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ATJ アナザー⑮

車での移動。松木さんの住んでいる隣町までは15分程度かかる。遠いと言えば遠いが、ここらへんに住んでいる感覚だと比較的すぐに着くという印象を持つ距離である。車内で隣町の事について松木さんに話を聞いてみたのだが、彼女は何故か少し歯切れが悪く、

「その…えっと、良い処ですよ」


「大学があるんだよね」


「あ、そうです」



という何とも無難な受け答えになってしまっていた。私の知識では、隣町にはここら辺の人も良く通っている大学があって、そのせいもあって学生の町といった印象を受ける。松木さんもその大学に通っている。今は三年生だそうで、それ以上の事はどの学部なのかとか、サークルには入っているのとかなかなか聞き出せずにいる。もしかすると、歯切れが悪くなってしまう事の理由もその辺りにあるのではないだろうか。ただ、私としては無理に話したくない事を話さなくても良いと思っているので、松木さんが話す気になったらその時に知ればいいと思っている。自分の事について話せる話題がそれほど多いわけではないから、移動中のネタに私が学生だった頃の思い出について話す事にした。


「大学といえば、私は学生時代勉強しかしてなかったね。つまらない奴だったかも」


「何を勉強なされてたんですか?」


「学部は理学部だったけど、勉強出来る事は全部勉強しようとしてたね」


「全部…ですか。凄いですね」


「でも気付いたのは、あんまり目的が無かったって事かな。ただ勉強してそれで何とかなると思ってたし」


「今でも勉強が趣味なんですよね。私も勉強は嫌いじゃないんです。でも、何ていうか」


「何ていうか?」


「自分で何かを創ってみたいっていう気持ちがずっとあって、色んな事に挑戦してたんです」


「そうか、それでキャラクターも」


「結局どれも中途半端になっちゃったんですけど、時間的にこれが最後かな、って…」


それを言っている間に俯いてしまったので、私はその言葉がとても気になった。


「最後って?」


「あ。変な意味じゃなくて、もう三年だし来年は就活だろうし、時間を掛けられるのも多分…」


カーブを曲がり、長く続く直線で私は遠くの方を見る。私もあの時は色々不安だったのを覚えている。自分は色々な事が出来る人間では無いから、出来る事をやるしかなかったという事もあって、そんなに進路には迷わなかったのだけれど、学生時代の自由な視点で物事を考えていた頃に比べると一生活者としてどう暮らしてゆくかが大切な問題になったとき、考える事の範囲も狭く、より限定的になったようにも感じられた。だからなのか何かを始めてももはや趣味の範囲以上に出る事が出来ないようでもある。ただ、実際はそれでいいのである。自分は既に仕事を持っている。それを続けることが重要だと思うから、それを続けているのだし。その時私はこの話に関係するのかどうかは微妙だが、普段は意図がよく分からない父親の言葉が自然と浮かんできた。


「今実家で小さな商店を経営している親父がいるんだけど」


「はい?あ、そうなんですか」


突然話が変わったからなのか、松木さんも少し混乱している。話しているうちに何とかなると思ったのでそのまま続ける事にした。


「その親父も変な人なんだけど、たまに真面目な事を言ってさ今思い出したんだけど『いつだってやろうと思えば出来るんだ。面倒くさいけどな』って。それは今はよく分かるかな。弟の場合はその面倒くささを感じないのか、後先考えないのか、言っている間にもう始めちゃったりする性格だったよ。兄弟でこうも違うものかって思ったり」


松木さんは話に耳を澄ませていたのか、しばらく経ってからじっくり頷いて、


「そうなんですね。多分、そうなんだ」


と、何か感じ入った様子で感想を洩らした。そして少し不安そうに訊いてきた。


「あの…Nさんは『ケロ子』になるのは面倒くさいですか?」


「面倒くさいかどうか考えたことはなかった。気が付いたら、始まってたという感じ。逆に、何もしないで考え続けているだけの方が面倒くさくなってたかな」


「そうですか。良かったです」


松木さんはホッと胸をなでおろしたようである。そういう話をしている間に、いつの間にか目的地に到着していた。松木さんのおじさんの経営するというレストラン『シルフ』である。車から降りて、店に入る。夕暮れ時だったので、まだ人があまり入っていないようで、実質貸切状態である。厨房から男性が出てきて「いらっしゃい」と笑顔で迎えてくれた。松木さんを見るなり「可奈ちゃん、待ってたよ」と言った。どうやらこの人がおじさんらしい。私は気恥ずかしくて呼べないが「可奈」さんは、おじさんに近寄って、軽いハグをした。


「Nさん紹介します。こちら私のおじさんの「高城昭二さん」。母方のおじさんなんです。おじさん、こちらが話してた「N」さん」


松木さんから紹介を受けた私は高城さんに一礼した。高城さんも同じように礼をして、手を差し出してきた。料理人らしいしっかりとした手である。握手をしながら高城さんはとても嬉しそうに訊いてくる。


「あなたがNさんですか。噂通りとても良い人そうだ。姪をよろしくお願いします」


「はい。こちらこそ」


「おじさん。Nさんはね、凄く真面目な人なの。今日も頑張ってくれたから、美味しい料理お願いね」


「はいよ。任せて!!じゃあ、奥の席にどうぞ」


印象だと高城さんは松木さんと仲が良いらしく、明るい雰囲気とかは松木さんと似ている気がした。私達は勧められた席に座った。
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