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ATJ アナザー㉒

松木さんと駅で別れたあと、私はすぐに友人に連絡をした。「これからそっち行くけどいい?」と訊ねると、「いいよ」と答えてくれた。駅からは少し遠いところにあるので一旦自宅に戻って車で向かう事にする。日曜日の夕刻なのですこし急いで。20分後には見慣れたアパートの前に立っていた。ドアをノックすると友人がいつもと同じように迎えてくれた。「やあ」と私が言うと「やあ」と返してくれるところまでいつもと同じである。


部屋の中でちょっとしたやりとりをしながら友人から話したいことは無いかどうか窺う。特に変わった様子は見受けられない。私が来るまで静かになにかの本を読んでいた形跡がある。友人は私にはよく分からない勉強をしているという一面があるが、どうやら今日もその勉強をしていたようである。それに関する事なのか、友人は何気なく言う。


「やっぱり世界は広いなって事だよね」


私もそれを聞いて何気なく頷く。


「色々あるんだろうね」


ただの一般論だが否定できるものでもなく、ましてや最近色々と経験した私にとっては自然に肯定できる意見である。友人にしては珍しくもう少し語りたそうだったので、


「どうかしたの?」


と訊いてみる。友人は「いや」と言いつつも、


「まあさ、何ていうか分かり切っている事でも、実際のところは全然見てなくてさ、それでも分ったと思ってしまうのはなんでなんだろうなって、考えたりするよ」


少しだけ彼の言うところを私も真面目に考えてみて、なんとか捻り出そうとする。


「難しいけど、みんな似たような事を実は繰り返しているからなんじゃない?」


「そんなもんかな」


「多分」


友人は恐らく今日あった事で何かを感じている。長い付き合いだから分る。彼の言った事は今日の事とは関係の無いようで、どこかに繋がりがあると思うのである。私はそろそろかなと思ったので、今日の事を彼に説明する。


「今日さ、あの後終わった後なんだけど、彼女と付き合う事にしたよ」


「そうか」


言うなれば、彼の一言の影響でこうなったとも考えられるのだが、友人はどういう事を考えて言ったのか気になってもいた。またまた珍しく彼のほうから語り出す。


「いや、無粋かなとも思ったんだけど、まあ自分がそうだと思った事を確かめたい気持ちもあったかな。後はどうなるかよく分からない部分もあったけど、それが良いんじゃないかと思ったのも確かかな」


直接的には説明していないが、大体わかる。友人は私達の関係について自分が思ったところを素直に訊いてみて、その結果どうなるのかは分からなかったけれど、何とかなるんじゃないかと思ってそうしたのだ。


「ありがとう」


「何て言ったらいいか分らないけど、まあ頑張れ」


友人は何となく照れくさそうである。こういう話は本来彼の得意とするところではないけれど、一般常識的になのか、普通の事としてなのか、今日ばかりは二人ともごくごく平凡な友人としてのやり取りをしていた。ただ、彼からはちょっとした注意を受けた。


「自分の経験ではないから何とも言えないんだけど、あくまでそういう知識に基づいて言うけれど、気になる事があったらちゃんと相手に訊いてみた方がいいと思う」


「気になる事?」


「これからの話。何となくなんだけど、あの子がそこまでキャラクター拘る理由とか、分らないと言えば分らないから」


その時友人に言われて、私も確かに何かしら引っかかる事があったのは事実である。そういう事については想像するしかないのだが、想像力に乏しい私は、「そういう事もあるのかな」程度に考えていたのは確かだ。ただ、様々な事を考え合わせると、私は松木さんを十分に知っているとは言えない。


「うん、分かった。でも、」


そうであっても、私には言いたいことがあった。


「悪くないもんだよ。キャラクターに成り切るというのは」


私がそう言うと彼は大いに笑った。それも彼にしては珍しい事だった。そして彼は言った。


「君らしいと言えば君らしいね」



そう言われて私も面白おかしくなって二人で笑い合っていた。
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