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かしょうねこ

「にゃ~にゃ~にゃ~」

台所で食事を作っている最中、居間の方から鳴き声にしては独特の
伸びがある猫の声が聞こえてきた。包丁でキャベツを千切りにして
いたので、なんだかリズムが乱される。マロはお構いなしに「にゃ
~にゃ~」を続けている。ここで思い出してほしいのは、喋れる
猫マロは、何か意図するところがない限り、「にゃ~」と鳴くことは
ないのである。しかもその時はわざとらしい。今回の鳴き方はどうも
それとは違うようである。


気になったので包丁を置いて、居間の方に向かう。マロは机の上に
座って、首を上の方に向けて目を瞑りながら気持ちよさそうに鳴いて
いた。


「ちょっといいか?マロ、それは一体なにをしているところなんだ?」


「にゃ~…ああ、ご主人。これはですね、歌を唄っていたのですよ」


「え…歌?」


明らかに歌を唄っているようなメロディーは無かったし、歌詞も「にゃ~」
だけである。

「『にゃ~にゃ~』って騒いでただけに聞こえたけど…?」


「え?何言っているんですか?ボクは『今、私の願いごとが叶うならば』で
始まる歌を唄っていたんですよ」


「それって、『翼をください』だろ。いや、どう聞いても「にゃ~にゃ~」だけ
だったぞ」


「…そ、そんな…ボクは確かに唄ってましたよ」


「もう一回歌ってみ?録音してみるから」


「ええ、そうしましょう」


そうして私はスマホの録音アプリを起動させ、再び「にゃ~にゃ~」鳴きだした
マロの声を録音する。録音しながら気付いていたが、確かに「いま~わたしの~
ねが~いごとが~」の音を伸ばすところは一致していた。けれど音階が無い。
録音したものをマロに聞かせる。



「え…ボクの声ってこんな声だったんですか。なんか恥ずかしい…」


そういう現象は人間と共通だったようである。だが今回の問題はそこではない。

「な、『にゃ~にゃ~』だけだろ」


「ええ、確かに。何故か『にゃ~にゃ~』だけになってますね」


不思議といえば不思議だが、猫が喋れる以上に不思議な事はない。私は思い当たる
ところを訊いてみた。


「そういえば、ボク、歌の練習した事がないんですよね…もしかしたらそのせいで
唄い方が分らないのかも…」


「喋る練習はしなくて良かったけど、歌は技術がいるから難しいのかな?」


「恐らくはそういう事だと思います。多分、複雑な事をやろうとすると、喉がついてゆかなく
なってしまうのではないでしょうか?」


「ありえそうだから困る…」


なるほどと思っていたら、マロは早速何かを閃いたようである。

「となれば話は簡単です」


「何だ?」


「特訓あるのみです!!ご主人手伝ってください!!」


「あ…そう来たか。夕食作りかけだから、後でな」


「そ、そうですか。ならボクはちょっと試行錯誤をしてみます」


「おう。そうしろ」


と言ったものはいいが、実際問題キャベツを刻んでいる間に聞こえていたのはさっきよりも
もっと変な「にゃ~」だか「や~」だからよく分からない、しかも人間で言ったら極度の音痴
を感じさせるような『何か』だった。その『何か』に平常心が乱され、料理に集中できない。


「にゃ↑ぃや↓~わたしにゃ~↑にゃにゃ~い↓ごとにゃ~」


これは色々と時間が掛かりそうである。
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