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ATJ アナザー⑬

日曜日。再び駅前で待ち合わせしていたが、この日はお互いに丁度良い時間に落ち合う事が出来た。松木さんは比較的動き易そうな服装で、『ケロ子』が中に入っている大きなショルダーバッグを肩にかけ、にっこりしながら私の傍に来た。

「Nさん。今日もよろしくお願いします」

「こちらこそ」


前は断られたが、重そうなそのバッグは私が持つべきだなと思って「それ、持つよ」と言った結果、「じゃあ、お言葉に甘えて…」と私に委ねてくれた。今回は色々考えた結果車で移動した方が良いと思ったので、近くに停めておいた車まで移動する。車にで行けば2~3分で駄菓子屋に到着する筈である。助手席に松木さんを乗せ、車を出す。ごくごく短いやり取りをしている間に駄菓子屋に到着する。


「はあ!!気持ちいい。今日は暖かいですね」


「そうだね。晴れて良かった」


この日の天気は快晴で、空には雲一つない。青々としている空の下で呼吸を整えてから、彩月さんを呼びに行く。


「ごめんください」


「は~い!今行きま~す」


機嫌の良さそうな声が店に響く。すぐに彩月さんが出てきて、私達を見るなり微笑んで言う。


「この前はどうもね。今日は私のお願いを聞いてくれてありがとう」


「いえいえ、じゃあ早速行きましょうか」


「ええ」


少し確認したところ、服屋さんは本当に目と鼻の先で、車は彩月さんのご厚意で駄菓子屋の駐車場に停めて良いという事だった。彩月さんと一緒に服屋さんまで移動する。なんでも服屋さんの夫婦とは昔からの友人だそうで、この前たまたま駄菓子屋の前を通りかかった時に私達の事に気付いて、奥さんが彩月さんに電話をしてみたそうである。


「洋子ちゃん。こんにちわ」


「あら、貴子ちゃん。こちらが例の?」


「そうなの。紹介するわ。こちらのお兄さんがNさんで、こちらのお嬢さんが松木さん」


「あらあら!Nさん、松木さん、今日は宜しくね」



『洋子ちゃん』と呼ばれた人は店主の奥さんで苗字は「佐久間」と言うらしい。『貴子ちゃん』と呼ばれた彩月さんは、声が弾んでいてとても嬉しそうである。


「「宜しくお願いします」」


すると彩月さんはまたまた嬉しそうに言う。


「二人ともすごく『良い子』だから、洋子ちゃん宜しくね!」


『良い子』と紹介されると照れくさいものがあるが、松木さんは確かに『良い子』であると思う。私が松木さんの方を見ると、松木さんも私の方を見ていた。二人でにっこり笑いあい「頑張りましょう」と確認し合った。彩月さんは店があるのでそこで一旦お別れとなった。10時まではまだ時間があるので、じっくりと準備が出来る。例によって、店の奥を借りて着替えたり、どういう風に動くかの確認をし始める。前回の反省から、『ケロ子』に小道具の玩具のマイクと、いざという時の対応を箇条書きにしたメモを渡された。また以前とは違って客層が高めになる事を予期して、
その年代の人にも分かり易いネタを自分なりに考えてきたのでそれを松木さんに伝える。ジェネレーションギャップがあって伝わり難かったのか、「そうなんですか、へぇ~」と聞いていた松木さんが印象的だった。


「さあ、行きましょう!!」


「うん」


時間になったので私達は外に出てぼちぼち活動を始める。店主の佐久間さんが言うには、それほどお客さんがくるわけではないが、この通りには人通りがあるから興味ある人は足を止めてくれるんじゃないか、という事だった。実際その通りで、しばらくしていると若い女性を中心に興味を持って近づいてきてくれる。


「わあ、なになに!?」


「『ケロ子』って言います。女の子なんです!」


「へぇ~結構カワイイね」


子供とは違い大人の女性だからか、見方がちょっと違うようである。その人だけではなく、別の人も同じ感想なのでもしかすると見る人が見れば『ケロ子』は可愛いのかも知れないと思った。普段はあまり女性と接するのが得意でない私も、今日は『ケロ子』に成りきれているのか、自然に握手に応じられる。勝手が分るからなのか、松木さんも積極的にアドバイスしてくれる。


「若い女性はカワイイ仕草に弱いんです。だからもうすこし、柔らかい感じで動いてみてください」


その通りやってみると、最初はちょっとぎこちなかったがだんだんコツが掴めてきて、多分自分で見たら気持ち悪いと思えるほど女の子っぽい仕草が出来るようになっていた。


「そうそう!!そんな感じです。いいですよ」


身体にキレがある方ではないが、少し緩慢な方が柔らかいイメージを与えられるようで、そういう意味では比較的演じやすいキャラクターなのかも知れない。私は私でもう一つ別の事を考えていた。それは、「コミカル」な要素があると尚良いという事である。可愛いだけでなくて、愛嬌があった方が人気が出るのではないだろうか。松木さんに相談してみると、


「確かにそうですね。じゃあ、ちょっとだけおっちょこちょいな性格ってどうですか?」


「ああ、いいかも…」


具体的には唄っている真似をしている間にマイクをポロっと落として慌てて拾うような仕草を入れてみた。これも中々好評で、通りかかる人をクスリとさせる事が出来た。時々店の外に出て様子を見てくれている洋子さんもかなり満足そうな表情をしている。私は気付いた。この商店街の人は、多分ちょっとでもお客さんを喜ばせたいのだ。彩月さんも、佐久間さん夫婦もこの商店街に明るい笑顔を届けようと思っているのではないだろうか。



そう思うと、小さな事だがそれでも何かは出来ているのではないかという自信が私の中に生まれつつあった。
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