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正気の沙汰

カージオイドに照れ笑いをしたんだ。大法螺吹き。そんな唄を歌いながら僕は家から数キロのところにある小高い山のてっぺんに旗を挿した。

『こんな旗を取る前に、てっぺんとれよ』


こういう悪戯をするのが悪いということは分っているが、はっきりとは認識していない。曖昧なルールの中で、何となく悪いというくらいにしか感じていないから、あんまり罪悪感は無かった。その帰り道、道端で『HELL ME』というプラカードを掲げている人を見かけた。ちょっとした親切を起こして、

「何かお困りですか?」

と訊いたら先方は、

「地獄に落としてという意味になりそうだけど、ならないでしょ?」

とよく分からない事を言った。妙齢の女性の人だったので、なんとも言い難く、

「なりませんね」

と呟くのが精いっぱいだった。この女性、ちょっと図々しくてこのあと僕に


「どうせあんたもロクでもない人なんでしょ?だったら車で送ってってよ」

と言った。念のため確認してみる。

「『HELP ME』と書こうとして間違ったわけでは…」


「私は助けを乞わないわ。そういう主義なの」

そう断言され、僕はしぶしぶ助手席に乗せた。車内ではロクでもない会話が続く。

「あんたさ、私がどうしてあんなところに居たか気にならない?」

「気になりません」

僕は素直に言った。

「素直じゃないわね。私は昨日山の中で野宿したのよ。女なのに」

「この辺も物騒になったんですね」

「…どういう意味よ?」

「いや、山の中で野宿している人がいるなんて、ここらへんじゃ考えられないって事ですけど」

「なんで物騒なのよ?危ないのは私なのよ」


「ええ、あなたは危ない人だ」


女性は沈黙した。一瞬だけ。すぐに気を取り直して自分語りを始める。

「私はね、日本中を旅をしているの」

「自分探しですか?」

「ちがくて、日本中を旅して経験した事を書籍にまとめて売り出そうとしているのよ」

なんとも商魂逞しい話だった。

「逞しいですね」

と一部本音を漏らした。


「そうでしょ?いまどきこんな逞しい人間なんて珍しいわよ。褒めなさい!!」

「すごいやーぼくにはとてもできそうにない」

「…」

ジーっとねめつけられた。ちょっと焦ってきたので話を変えてみることにした。


「そういえば、どうでもいい事なんですけどこの前『インドア派が流行の兆し』という見出しの記事がありましたよ。そりゃあそうですよね、お正月なんだし…」


「…」


「あと去年の有馬記念、オルフェーブル強かったですよね。8馬身差ってシンボリクリスエスの次に凄くて…」


「…」


ネタが無くなってくる。日頃の行いが悪いせいだ。


「紅白は、見てなかったですね。眠くて…」


「…」


しびれを切らしたのか、女性はようやく口を開く


「あんたさ、40点だわ」


「え?何が?」


「あんたの点数よ。あんたの人間性が垣間見えたけど、多分40点。良くて45点よ」


「数値化できるもんなんですか?」


「私は色んな人間見てきているけど、こういう時に間を持たせられない人って多分積極性がないのよ。受け身ってやつね」


「評価されてしまった…」


図星の部分もあったので、僕は意気消沈してしまう。そうか、40点か。ザ・40点。


「ちなみに」


「何?」


「これも書籍のネタにするんですか?」


「わりと微妙」


彼女の中では僕は多分、居ても居なくても良い人間なのだろう。と思うと、少しでも何か記憶に残したいと考えてしまうのも悲しい性である。僕は数年来温めてきた渾身のギャグを披露する事にする。


「めんくらってついすと!!」


「は?(怒)」


「面喰いましたよね」


「あ、その辺で降ろして」


「…はい」


見事なまでにスルーされた。女性を降ろした僕は、あの馬鹿げた旗を取外しに山に舞い戻った。



教訓。テンションが上がっている時には面白いと感じるものも、テンションが下がるとつまらない。
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きつねかたぬきかむじなかいたち

 やさしいなぁ。どうせなら山まで戻ってから降ろしてやればよかったのに。優しいなぁ。80点をあげよう。

Re: きつねかたぬきかむじなかいたち

こんにちは。

優しいのもありますが、多分お人よしなんだと思います。そこで70点ですかね。
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Author:なんとかさん
ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

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