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ATJ アナザー⑱

3度目の活動はその前から間隔が少し空いて、2週間後の土曜日だった。前回と同様今回も彩月さんから電話があって、「うちに来てくれるかしら?」と頼まれたので、快く了解した。友人に日にちを伝えたついでに「君も一緒に来る?」と訊いたところ、「場所分るから後から向かうよ」と言われた。


彩月さんから電話があったのが丁度一週間前だったので、事前に準備する時間が結構あった。準備と言っても松木さんとメールでやり取りをするくらいである。松木さんの方は、今回は色々と用意したいというような事を言っていたので、新しい試みについては当日どうなるか分らない部分もあるが多分、何とかなるだろう。私も私で出来そうな事がないかと考えてみた結果、一つだけ思い当たる事があったので、日曜日をつかって私なりに行動してみようと思った。


その日私はある人と会う約束をしていた。言ってみればその人は恩人で、この活動にとても関わりがある人である。名前は「高橋さん」。実を言えばその人とはちょくちょく連絡をしていた。同業者であり、先輩高橋さんは「ゆめ」というキャラクターの中に入っているあのおじさんである。高橋さんとは商店街にある喫茶店で待ち合わせしていた。


普通の姿で現れた高橋さんがやってくる。

「よう。お兄ちゃん。元気だったかい?」

「はい。おかげさまで。高橋さんの方はどうでしたか?」

「まあ、上々かな」

「それは良かった。座ってください」


高橋は座っていた席の向かい側に着席する。高橋さんはメニューを見てアイスコーヒーを注文する。多分40よりは上の年齢だと思うが、ベテランという風格を漂わせているので一緒にいると安心する相手である。どことなく素直で人の良さそうなところがあって、案外気配りが出来る人であるというのは電話越しのやり取りで窺えた。そして何となくイメージ通りの人だからか、話もし易い。


「この前報告した通り、前回で二回「ケロ子」の出番がありました。お客さんの反応も結構良かったです」

「そうかそうか。お客さんの反応が良かったのは多分、この前のキャラクター祭りの影響もあるんじゃないかな。後は最近の世間的なブームも大きいな。昔とは違う。今は非公式でも立派に活動している場合もあるから、要するに人気さえ出てくれば何でも良いのかも知れねぇよな」


「「ゆめ」の方はどうです?「ゆるキャラ」だから、何処か決まった場所で活動しているんですよね」


「ケロ子」と「ゆめ」の違いはそういうところにある。立場上ある特定の地域を活動拠点にしてイベントなどに出演できる「ゆるキャラ」と松木さんが独自に創った設定だけがあるキャラクターとは安定して活動できるかに違いがある。


「「ゆめ」は隣町に関係している。隣町は大学とかあって、夢のある街づくりをしたいとかいう町の希望があって誕生したんだ。時々そのお嬢ちゃんも通っているっていう大学のイベントにも参加したりしてるんだ。まあ基本的には町の要請があれば何処にでも行くけど」


「そうだったんですか。あ、じゃあ、松木さんも見たことがあるのかも知れませんね」


「かもな」


これは意外な事実だった。今度松木さんにも訊いてみよう。


「それで、本題なのですが…」


私には今日高橋さんにどうしても訊いておきたい事があった。


「高橋さんは、キャラクターにとって大事な事ってなんだと思います?」


高橋さんは少し間をおいて答えた。


「前はふざけて「ギャラだ」って言ったかも知れないけど、それとは別にやっぱり基本的な目的を忘れない事かな」


「目的ですか?」


「そう。例えば、「ゆるキャラ」なんて本来は飛び道具みたいなもので、活動したからって直接的に町が良くなるって訳じゃないんだ。だからついテレビとかなんかの悪乗りに参加しちまう事もあるけど、そう云う風にして得た何かが目的なわけじゃない。やっぱり自分の生まれた場所の良さを誰かに伝える、誰かに来てもらうって事が凡その目的になるわけで、それは常に肝に銘じることにしている」


「…確かに」


私は聞きながら大きく頷いていた。私と松木さんの場合の活動は「キャラクター」がメインで場所は関係なく誰かに喜んでもらいたいという願望があるという意味で、高橋さんの「ゆめ」とは背負っているものも、目的も異なる。だが、それでも基本的な「目的」を忘れてしまっては活動自体が曖昧になってしまう。それは少し怖い事でもあった。


「前にも言ったように、『ケロ子』の場合もいずれはこの町の商店街の公式キャラか何かになって活動していた方が目的ははっきりするよな。実際話を聞く限りでは今のところは順調に商店街に受け入れられていっているみたいだし…」


「そうなんですよね。私もこのままいけば何とかなりそうだと思うんです。ただ…」


ただ、松木さんはどういう気持ちなのか私はまだ分らなかった。というより、松木さんは「キャラクター」を大事にしていて、その世界観自体を世の中に受け入れてもらいたいのではないかと思う時もある。あの「キャラクター祭り」のクイズ大会の最後の問題に答えられなかった事が思い出される。


「あのお嬢ちゃん。松木さん、俺が見るところだと元気すぎるような気がしなくもないんだよな…というか、若い」


「若いですね。それは思います」


「それが良い方向に出れば面白いことになるんだけど、色々とサポートが必要だろうな」


「そう思いますか…」


こうやって第三者の視点で松木さんの事を評価される経験はこれが初めてではない。友人にも幾度か話を聞いてもらってアドバイスは受けている。ただ友人は松木さんを実際に見たことは無い。実際に見て少しでも関わった高橋さんの言う事は多分、それほど間違ってはいないのだと思う。


「まあ…」


高橋さんは運ばれてきたコーヒーを飲んで、案外楽観的な様子で言う。


「だからこそ、お兄さんが手伝っているんだろうけどな。お兄さん真面目だし、こうやって俺なんかの話もしっかり聞くし、多分大丈夫じゃないかな?」


「そう言って頂けると心強いです」


「あとは…」


今度はにやにやしながら少しからかうように言う。


「お兄さんと、お嬢ちゃんの関係が気になるところだな」


「え?」


既に友人から言われていた二人の関係について、高橋さんからも言われたので「やっぱり他の人からはそう見えるんだ」と思ってしまい私は少し恥ずかしくなってきた。


「それは…その…何となく…」


高橋さんは大きく笑う。そして大きく深呼吸をしてから、


「ふう…お兄さんもまだまだ若いね」


と言った。そういう意味で言われると、アラサーとはいえ私は否定できなかった。
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