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任意の戦い

勝利の雄叫びをあげるプロレスラーをテレビ越しに見て、何となく「勝ちたいな」と思った。といってもどんな事で勝利すればよいのか分らない。そしてどうやったら「勝ち」になるのかかなり不明な部分がある。プロレスみたいに戦う相手がいて、ギブアップという条件があるのは比較的分かり易い。ショービジネスと捉えて、出来るだけ盛り上げたりしなければならないというプロ意識が絡んでくるとちょっとだけ不透明になるところがあるが、「勝利」は「勝利」としてちゃんと試合という形式の中に入っている。もちろん「敗北」も。


一人で悩んでいてもしょうがないので、学生時代一緒にバカをやっていた友人数名に相談のメールを送ってみる事にした。

『何でもいいから勝ちたいんだけど、なんかいい方法ない?』

で一斉送信である。ビールを飲みながらしばし待つ。ちょうど暇だったのか友人の一人がすぐに返信をくれた。

『頑張れ』

この友人はいつもテキトーだったのを思い出した。確かに冷静に考えてみたらこんなメールに真面目に答えてくれる人は少ないと思う。けれどそこは昔のノリで何か面白い事を言ってくれても良さそうなものである。5分くらい経つと、別の人から返信がきた。


『俺はお前に負けたよ。これでいいか?』


微妙な優しさに少し感動しかけたが、少し工夫をして真面目にとりあってくれなさそうな雰囲気が出ているので、複雑だ。とりあえず『ありがとう』と返信する。送信したのは残り二人。一人は真面目な性格だからちょっと期待しているが、もう一人は良くも悪くも普通な男で、普通に返されると一番困るなと思っていた。ビールを一缶飲み干した頃に続けざまに来たメール。


『何でも良いって何が良いの?』

『何でも良いって何が良いの?』


同じかよ!と心の中でつっこんで、少し思考する。真面目な方のメールは多分、真面目に議論した上で何か考えてくれそうだが、時間が掛かりそうである。そうでない方はおそらくそんなに興味を持ってないが形式的に訊いただけであろう。長い付き合いだから想像出来る。前者の真面目な方には、

『何でも良いんだけど、勝ち易いものってないか?』

と送り、特に述べる事がない後者には、

『そうだよね、何でも良いって漠然としてたよねゴメン』

と返す。ここから分かるかと思うが、こっちも真面目だから真面目な方とやり取りするつもりである。すると時間をおかずにメールの着信音が鳴る。


『将棋でも練習したら?』


何となく投げやりである。一瞬送るメールが反対だったのかなと思ったが、続けてきたメールが、


『どうかしたのか?何かあったんだったら相談にのるぞ』


だったのでやや混乱する。名前を確認するがこちらは『真面目』な方ではない。だが、明らかに一番真剣に相手をしてくれているように思う。最初のメールはそれで終わる事にして、今のメールに、


『あ、そんなんじゃないんだけど。なんかプロレス見てたら何でも良いから勝ちたくなってさ』


と返信をする。相手も少し考えたのかしばらく何もないと思ったら、今度は電話の着信が来た。


「よう!お前もあのテレビ見てたのか。俺お前に言ってなかったけど実は結構プロレス好きでさ」


「おう、そうなんだ。奇遇だな。でも意外だな、知らなかったよ」


「まあ、実際好きになったのは会社の同僚の影響なんだけどさ。でもなんかいろいろ影響受けて俺も結構変わったよ」


「あ~なんかそんな感じするわ」


「そっちどんな感じ?」


「いや、何となく行き詰っている感じかな。『勝ちたい』って思ったのって実は最近する事が無いなとか思ったからなんだけど」


「月並みだけどさ、『勝ちたい』ってのはさ、やっぱり自分の弱気に対して勝つかどうかなんじゃないかと思うんだよね。最近俺が経験した事でもあるんだけど」


「どういう事?」


「俺さ、自分から何かをやってみる事って少なかったんだよ。でもそれって『やんなくても良いじゃん、やるのは大変だし』っていう思い込みから来てたんだなと感じるわ。最初は大変でも、それこそ興味なんか持つとは思えなかったプロレスに今は一喜一憂している。これって興味持つ事に対して積極的になったって事だと思うんだよね」



「まあ確かにそれはあるかもな」


「それともあれか、本当に勝ち負けに拘る感じ?」


多分、本当に勝ってみたいんだと思う。だけど、気持ちは揺らぐ。競う相手なんてどこにも居ない。ゴールだってあって無いようなものだ。生きるというのはそういう事だ。自分の満足する事をして満足出来たら、それでいいのである。ただ、それは分かっているけど、満足することのなかに少しくらい他の人と勝負してみる事の喜びがあって良いんじゃないか。私は思いつく。対戦相手は決まった。条件は五分五分…。平和的な戦い。よく考えてみると流石は「真面目」くんである。

「よし…今度家に来い。将棋で勝負しようぜ!!」


「は?俺将棋なんてやったことねーぞ」


「安心しろ。俺もだ」


「興味ない…」


「って言えないよな。興味を持ってみる事から始めるんだもんな!!俺も今は興味が無い。だから対戦相手としてピッタリなんだ」


「まいったな、一本取られたな…。」


「やるからにはちゃんと研究して来いよ。勝負だけじゃなくて、ちゃんとおもてなしもするからさ」


それから恒例となった月一でやる素人同士の将棋対決は今では昔の仲間を観客にして、結構面白い企画になって盛り上がっている。今のところ、勝率は五割を越えている。
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