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焼き肉の日

とっても面白い事を考えられたらいいのにと思う。


言ってしまえば今日なんて大した日ではないのだ。抑揚のないフレーズのように、上がりも無ければ下がりも無い。かと言って平坦ではなく、それなりに険しい。それなりに険しい道を、単調なリズムで登らなければいけないような日である。外は相変わらずの天気。晴れとは言いにくいが、かと言って悪天でもないような、判断に迷う空。曖昧な雲の形。外気に中てられて、少しばかり気持ちが切り替わったところでふと考える。


<週末は何かあったっけかな?>


自分から計画を立てなければ予定なんてあるわけがない。予定を立てるのも面倒になってくると、もう何もしないで土日が終わる。そんな低調なムードがここしばらく続いている。何とかしなければいけない、と思いつつもそんなにしたいことは無い。



私は何でもいいから起れと思った。


[同刻、『総合人間研究所』にて]


研究所職員の岡部は、研究所長の増沢博士に訴える。


「博士!!この実験が失敗したら、行政からの支援が打ち切り濃厚です…」


「大丈夫だよ、岡部くん。この精神覚醒機試作5号によって、我々は人々の能力を引き上げる事が出来る」


「博士、この前の4号機の時もそう言ってましたよ。だけど前は、それを装着した人実験中にみんな逆に眠ってしまったんですよ」


岡部は焦っている。リアルタイムに脳波を測定して、その脳波から導かれる精神状態を把握し、音波や電気的刺激を加えて精神を覚醒状態に持ってゆくように設計された装置である『精神覚醒機』の実験は未だに上手く行っていないのだからそれはしょうがない。


「岡部くん、君には夢やロマンが足りない。この最新の脳科学を応用して出来た機械は人の可能性を広げてくれるのだよ」


岡部は叫ぶ。


「だったらまず私達の頭を覚醒させましょうよ」


皮肉のつもりでいったのに増沢は。


「おお。それもそうだな。じゃあちょっとここに座ってくれ」


と言って、大掛かりな装置の中に岡部を誘導する。岡部は渋々従う。


「起動!!」


岡部は怪しげな装置の中でモルモットになったような気分である。万が一装置が機能して精神に異常でもきたしたらどうするつもりなのだろう、と増沢は思う。思っているうちにもどんどん変な音や、変な刺激が加わって岡部の気分は変になってきた。増沢は装置のディスプレイに表示された文字列を見て慌て出す。


「やばい!!トランスだ」


「所長、なんか言いました?なんか気持ち良くなってきたんですけど。あぁ、あとなんか何となく外に出たくなってきました」


「実験中止。スイッチを切るぞ」


装置の中からふらふらした足取りで出てきた岡部は、そのまま実験室を出て、廊下を彷徨い出した。


「まずい。過度にやり過ぎた!!」

増沢の研究によると、精神を高ぶらせすぎるといわゆるトランス状態になる事があるらしく、この状態になると能力が高まるどころか我を忘れてしまうのである。この一歩手前の状態が理想なのだが、パラメータの調節が難しくいつもやり過ぎてしまう。今回も岡部をトランスさせてしまったようである。だが増沢は岡部の事よりも機械の調整に夢中になっていて、岡部の事を忘れてしまっている。


[研究所前にて]


「あ~。あれだ、今日は焼き肉食べたいな…」


『総合人間研究所』という白い大きな建物の前を通りがかった時、何となくやさぐれそうになっていた私はせめて美味しいものでも食べて精をつけようと思って呟いた。何でもないこの一言に、


「あ、いいね。焼き肉食べましょうよ。それがいい」


と相槌を打つ人がいる事に気付いた私は、突然の事で心臓が止まるかと思うような驚きを覚えた。それまで下を向いていたから気付かなかったのだが、白衣を着た見知らぬ男性が薄気味悪い表情で笑いながら、私と並んで歩いていたのである。私は引きつりながら、


「あなたは誰ですか…?」

と訊いた。男は、


「私は岡部です。ここの研究所の」


と言いながら、研究所の方を指さした。突然の事に身の危険を感じた私だったが、研究所の人だと聞いて少しだけ安心した。多分、何かがあるのだろう。何なのかはよく分からないが。関わらない方が良いと思ったので、適当にやり過ごす事にした。


「そうですか。それでは」


「あ、そうだ。所長のとこに来てくださいよ。みんなで一緒に焼き肉食べましょ!!」


「は?」


ますます危ない予感がしてくる。咄嗟に逃げようと判断する私。その私の腕をがっしりと掴んで研究所の方へ引っ張ってゆく男。それは尋常ではない力で、私は逆らえないまま、あれよという間に「第一実験室」という部屋に連れてこられてしまった。一般人が入れるセキュリティーの甘さで良いのだろうかという考えが場違いにも浮かんできたが、状況的にそういうところなのだと理解するしかない。実験室の中にいたのは、禿頭の中年男性であり、何やら大掛かりな実験装置を前にぶつぶつと何事かを呟いていた。彼が私と岡部と名乗った男性の姿を認めると、目をぱちくりさせつつ言った。


「おや?見慣れない顔だね?誰だい?」


私は答える。


「えっと、この人に突然連れてこられて…」


するとその男性は何かを理解したのか、


「そうか。岡部くんが協力者を探してくれたのか。ありがとう」


と訳の分らない事を言う。私は協力者ではない。説明しようとしている間に、半ば強引によく分からない装置に座らされて、


「詳しい事は実験中に説明するから。という事で、スタート」


いつの間にか実験がスタートしてしまったようである。私は何故この実験に参加しているのだろう?この人達は何をしているのだろう?考えているうちにも、装置からは変な音が流れてきて身体にはくすぐったい刺激が広がる。すると、こんな状況なのにも関わらず、「今日はこのあと何しようかな」とか「そうだ週末は映画でも見に行こう」とか、いろいろな情報が頭に浮かんでくる。しかもいつもよりも思考の整理が早く、あっという間に、来週の予定まで完成していた。その間、あの中年の男性は何事かを説明していたが、自分の事に集中し過ぎてよく聞き取れなかった。


実験は10分くらいで終わったようだが、体感としてはその3倍くらいの時間が過ぎていたように感じた。


「どうだった?」


男性に問われたが、何がどうだったのかよく分からなかったので、


「よく分かりませんでした」


と素直に答える。男性は少しがっかりした様子で、


「おっかしいな…上手く行っていると思うんだけど…」


何故か知らないが頭がすっきりしているので、私は自分が置かれている状況を把握した。


「あ、そうだ。お昼休み終わっちゃうので、失礼しますね」


「う~ん。何が駄目なんだろうな…」


男性はまたぶつぶつ言い始めた。岡部と名乗った男性は椅子にもたれて爆睡している。一体何だったかよく分からないが、私はとにかくしたい事が出来たのであんまり気にせず研究所を後にした。


さっき「判断に迷う」天気だと思った空を見て、<あそこに浮かんでいる雲は一体何という雲なんだろう。雲にも種類があるんだな>と思った。なんとなく面白い事はあるような気がした。そして今日は焼き肉だ。
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