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最高のパスワード

[忘れちまった喜び]


雪が降ると家でじっとしているしかない。一昔前はゲームでもして時間を潰していたが、近年では専らネットで適当に情報を漁って、得たものをそれなりに咀嚼して余計な一言を加えて発信するような事を繰り返している。年齢的にゲームが馴染まなくなってしまったのだ。子供の頃よくやっていたRPGもデータが消えたり消したりして無くなったりして、よくある序盤の面倒くさい作業を続けているうちに退屈してしまい、またストーリーも分かり切っているから楽しみが余りないのである。とは言え、ゲームをやっていた頃の記憶は残っている。ネット上で懐かしいゲームの事について少し語り合ったりすると、「ああ、そういえばそう言う事もあったよな、またやってみようかな」と思ったりもする。でも、始めると分かり切った展開に辟易する。


多分、そのあらすじについて語り合ったりする事が好きなのだ。「もしここであのキャラクターがこうしていたらどうなったんだろう?」と想像して楽しむ。今の傾向はそういう楽しみ方が共有されているのではないだろうか?


少なくとも、地道にパスワードなんかを入力する手間があったら知っている人に話を聞いて遊んだ気になってしまった方が良いと思うのだ。


今日も私は分る人には分るようなネタをネットに投稿する。



[ふっかつのじゅもんがちがいます]


最近の僕は憑りつかれたように過去のゲームで遊んでいる。というか遊ぶ前の段階で、死ぬほど時間を使って無意味に近いことをやっている。小学生の頃の拙い字で書かれた古いRPGのパスワードを片っ端から入力しているのである。それは僕がノートに必死にメモしたパスワードである。


「この中に、最強装備のパスワードがあるはずなのに…」


記憶を辿ると確かにどれかが素晴らしいパスワードなのである。何故そんな面倒くさいことをやっているかというと、ツイッターという便利なツールの140字という制限の中で最強パスワードをハッシュタグをつけてツイートするというブームが局所的に起っているからである。要するに多くの人がプレイした有名なRPGで最強のデータを試してみるという遊びなのだが、この遊びの肝は最強データの主人公の名前を自分でつけていたり、自分がプレイした記録も込みで再現されるのでそこが個性になって、ちょっとしたネタに出来るという事である。上手く行けば、ちょっとした伝説になるかも知れない。ただしこの遊びは一生懸命プレイした過去がなければ不正を除いて基本的にはデータが作成できないから、まさに過去に依存する遊びである。


「ああ…これも違う。本当にどれだろう」


几帳面に記録したのは良いけれど、その代わりノートにびっしり書かれていてどれが欲しいパスワードか分らなくなってしまっている。


「ええと、『おぱぜむとらけとろうもういとれ』…」


謎の呪文を唱えながら、そして時折入力ミスを繰り返しながらデータの発掘は続く。しばらく続けていると流石に効率の悪さに精神的に参ってしまい、眼球の疲労もあって一度休憩する事にした。雪に備えて買いだめしておいた特定の炭酸ジュースを飲みながら、もっと効率の良い方法はないかと一旦冷静に思考してみる。


「確か、このゲーム誰かと一緒にプレイしてたんだよな…」


微かな記憶でも何か手がかりになるかも知れない。もう少しで何かが分りそうな記憶に触れた感触があるのだが、どうしてそれが手掛かりになるのかを合理的に説明出来ない。


「あ、あいつだ。あいつ今何やってんのかな…」


僕が思い出しているのは小学校の頃近所に住んでいた友人。今どこで何をしているのかはよく分からないが、多分あいつのことだから色々上手くやっているに違いない。でも一緒にゲームをやっていたその友人が運良くパスワードを覚えているとは思えない。でも、もしかしたらパスワードの最初のところくらい微妙に覚えているかも知れない。とはいったものの連絡をとる手段がない。


僕はほとんど諦めて、気紛れにツイッターのタイムラインを眺めつづけた。



[微かな記憶]


ツイッターという便利なツールはネタの宝庫である。今しがた確認したところによると私が今思い出していたRPGで面白いタグがあるようである。「#ふっかつのじゅもん」で検索すると多くの人が謎の文字を打って投稿しているのが確認できる。察するに、これはこのRPGをやったことのある人が自慢のパスワードを呟いて、それぞれがデータを確認するという遊びらしい。


そういえば私もこのRPGをプレイしたことがある。といっても友人宅で友人に便乗する形で見続けて、パスワードのメモするときに私がパスワードを読んであげたりしただけである。中でも変な記憶があって、友人が


「これ『最強』のパスワードだから慎重に読んでね」


と念押しで言われたから、こちらも緊張しながら1字づつ「け・こ・う・で・ま」とかはっきり区切って発音したのだ。何故この最初の方の文字だけを覚えているかというと、多分その後もノートにびっしり書いてあった中のどれかを忘れたときに何度か指摘したからである。それ以降は分らないのだが、とにかく「け・こ・う・で・ま」なのである。


ネタツイートとしては不十分だし趣旨を逸脱するかもしれないが、こんな風に投稿してみる。


『「け・こ・う・で・ま」だけ覚えている友人の最強パス#ふっかつのじゅもん』


まあこれが何になるかというと、ただの自己満足である。



[ふっかつ]



タイムラインを見ていると、結構ネタツイートもある。「#ふっかつのじゅもん」のタグで明らかなボケとか、関係ない事とか、明らかなダミーとか呟いたりしていて紛らわしい。


「くそ、ブームが終わっちゃう…」


少し苛立っていて「諦める」という選択肢が浮かびかけていた僕は、ある一つのツイートに目が引き付けられた。


『「け・こ・う・で・ま」だけ覚えている友人の最強パス#ふっかつのじゅもん』


僕は強烈な既視感に囚われる。そういえばさっき、『け・こ・う・で・ま』で始まるパスワードをノートに見たような…。実際に確認してみると、ノートの真ん中くらいのページに他よりも少し汚れた感じのページに『け・こ・う・で・ま・と・ら・ん・か…』というパスワードがある。まさかと思って実際に入力してみると、見事に僕が探していた最強のパスだった。


「じゃあ、もしかしてあのツイートって…」


僕は急いでツイッターにそのパスワードを入力して呟く。念のため、先ほどのツイートのアカウントをフォローして、様子を見てみる。



[確かな今]



しばらくタグの様子を見ていると、


『けこうでまとらんか…#ふっかつのじゅもん』


というツイートがあった。そしてそのすぐ後にフォロワーが一人増えていて、それはこのツイートをした人らしかった。


「ま…まさか…」


私は念のため、その相手をフォローした。



[結末]



結果的にあの『ふっかつのじゅもん』は友人との仲を復活させた魔法の呪文だったようである。後日DMで確認し合った私達は、当時の記憶で時々語り合ったりしている。友人の呪文はネット上では惜しくも最強ではなかったようだが、このネタはある意味で最高のネタになっているようである。
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