FC2ブログ

ATJ アナザー⑭

午後の休憩を挟んで仕事は順調に進んでいた。客層には変化が見られ始めている。世代的に私より上の世代の女性が常連なのか、私達を見るなり不思議そうな顔をして近くで見守っていた奥さんに声を掛けて確認している。奥さんの説明に頷きながら「へぇ~」と言ってとても興味深そうだったのが印象的だった。そのお客さんが買い物をした後に、


「がんばってね」


と声を掛けてくれたのが嬉しかった。他にも幼い子を連れたお母さん世代の人とか、男性もたまに通りかかって足を止めてくれる。中には以前駄菓子屋の前を通りかかった時に私達を見ていた人もいて、地道に活動すれば認知されてゆくかも知れないという希望になった。


全体的に上手く行っているが、時には失敗もある。お母さんと一緒に来店した小さい子はびっくりしてお母さんの後ろに隠れてしまう。松木さんもいくら自分のキャラクターに自信があるとはいえ、こういうのは仕方ないと割り切っているらしく、


「ごめんね。驚かせちゃったね」


とその子に優しく声を掛けていた。また、そういうものに対してあまり興味のない人もいるので、お客さんの反応によっては過剰な演出はせずに松木さんが「いらっしゃいませ」と言った声に合わせて礼をするだけになる事もあった。


「何かいろいろ勉強になりますね」


「そうだね。色んな人がいるからね」


多分松木さんも思うところがあったのだろう。それははっきりと言葉に出来る事ではなく、相手の表情とか、言葉から微妙に窺い知れる手応えと課題である。万人受けする愛されるキャラクターというのは、見かけだけではなくもっと色々な事をひっくるめた全体的な印象が良くて、本当はそこはタブーなのだけれども演じている『中の人』の魅力も必要なのではないかと思う。中の私は見えないけれども、見えないところも実は何らかの意味で一つ一つの仕草に現れていて、そういう仕草のレベルまで意識するには本当にキャラクターへの愛が必要なのだと実感する。


「あの、ケロ子…」


松木さんは敢えて『ケロ子』と呼んだ。私は「なぁに?」という首を傾げたポーズを取る。


「私ね、ケロ子のお陰で頑張れてるんだよ…」


私は黙って聞いていた。そしてただ「うん」と頷く。その言葉が何を意味するのかはぼんやりとしか分からない。分からないけど、『ケロ子』なら優しく「うん」と頷くだろうなと思った。


夕方近くなり、日が暮れてきた頃に仕事は終わった。佐久間さん夫妻はにこやかな表情で「ご苦労様」と言ってくれた。そして旦那さんの方から、


「これ少ないけれど…」


と茶色い封筒を渡された。私は、


「いえ、そういうつもりではなかったので…」

と言ったけれど、


「いや、またお願いしたいんだよ…それでなんか美味しいものでも食べてよ」

というご主人の言葉があって何となく返し辛くなってしまった。松木さんは笑顔で応える。


「じゃあ、そうさせてもらいますね。また呼んでください!!」


「ああ、よろしくね」


その後、駄菓子屋に戻って彩月さんに挨拶をしに行った。彩月さんは、


「ご苦労様、ありがとうね」


と優しい言葉を掛けてくれる。私は今日あった事を彩月さんに手早く説明する。


「あらあら、それは良かった。うんうん。ところで…」


彩月さんは何か気になる事があったようである。松木さんと私を交互に見比べながら、


「松木さん、今日は上手く行った?」


と訊く。


「え…。何の…あっ…」


私には何の事か分らなかったが松木さんには何か思い当たる事があったようである。松木さんはちょっと顔を赤らめて、ボソッと呟いた。


「あの、これからおじさんのところで食事する予定なんです。二人で…」


それは確かにそうだったが、何が関係しているのか私にはよく分からなかった。ぽかんとしている私を見た彩月さんは、


「これから何かと苦労しそうね…ふふふ」


といかにも冗談と言ったような口調で言った。私が分からない事で苦労しそうだという事は何となく分ったような気がする。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

なんとかさん

Author:なんとかさん
ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
普通のカウンター
投票
無料アクセス解析
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR