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ATJ アナザー⑧

ケロ子に扮した私はとりあえず店の前で立っている事にした。天候に恵まれた事もあって、着ぐるみの中は適温といえた。5分ほど待っていると向こうからお客第一号がやって来た。それは小学3、4年くらいの男の子で、彩月さんは「あの子は常連さんよ」と告げた。私は気合を入れて可愛いと思われるポーズをとる。


「うわぁ、なんだこいつ!!」


私を、というか「ケロ子」を見て最初に訪れた男の子は驚愕したらしい。慌てて松木さんが解説に入る。


「こ、こんにちは!!あのね、この子は「ケロ子」って言うの。カエル村からやってきたアイドル志願の女の子よ!」


いつもとは店の様子が違うという事に気付いたらしい男の子は、若干引き気味になりながらも、


「ふーん…そうなんだぁ」

と一応納得する。私はここで何かをしなければいけないと思って、以前松木さんが私にもそうしたように、男の子に向かって手を差し出した。男の子は身構える。すかさず松木さんがフォローする。


「あのね、ケロ子ちゃんが握手してほしいんだって」


「え…何で?」


「何でって…お…お友達になりたいからよ」


「そうなの?」


「そうよ。ね!!ケロ子!!」


話の流れ的に頷かないとまずいと思った私は、目一杯首を上下に振る。微妙に頭部がガクガクしているので、どう見えているか心配になった。


「うわっ…き…」


「き?」


「キモーい!!!!!!」


「えー何でよ!!可愛いじゃない!!」


子供相手にマジになる松木さん。密かに惧れていたように、「ケロ子」は正直言ってグロテスクなところがあって、可愛いよりも生理的に駄目な子もいるんじゃないかと思ったが、案の定そうなのかと確信しそうになった。が、ここで意外な事が起こった。


「キモいけど、なんか面白い。キモ可愛い!!!」


「え…そ、そう?」


松木さんは自作のケロ子が意外な評価をされて動揺している。確かに、今流行の船橋市の非公式あたりはキモいところがあるから、案外ありなのかも知れない。興味を示してくれた男の子は満面の笑みで手を握ってくれる。ちなみに私の姿は上半身から下半身までブカブカした黄緑色の生地に覆われていて、手にはカエルの水掻きらしいものがついている。話によると、ケロ子を作る為に数ヶ月分のバイト代が全部吹っ飛んだとかなんとか。私は自分の手を見てなるべく傷つけないようにしなきゃなと思った。


と思った矢先に、男の子は私の…ケロ子の身体中をペタペタと触ってくる。特に頭部が気に入ったのか、隙を見て、頭部を回転させようとして来る。完全に頭に被っているだけの頭部は着脱が容易だが、これが外れてしまうと、二十代後半の男性の顔がにゅっと出てきてしまう。


「ねぇねぇ!!中に誰が入っているの?男?女?」


「中には誰もいません!!ケロ子はケロ子なの」


「嘘だぁ~」


と言いつつも、男の子は何だかんだで喜んでいるようである。店の中でいつものように駄菓子を数種類買ったその子は、帰り際に私に何かを差し出した。


「はい。これあげる。疲れたら飲んでね」


「…(こっくりと頷く)」


「ありがとうね。じゃあね~」



私が貰ったのは、駄菓子の定番の一つでもあるチューブのジュースで、懐かしいけれど今見るととても甘そうな上に着色料が物凄く入っていそうな水色をしていた。男の子の優しさにちょっと感動してしまった。松木さんも同じだったようで、


「なんか、楽しいですね!!」


「…(こっくり頷く)」


声を出してはいけないような気がするのは、何故なんだろう。それから続いて、数人の男の子と女の子のグループがやって来て同じように対応していると、さっきと同じような反応をされるものの結構好評で、私は自信を持ち始めた。


「ケロ子はね、歌が得意でアイドルを目指しているの!!」


「へぇ~○○ちゃんと同じだね」


特に女の子に向かって熱心に説明するのは、子どもと言えどもきっと同性なら理解してくれると思ったからに違いない。概して女の子の方が可愛さが分るらしく、男の子は大抵『キモ可愛い』に収まっていくという展開がその後も見られた。
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