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ハッピーアイランド

15歳。


人並み以上に面白い事を考えていたのは多分、その頃だったと思う。考えていたことが面白かったかどうかは別にしても、僕はその頃良く笑っていた。自分で考えたことがおかしいと思える幸福な少年だった。今思うと頭がハッピーな奴だったんじゃないだろうかと。


そんなこんなで(説明は省略するけれど)、僕はいつの間にか大人になっていた。成人したと言うべきなのだろうか。一端の人間になった感じがしていたけれど、同時に何かが失われたような気がしていたのは確かである。


<ハッピーさが足りない>


そのハッピーは『トリガーハッピー』のようなニュアンスのハッピーさなのだが、僕はおめでたい奴ではなくなりつつあった。しばらく青年の悩みとも括られるようなシリアスな時期が続いた。あの頃たわげた事が面白かったのに、たわげた事が、本当に馬鹿馬鹿しくなってしまって。


ちょうどその頃である。僕が公園の噴水のところに座って憂鬱そうな顔をしていたのを見かねて見知らぬおじいさんが声を掛けてくれたのは。


「若い人、何か悩み事かね」

「ええ、まあ。世界の行く末について憂いています」


声のトーンとややズレた憂い方に若干引きつつもおじいさんはちょっと間をおいて落ち着いて話を続けてくれた。


「そうか。私も若いころは色々悩んだし、無茶苦茶言ってたけど。まあ何とかなるものだよ」

話している間おじいさんは少し遠い目をした、ような気がした。


「そんなもんですかね…」


この日の夜、僕は人生で初めてビールを呑んだ。にがくて美味しくなかった。数日後、また同じ場所で孫を連れたおじいさんに会った。


「こんにちは」

「ああ。こんにちは。これうちの孫」

5歳くらいだろうか、よく笑って楽しそうである。


「可愛いですね」


「そうだね。ところで、悩みの方はどうだい?」


「何かを変えればいいんじゃないかと思ってビール飲んでみました」


「いいんじゃないかな。偶にはパーッとやった方が良い場合がある」


「ですよね」


僕もおじいさんも公園に来ている人をぼんやり見ていた。僕のように若い人、おじいさんのように年老いた人。他の子供達。ここは間違いなく人がそれとなく集まる場所である。何をしようというわけではない。他の人も、多分、同じように人が集まっている光景を見て、何かを思い、感じるのだろう。僕はおじいさんの連れてきた孫がはしゃいで滑り台を降りているのを見て、昔の自分を思い出そうとしていた。仲の良かった友達と公園で話していた事を回想する。


『ねえ、あの向こうには何があるんだろうね?』

あんまり遠くに行っちゃ駄目だよと言われて、何となく自分で決めていた場所。その向こうに何があるのか僕は想像を逞しくしていた。

『さあ?ビルとかじゃない?』

『海とか無いのかな?』

『え、知らない。海って何処にあるの?』

『川の先、かな?本で読んだ』

すると友達は、目を輝かせて僕に言った。

『よし。じゃあ今度、あの川に沿って歩いてみようよ』

『いいね!!』


当然、海などに出てゆくわけもなく、想像以上に遠出してしまって歩き疲れた僕達は、なけなしの10円を使ってあやふやな記憶を頼りに家に電話し、車で迎えに来た母親にこっぴどく叱られた。ついでに、

「バカ!海なんて行けるわけないでしょ!」

と今考えれば至極もっともな事を言われた。でもあの時、もっと体力があったなら、本当に海に出たかも知れない。そういえば、バカ…とも言える幼稚な発想が、15歳の僕にうまい具合に整理されて面白い発想に化けていたのかも知れない。それを微妙に実現できる能力があったのがその頃だ。今の僕は、当たり前のように実現できてしまって、アホらしい事すらないといえばそうだ。それが行き詰まりなのかも知れない。


「あ…そうか」


「どうしたんだい?」


「いえ、なんか海まで歩けばいいんだなって思って」


「は?」


おじいさんは困惑している。僕は丁寧に説明した。


「昔、川を歩いて行ったら海に出るか試して見たかったんですよね。小さかったし出来なかったんですよ」


「ふむ…確かに今の君ならちょっと小旅行になるかも知れないけど普通に挑戦できるかも知れないね」


「そうなのか。今の僕はやろうと思えば出来るんだ」


「いいんじゃないの。体力のあるうちは色々やっていいんだよ」


「でも、おかしくありませんか?」


「う~ん。世界の行く末を憂いているよりは健全だと思うよ」


と言っておじいさんはにっこり笑った。その時、「おじいちゃん!!見て見て!!」という声がした。おじいさんの孫はかなり高くまでブランコをこぎ上げていた。


「あ…。…でも、肉親に心配させちゃ駄目だよ。それはいつになってもそうだ」


「はは。解りました」


かくして、僕のプチ旅行が始まろうとしている。今の僕は案外、ハッピーである。
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