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ガムの思い出

自作の曖昧な味のガムにしっくりくる名前を与えて販売し、消費者にセンセーショナルを巻き起こしてあわよくば自分の名前を業界に売り出そうと思った太郎、弱冠21歳は肝心のしっくりくる名前が思い浮かばなかった。

年初めに名前を考え続けて早くも年末になろうとしている。これではまずいぞと焦り出した太郎は、表現力豊かな人の力を借りようと思い、かねてから交友のあるオリエンタルアートを目指しているアーティスト、バンデンラ・ゴジジウの元を電撃訪問した。彼は丁度、食事中だった。食生活の酷さが窺われるレトルトカレーだけの昼食で腹を満たしているゴジジウにとって、太郎の依頼を果たす事によって得られる報酬はこの上ない魅力だった。彼は太郎に、


「任されよ」


とだけ言った。太郎はゴジジウに持ってきた曖昧な味のガムを渡す。いつになっても完成しないオリエンタルアートが部屋中に飾られているのを見て、太郎は何気なしに訊く。


「これはいつ完成するの?」


「もうすぐだよ」


ゴジジウは即答した。太郎が訊いたところによると以前ゴジジウは師匠にアサリの貝殻を巻貝状に並べている際に、それを理不尽に踏み潰されたそうである。その悔しさで完成したポエム



もうそろそろだ。あの広大な大地「アルベルト」を踏みしめるのは。
そこで僕は「アルベルト」と叫ぼう。この激情を越えて、地平線の
向こうへ、僕は船を扱ぎだす。


アルベルト。アルベルト。逆さから読むとトルベルア




を太郎は地平線ではなくて水平線ではないかと思ったり多少のつっこみどころはあるもののなかなかの出来栄えだと思って聞いていたが、それからどうなったのだろう。師匠についてバンデンラ・ゴジジウにそれとなく訊くと、ゴジジウは眉間にしわを寄せて気まずそうに答える。


「あんねー、この前師匠に恨み節を言ったらさ、師匠が『オリエンタルアート批判』っていう論文を学界に発表して、立場が危うくなりかけてるんだわ。まだ完成もしていないのに…」


確かに完成もしていないアートについて批判が先に出来あがるというのも不思議な事である。だが、師匠の言うことだから何となくもっともらしいと思われてしまうかも知れない。どうせ一般人の自分には分んない世界だし、と太郎は思った。


「うーん。この味は本当に良くわかんないね。何味?」


「いや、だから、話聞いてた?その味の名前を考えてほしいんだよ」


太郎は一瞬「やっぱり人選ミスか」と不安になった。


「あ、そうだったわ…うーんとね、何かこのガムを食べていると思い出す事があるよ」


「それは本当か?どんなの?」


身を乗り出す。



「なんか、『昔昔あるところにおじいさんが一人暮らしをしていました。おじいさんは山寺に不法侵入して詩ばかり作っていました』っていう話があるじゃない?」


「なんだその昔話」


「有名なやつだよ。『皮で宣託をしていると、無香の腿がどんどんぶらぶらしてきて、おじいさんは痙攣してしまいました』って続く」


太郎は若干だが聞いたことのある話のような気がする。でも初めて聞いた。


「その後どうなるの?」


念のために訊いてみる。


「その後はね、『腿を真っ二つに引き裂くような肉離れによって、呻きだしたおじいさんは、医者から「腿だろう?」と訊かれました』って感じかな。そんで、『鬼が島に住んでいるというお兄さんに金を借りて治療した』とかだったような気がする」



「なあ…その昔話のタイトルって「ももたろう」って言わない?」


「あ、そうそう。おじいさんの名前が太郎だから「腿、太郎」だね」


随分改作されていて殆ど原型を留めていないが、普通の話になっているのでまあ大目に見るとして、とにかく今ここにいる太郎は、ゴジジウに訊ねた。


「その話がどうした?」


「なんか、その話、爺ちゃんが教えてくれたんだけど。そんな過去の記憶を思い出させるような味だね」


「君が言った話はともかく『過去の思い出』か…良いかもしれない」



太郎はガムの名前の候補の一つを見つけたと思った。バンデンラ・ゴジジウに謝礼を払ってお暇する事にした。ガムを噛みつづけているバンデンラはまだ過去の思い出に浸っているようである。
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