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擬態男子

[擬態]


『脱力系男子』で生きている瞬間がある。面倒くさい事があると、強引に自分が『脱力系』で過ごしているイメージを強調して、「俺は脱力系だから」と規定して、その路線でイメージ通りに振る舞う。それは、何の印象ももたれないはずの素の自分より何かに属している感じで、自分としても楽だし、相手にそう思われればそう解釈されて面倒な事が起こらないので楽なのだ。


要するに私は擬態している。誰が分類し、特徴付け、名付けたか知らないし、知る気力もない半分くらいはマスメディアによる俄かな意図によっていつのまにやら誕生している『系統』、『形態』の一つの中に自分を放り込んでしまうのは、それこそ議論するのが面倒くさいからである。細かく議論するならすぐに粗が出てきてしまう。ちょっとしたことで熱くなってしまう性格とか、議論する時には正確さと精密さを要求するような完璧主義的なところは私自身、人に合わせるために普段は封印し、『脱力系』の皮を被って生きている。


面倒くさいというのは本当だ。それは地の性格で他者と何度も衝突を繰り返し、繰り返したところで別に何かが変わるわけではないという事をさんざん思い知らされている為で、この悟りなのか諦観なのかよく分からない心境、心情は、説明するのも面倒になっている。その面倒になっている、とか大雑把でいいやとか、ゆるい感じを共通項として集められる類型はそれなりに気に入っている。だが、頭の中ではゆるくもない強烈な思考が絶賛空回り中で、要するに上っ面を撫で回すところにとどまってくれていれば、地なんてものを明かさずに済んで楽なのだ。隠れ蓑としての類型。マスク、仮面。


実際、身の回りに脱力系の人を見かけた記憶はない。有名なアーティストの真似と言っても良い。その人が肯定する何かを便乗で肯定していればそれなりに格好がつくようなものだ。その類型に収まっている日々がずっと続けばいいとは思わないが、正直言ってこの擬態は便利だ。



[苛立ち]



その日私は、バイト先の先輩に何かを言おうと思った。私はそれほど人に意見するような性格ではない。けれど、彼が放った「まあ、色々あると思うけど適当でいいんじゃね?」という一言が私の心を掻き乱したのである。順を追って話をすればこうだ。先輩が見た目からは想像しにくいけれど真面目な人である。私はそれを評価している。だけど、私はバイト先の社員さんが先輩の事を悪く言っているのを聞く。曰く、『あんまり深く考えてない』とか、『やる気がない今どきの人だ』とか。それは明らかに先輩を良く知らないのだ。少なくとも、私がミスした時にさり気なくフォローしてくれたり、何だかんだ言いつつ色んな頼みごとを聞いてくれるのは、根が真面目だからである。私が苛立ったってしょうがないのだけれど、そう思われているという事を私が先輩に伝えたときに、

「まあ、色々あると思うけど適当でいいんじゃね?」

と言われて、それ以降私の心の中では

<何で先輩はそんなに無関心なの?何で先輩は…>

という叫びが続いていて、鳴り止まない。


バイト終わりに私は先輩をファミレスに誘った。夜遅くだったから店内は空いている。私は思っていた事をじっくり伝える。


「先輩。あたし、先輩は真面目だと思っています」

「そう?普通だと思うよ。君も真面目だしね」


いつものように、先輩は大切な部分をはぐらかす。コーヒーを思いっきり飲んで、勢いで言う。


「先輩の事を尊敬しているから言うんですけど、勿体ないです」


「何が?」


多分、先輩は分っている。私が何を言いたいのかも分っている筈だ。


「周りの人にどう思われたって良いのか、わざとそうしているのかは知りませんけど、先輩はもっと繊細な人の筈です。色んな事に気が付くし、本当はもっと色んな事を考えているんじゃないですか?」


「まあ、そりゃあ考えるんじゃない?明日の事とか…」


「…何で真面目に話してくれないんですか?」


私は静かに怒っている。先輩は私を見つめている。と、観念したのか、先輩は重々しく口を開く。


「真面目に話すのは大変だよ。俺は今のままでも別にいいんだ」


「あたしは良くありません!」


やや大きな声は店内に響く。


「○○ちゃんさ、どうして俺の事なのにそんなに真剣なの?」


「…分りません。でも先輩が勘違いされることも嫌だし、先輩がそれでいいやっていう態度をとるのも『私』はいやです」


一瞬、先輩は私の事を窺うような目をした。そして少し俯いて、


「真面目…なのかな」


とボソッと呟く。私は肯定するでもなく、


「真剣なんです」


と言った。





次の日から先輩は少し変わったように思う。前だったら、何も言わないところでも必ず何かを言うようになった。社員さんは『○○君、最近変わったね』というけれど、私はそれが先輩の本音だったのだと思う。私はそんな先輩の姿を見て、人知れず心の中に秘めた事があるのを感じた。



それをいつか伝えようと思う。



[脱皮]



自分が自分でいていい場所を探していたように思う。世の中の男性というのは大抵そうなのではないのだろうか。そんなにシンプルでもなく、自分でも面倒くさいと思うような部分を持っていて、その面倒くさい部分を適当な理由をつけて軽い話題にすり替えてその場をやり過ごすような。



だからだろう、真剣な話をするのも面倒になっていた。真剣な話をして相手にしてもらえるかどうかは分からない。でも、彼女ならば笑わないで聞いてくれるだろうか?



いつか、伝えようと思う。
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