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動きだした時

私は壊れた時計を手に取った。仕事場の後輩は冷蔵庫を漁りながら言う。

「先輩、何もないっすね」

「無いよ。だって買ってないもん」

「家に招くのに、何も買ってないってあり得なくないっすか?」

「だから昨日言ったろ。何もないって」

「それは普通何か面白いものとかないかっていう意味で訊いたわけで、まさか食べるものも飲むものもないなんて思わないでしょうに」


私は後輩をほったらかしにして時計を修理しようとしていた。といってもそれは直らないだろうと思う。かなり前に高いところから落下した時の衝撃で壊れてしまって、直そうと思っているのだが私の技術では治せないのだ。それでもその時計は私にとって大切だった。直る見込みは薄いけれど、手持無沙汰な時とかは適当に弄ってみて時間を潰していたりする。


「あっ!!みっけー!!先輩、こんなところに栄養ドリンクあるじゃないっすか」

目聡く私が愛飲しているドリンクを見つけたようである。

「おい。そんなもの休日に飲むなよ」

「いいじゃないですか。のど乾いてるんですよ」

そう言うと、彼はグビグビと飲み始めた。遠慮というものを知らない奴なのは知っていたので特に気にしなかった。

「あー。それにしても懐かしいなこの味。『ポビリタンX』!!」

「なんで?」

「いやね、俺高校時代に部活で良く飲んでたんですよ、これ。最近飲んでなかったから」

「っていうかそれ普通の栄養ドリンクだろ。どこにでも売っている」

「いや、でも何かその部活では『それが公式の栄養ドリンク』だからだそうで」

「へぇ~。変な部活があるんだな」


『ポビリタンX』といういかにもパクリっぽい栄養ドリンクを公式にするなんて、変な部だと思った。私は修理する手を止めて、後輩の方を向いて訊いてみる。


「それって何部?」

「ああ、正確には部活じゃなくて同好会です。俺がいた頃には部員が5人でギリギリ活動できてたんですよ。名前が…えっと、ちょっとド忘れしちゃった。でも変な名前なんですよ」

「同好会か。懐かしいな。俺も高校で同好会自分で創ったんだよ。部員集めるの大変だったよ」

「へぇ、先輩もですか。そう言えば先輩ってこの県出身ですよね。」

「ああ。確かお前もだろ」

「はい。でも先輩より5つ位下だから先輩とは話合わないかも知れないですね」


高校時代に私が創った同好会は特に何かを目的としたものでもなく、兎に角友達と駄弁りたい一心で創設したのだが、生徒会に真面目な活動をしているとカムフラージュする為に「地域社会の文化研究会」というそれらしい名前がその会には与えられた。思えばそこで残したものは、部費で購入したカムフラージュ用の真面目な本と、『文化』のところを強調して無理やり部費で落とした本である。ばれない様に無作為に集めていった結果、哲学書からライトノベル、はてまた音楽理論からコンピュータ言語の本など、多様性に溢れる本棚になってしまった。


「懐かしいな。同好会では喋るか本を読むかどっちかだったな」


「先輩の方もですか。俺たちの同好会もそうでしたよ。正式名称は忘れちゃったど「ちしゃぶん」って呼び習わしてましたよ」

「ふーん…」


「ところで、先輩。時計直しているみたいですね。俺それと同じ時計直したことがあるから貸してくださいよ」


「え?直せるのか?」


「ええ。さっき言った同好会で使ってた時計と同じやつだから直せると思いますよ」


私は意外と頼りになる後輩だなと思った。そういえばこの時計は同好会用に買った時になかなかいい時計だと思って自分用に個人的に買ったものでもある。結構偶然があるものだなと思った。後輩は器用にドライバーを使って修理してゆく。


「ああ。そう言えば俺が一年の頃の三年の先輩に、その部室にあったコンピュータ言語の本でプログラミングを勉強をして今ちゃっかりプログラマになっている人がいますよ。何か、音楽の本とか哲学とか、滅茶苦茶な本ばっかりだったんですけど、自分の好きな本を見つけて読んでて、俺は主にラノベ読んでましたね。何の同好会だったんだろう?」


私は一応、念のためだが訊いてみた。


「なあ。その同好会って、「地域社会の文化研究会」じゃなかったか?」


「ああ!!そうですよ…って、え?」


後輩も私も同時に驚いていた。私は確認する。


「もしかして、お前が通ってた高校って、県立の北高じゃなかったか?」


「は、はい。そうです…じゃやっぱり…」


「俺が創った同好会だな…」


両者とも固まって沈黙してしまった。こんな形で同好会の存続を知ることになるとは思わなかった。何しろ私の代でも部員が集まらなくって、多分二年後輩が卒業する頃には廃部になるだろうと考えていたからである。そうか、あの時唯一の一年だったあいつが続けたのか…


「三年の先輩が言っていたんです。この同好会では創立者が愛飲していた『ポリビタンX』を飲むことが決まりだけど、後は自由にやっていいって。まさか職場の先輩の事だったとは思いませんでした」


「俺もだ…。おっと、こうしちゃおれん…」


「どうしたんですか?」


「普通の後輩だったら構わないが、あの同好会の後輩だったらもてなさなきゃいけないだろう!」


「ああ、思い出しました。同好会の唯一の規則『会員はもてなすべし』ってやつですね」


「そうだ。ちなみにあれは、会員を集める為の作戦だったりする」


「その作戦、受け継がれていますよ。ほら、出来た」


頼もしい後輩の手に掛かって魔法のように動き出した時計は、再び時を刻み始める。
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