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ATJ アナザー⑩

午後の仕事は曇り空の下で始まった。お昼の間に午前中の反省を活かして「ここはこうしたらいいんじゃないか」という意見を交換し合った結果、もうちょっと女の子という設定を意識した可愛らしい動きにすると良いのではないかという事と、子供が多い中で、その年代の子が喜ぶような事を意識してやったらいいんじゃないかという事を事前に決めていた。しばし店の前で二人で待つ。するといつの間にか雑談が始まっていた。


「Nさんて…」


松木さんが言う。


「Nさんて、子供のころどんな子でしたか?」


意外な質問に少し悩んだが、子供の頃といえば弟に振り回されっぱなしだという事がすぐに浮かんできて、


「弟が居てね、何かよく分からない事で遊んでたよ」


「弟さん?具体的にどんな遊びですか?」


興味深かったのか、ジッと見つめられる。


「例えば、ド○えもんを変形させた『イタチ型サイボーグ、ラエもどん』っていうのを考えて、その絵を描いたり、本家のパロディーのようなやり取りをしてたね」


「え?なにそれ。凄い!!ちょっとやってみてください!!」


「凄くはないよ。例えば松木さんが弟だとすると、松木さんに向かって『大丈夫だちー、松木さん』とか言って、未来の道具じゃなくて古代のオーパーツで何か解決するとかね。オーパーツと言ってもそこらへんにある文房具とか、百均であるような便利グッツとかで、解決する事も弟が意味もなく『綺麗な長い直線を引きたいよう』とか言うから、やたら長い特別な定規を使って線を引いたりするとか地味だったね」


こういう例なら幾らでもある。弟が出すあまり意味のない地味に難しい事に対処する為に何か探してきて解決するという遊びをやっていたのである。弟の琴線に触れるものが未だによく分からないが、それが出来たら何か良い事があるのか、誰にも分らない。一つだけ言えるのは、そういう遊びをやり続けた事によって知恵を振り絞って考えるという癖がついたという事だけである。だが、その知恵を自分の為に活かすという段になると、自分がしたいという事が余りないという事に気付いたのが本当にここ最近だったのである。


「へぇ~。面白いですね。いいな~弟さん」


弟は私から見ても面白い人間である。私はそれに比べると目立たない。松木さんは、そういう私をどう思うだろうか。何となく気になった。


「弟は凄いなと思います」


「いえ、私はNさんが、お兄さんがいて弟さんが羨ましいです。私一人っ子だから」


予想と違う返事に、私は訊き返した。


「そうかな?」


「そうですよ。ふふふ…」


一見するとちょっと仲の良い男女の会話のように思えるが、『ケロ子』になっている私との会話なので傍から見たらなんか変に見えるだろうなと思った。そうこうしているうちに、お客さんがやって来た。これも予期していなかったが、中学生くらいの男の集団である。彼等のうちの一人が声を挙げた。


「あれ?ここって今なんかイベントやってるの?」

他の人が応える。


「聞いてないよ。うわなんかキメェー」


「おい…」


「あ、なんかお姉さんは可愛い…」



何とも無粋な会話であるが、中学生の脳内は大体こんなもんだから私はどう対応しようか既に作戦を練っていた。その間も小声でささやきが続く。


「あれじゃね、『ゆるキャラ』ってやつじゃね?」


「キモいのも狙ってやっているのかもね」


「変な声とか出すのかな?」


明らかに見た目で判断されているが、残念ながら松木さんはそういう風に『ケロ子』を作ってはいない。『ケロ子』らしく、それでいて受けがいいようにという条件だと、遠くから手を振るのが無難かな。私は実行する。


「あ、手振ってくれたよ。ちょっと可愛いかも」


「ばっか、あの中身は絶対おじさんだぞ」


「いや、可愛い女の人かもよ」


「あり得る…」


不確定な情報でどんどん話が進んでしまう。とにかくここは静かにしていたほうが…と思っていたのだが、松木さんは何かが不満だったようで、大きな声で主張し始める。


「君達ー!!この子は『ケロ子』って言って女の子なのよ。それに中に人は入ってません!」


「「「女の子…?」」」


突然の事に吃驚した様子だったが、それを聞いた彼等は疑わしそうである。短い付き合いだが松木さんは熱くなると止まらなくなる。嫌な予感がした私は、松木さんの前に立ってノートに書いてあった『決めポーズ』をする。マイクを持った時のような姿勢で、ユラユラ揺れる。『歌っている』ことのアピールである。そしてさり気なく、手を前に出して「ごめん」のジェスチャーをする。


「あ…いまちょっとキュンとした」


「分る!!」


「絶対この中の人良い人だ…あ、中には人はいないけど…」


「これが萌えというやつか…」


「え…何で?」


手のひらを返された松木さんは何の事か分らなくて戸惑っていた。彼等は私の身体をペタペタと触って一人は松木さんにも「あの…握手してください」と手を差し出す。思春期らしい行動。何だかんだで人の良い松木さんは応えた。そのあと彼等は店の中で有り余る予算で駄菓子を大量に購入し、再び私をペタペタと触って店を後にした。何だかんだ言って、中高生でも、いや大人でもこういうノリは好きなのである。ただ、気恥ずかしさと、ひねくれが顔を出すだけで…。



松木さんは何故握手を求められたか納得がいっていないよう。そりゃあ、まあね。
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