、ですが食材がもうありません」
「それならば良い考えがあります」
するとその場に沈黙が訪れました。皆一様にCさんの一言を待っていますが、なかなか喋ろうとしません。あんまりにも長い沈黙だったので、食事を中断していた皆の前に置かれている料理はすっかり冷めきってしまいました。
「ああ…何という事だ。これではもう食べる事が出来ない」
仕方なく料理を片付けると、すっかり嵐は過ぎ去っていて、皆は館を後にしました」
話し終えると修平はニヤリと笑った。そして洋二郎に目配せをした。その意味を了解した洋二郎は、
「ほぅ…面白い…では私が次の話をしよう」
と言った。洋二郎は話をしようと言ったきり押し黙ってしまった。場に沈黙が訪れるかに見えたその瞬間。
「あ゛ぁ?何言ってんの?さっさと食べてお開きにしましょうよ。こんな不味いもん食ってしかもご飯が冷めるまで待つなんて私はいやよ!!」
と無理やり料理を胃袋に押し込んでしまった陽子が荒々しい言葉を一同に投げかける。修平と洋二郎は「ちっ」と舌打ちをした。シェリーは最早白目を剥いている。場の空気が最悪になったところで太郎が能天気に口を開く。
「そんな陽子さん。不味いなんて意地悪を言って。美味しそうに食べちゃったじゃないですか。はははは!」
「あらそうね。美味しかったわよ、『とっても』。皆さん先ほどのお話のように冷めてしまうと勿体ないからお早め召し上がれ!!」
陽子は邪悪に哂っている。修平と洋二郎は苦笑いせざるを得なかった。
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