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ATJアナザー ⑨

午前が終わってお昼になって、私達は休憩をもらう事になった。体熱ですっかり暑くなってしまった「ケロ子」の頭を取外し、店の奥の部屋でおばあさんにお茶を頂く。

「ご苦労様。大変だったでしょ?」

「いえ、楽しかったですよ」


楽しいと言ったのは本音だった。自分がこの格好をする事で誰かを喜ばせる事が出来る。その実感は、最近の行き詰まりに対して何かの答えになっているようにも思えた。ゆるキャラブームに対して冷めた見方をしていたけれど、見方を少し変えればそれはそのままではこの世界に無い何かをもたらしているという事であり、受け入れる者に対しては別な世界が見えているという事なのではないだろうか。子供はもちろん正体は知っているのだろうけれど素直にその雰囲気に乗ってくれる。想像の世界では私の代わりにそこに「ケロ子」が立っているのだ。


「ほんと、着ぐるみって奥深いですね」


私は思ったままを松木さんに言った。


「着ぐるみ…。そうなんですけど、なんかもっといい表現ありませんかね?」


松木さんは微笑しながら、注文をつけた。ついいつもの癖で私は少し真面目に考え出す。


「うーん…」


その険しい表情を見てか、松木さんは慌てて言う。


「あの…そんなに真剣に考えなくてもいいんですけど」


「あ、ごめんなさい。つい」


苦笑いする彼女はでもどこか嬉しそうである。そのやり取りを聞いていた彩月さんは


「初々しいわね。お二人はいつ知り合ったのかしら?」


と素朴な疑問を口にした。松木さんは答える。


「あ、この前商店街でやった『キャラクター祭り』でです」


「あら、あの時の。じゃあまだ日が浅いのね。でも仲がよさそうね」


言われた私達はお互いに顔を見合わせて「?」を頭に浮かべた。考えてみると仲がいいと言われれば、仲が悪かったらそもそも協力もしていないだろうし、意識はしていなかったが客観的にこれは仲がいいという事になるのだろう。


「そ…」


私が「そうですかね?」と言いかけたときだった。


「そうです。だってNさんって優しいから」


と勢いよく松木さんは答えた。


「ね!」


更に私に同意を求める。本来なら、この元気の良さにクラっと来てもおかしくないのだろうけど、私は『若さって良いな』と思ってしまっていた。そういえば、こういう勢いのある人物を私は一人知っている。未だもって良く掴めていない弟である。学生時代は随分弟に振り回されていたけれど、何故か放っておくことが出来ない奴で、世話を焼いていた事を思い出す。今ではもう一人立ちしてしまっているから私の出る幕はないけれど、松木さんの中にもそういう部分を見て私の「世話焼き」の部分が出ているんだな、と私は人知れず納得していた。


「そうだね。だって、放っておけないオーラが出てるし…」


私はちょっとだけ意地悪をしてみた。


「え?そうですかぁ~?」


松木さんは釈然としない感じだったが、その後ニッコリ笑って、


「そういうところは嫌いじゃないですけどね」


と分るような分らないような事を言った。彩月さんは、


「あらあら、うふふ」


と典型的な反応を示すだけだった。
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