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ATJ アナザー⑪

しばらくすると店の周りにはちょっとした人だかりが出来つつあった。恐らく午前中に来たお客さんから噂を聞いた人が興味を持って駆け付けてくれたのだと思う。キャラクターの知名度を上げようとしている我々の目的からするとこれは望ましい結果と言えた。中には親子連れで来ている人もいて、最初の反応は微妙だが、慣れてくると物珍しさからか、歓迎する動きがあるようである。偶然傍を通りかかったというゆるキャラ全般が好きな人は、熱心にキャラクターの説明を求めていた。松木さんは嬉しそうに解説している。そんな時店の中から彩月さんが出てきて、


「折角だから皆で記念撮影しましょう」


と提案した。彩月さんも楽しそうである。私は了承した。記念撮影と言っても、店の前でお客さんと一緒にずらっと並んで撮る写真で、撮影はタイマーを使ってやるそうである。彩月さんは余り使い慣れていないというデジカメを部屋から取り出して、三脚を設置する。


「上手く撮れるといいのだけど…」


彩月さんは不安があったようだが、撮ってみるとかなり綺麗に撮れていた。天気はあまり良いとはいえないが、そのお陰て逆光にならずに済んだようである。


「わぁー、なんか凄い。『ケロ子』が目立ってる!!」


「…」


近くにお客さんが居たので、声には出せなかったが私はディスプレイに映っている『ケロ子』の存在感が他を圧倒しているのは紛れもない事実だと思った。


「今度店に飾ろうと思うの。どうかしら?」


「いいんですか?」


「ええ。今日は特別な一日になったわ、本当にありがとう」


「いえいえ、これからまだまだ頑張りますよ!!」



松木さんと彩月さんのやり取り。同感だった私はうんうん頷いていた。それを見た子供は指さして笑っていた。



数時間後、この日の仕事を終えた私達は再び店の奥の部屋でお茶をご馳走になっていた。私は『ケロ子』から二十代後半の男性の姿に戻っていて、長時間の着衣のせいか脱いだ後の解放感に包まれていた。


「今日、どうだった?」


「楽しかったですね。あの格好になるとわりとその気になるものですね」


「あらそう。わたしの目から見てもかなり上手に演じてたわよ」


「それは良かったです。あと松木さんの指導も良かったですね」


「自分が『ケロ子』になっていた頃には分らなかった、「ここをこうすればいい」っていうのが見えてきたんです。途中からは何だか『ケロ子』が生き生きしているように見えました」


「とにかく、あなたたちには何とお礼したものか分らないわ」


「いえ、いいんです。私こそ『ケロ子』が役に立てる場所があって嬉しかったですし」


「その事なんだけど。実は…」


彩月さんはちょっと言い難そうにきょろきょろしている。


「どうしたんです?」


「あのね、もしよかったらまたここに来てもらいたいんだけど、もう一つお願いがあるの」


「何ですか?」


「さっき近所の服屋さんから電話があったの。『あのキャラクターどうしたの?』って」


「もしかして…」


「そう。是非服屋さんでも同じ事をしてもらえないかって。場所は本当にこの近くなの」


「どうします?松木さん」


お願いをされた松木さんは少し思案している様子だった。確かに彼女の目的からすると、『ケロ子』の活動範囲が広まるという意味では願ったり叶ったりである。ただし、その分色々と負担も大きくなるような気がする。


「うん…いいですよ!!」


思いの外良い返事が聞こえた。


「それで…その、Nさん大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。任せてください」


私はあまり迷わずに答えた。最初に『ケロ子』の役を引き受けた頃よりも自信がついているし、何よりちょっとしたことだが自分が何かを出来ているという事に対する喜びを感じていたのである。


「まあ、ありがとう。それじゃあわたしの方から連絡しておくから」


「「はい」」


こうして私達の活動初日は終わりを迎えた。彩月さんは店の前で名残惜しそうに手を振ってくれている。辺りは徐々に暗くなりつつあった。帰路を行く間、今日経験した事を二人で話し合った。


「楽しかったですね」


「ええ、楽しかったです。自分も案外出来るんだなって分って」


「私、多分一人だったらこんな事出来てなかったと思います」


私は感慨深くあるシーンを思い浮かべていた。


「子供達を見てるとね、自然と自分がしたらいい事が浮かんでくるんだよね。自分が子供の頃に思っていた事をそのままやればいいんだなって」


「それって、才能があるって事じゃないですか?」


「才能?」


「そうです。才能です」


「そうかも知れない。でも、一番はやっぱり…」


「やっぱり?」


「『愛』じゃないかな?」


「え…」


松木さんは一瞬驚いた顔をしたが、私はそのまま続けた。


「キャラクターへの愛ってやつだよね。キャラクターを愛する事で、そのキャラクターが良く分かって来て、そのキャラクターがどうしたら一番生き生きしてくるのかって、キャラクターの目線で考えられるようになるっていうか…まあ初心者なんだけども」


「あ…そ、そうですよね。キャラクターへの愛って前に言ってましたよね。ですよね」


「あとは…」


「あとは?」


「恥ずかしさを捨てる事かな!」


ちょっとした間があって、松木さんは訊き直すように言った。


「え?恥ずかしいですか?」


「…ちょっとね」


「そうかな~?全然そんな風には見えなかったけどなぁ…」


私は『松木さんが前に見せてくれた頑張りを見たから、恥ずかしいなんて気にしない事に決めたんですよ』と言いたかったが、それは言わなくてもいいのかなと思った。良くも悪くもそれは私と松木さんの度胸の違いである。


「女の子だったからね」


無難な事を言ってその場を誤魔化した。「ふーん」と頷いた彼女は、すぐ「あっ」と言って何かを思いついたような素振りを見せた。


「どうしたの?」


「今日、このあと何かありますか?」


「いや、何もないけど」


「ちょっと早いけど、どこかで夕食にしませんか?」


「ああ、いいかも」


という流れで、食事するところを探したのだが、繁華街の外れだった為によい場所が見当たらず、何となく今日は解散することになった。


「残念ですね…」


「また今度ね」


「あ、じゃあ今度私の住んでいる近くに来て下さい。美味しいレストランがあるんです。実はそこ、私のおじさんが経営してるんです」


「へぇ~。そうなんだ。じゃあ行ってみようかな」


「約束ですよ」


「約束ね」


何気ない約束を交わし、私達は駅で別れた。
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