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政治口調

「改革を断行するべきだ」と彼は言った。


政治家でも活動家でも何でもないただの一般市民の私の彼氏は、事あるごとに演説口調になる一風変わった人だ。以前など、ただの買い物の時に「歳入をきっちり考慮して歳出を抑えるべきだ」と面倒くさい喩えを用いて、「無駄遣いするな」という事を言おうとしていた。だけど、オシャレの為の服を買うのは必要経費です、と返したら「一理ある」と納得してしまった。似たような事はテレビを見ている時にも起る。バラエティー番組の大して面白くない司会者がダラダラと進行していてしびれを切らしたのか「議長の辞任を求める!!」とか言い出したと思ったら、数分後司会者が素晴らしいアドリブで笑いをとって「さすがは議長だ」とあっけなく手のひらを返してしまった。

大事なときにブレブレになってしまう駄目な政治家の見本のように見えたのは私も毒されている証拠だと思った。それはともかく、「改革を断行するべきだ」と言った彼は、何について「改革」の必要性を訴えたのだろう。彼は続ける。


「我が国家には不必要な物が余りにも多すぎる。他国に売却してスリム化を図ったのち、改革によって国家を再編するべきだ」


物が多く窮屈になっているこの部屋の事を「国家」に喩えたのは良いとして、あとは言葉の雰囲気で察するしかない。

「要するに、何処かに売りに行って、部屋を整理しようって事でしょ?」


言うと彼は黙ってうなずいた。


「っていうか、この部屋汚いっしょ。そろそろ大掃除しないと…」


面白い事に、演説が伝わると彼の口調は普通になる。「改革」と言ったわりに、結構家庭的な内容なのも彼らしい。


「そうね。じゃ頑張って」


「…」


彼はまた沈黙した。大体の場合、この間になにか演説の内容を考えているようである。私は身構える。


「国家の中で連携してゆかなければ事は上手く運ばないであろう…」


「私も手伝えって事?だって、ここあなたの部屋だし、物もあなたの物ばっかりよ」


「助け合いの精神を大事にしましょう…」


「それじゃ演説じゃなくて、何かの標語よ!」


私がつっこむと、彼は慌て出した。


「いや、最近の政治家も結構言うって。演説は人心掌握の術みたいなものだから…」


「私の心も掌握しようとしているわけ?」


「…いや…その…」


墓穴を掘ってしまったようである。多分このあとブレブレになるだろうと思ったら案の定、


「ほら、心はみんな繋がっているって良く言うじゃない。そんなもんだよ。ははは」


こうなってくると意味不明である。ちゃんと最後まで考えていないと言うことがよく分かる。だけど、そんな彼の事が嫌いじゃない私がいる。


「…そうね、私とあなたの心は繋がっているもんね」


「えっ…」


「えっ…って何よ。違うの?」


「いいえ、違いませんけど、なんかニュアンスが違うような…」


「政治家は弁がたたないと務まらないわよ」


「いや、俺政治家じゃないし…」


「いいから、さっさと整理始めましょ!」


「あ…そうだね」


そう、彼は政治家でも何でもない。口下手で、本当はシャイな私の彼氏である。
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