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ATJ アナザー ⑤

イベントが終わり、私は『ケロ子』から普通の格好に戻った乙女と、この街を流れる大きな川沿いを歩いていた。既に日は落ちかけ、紅い空と夕陽は私達を後ろから照らし、それぞれの顔にほんのり影を与えている。乙女の下げている大きなバッグには、あの被り物が丁寧に仕舞われていて、小柄な体躯でそれを持ち運ぶのは一苦労だろうと感じられた。「持ってあげるよ」と言ったけれど、知りあって間もないし、これは私にとって大切だからと、断られた。先ほどと打って変わってテンションの下がっている彼女に何を言うべきか悩んでいると、


「送ってもらってありがとうございます」


と彼女の方から言われた。私の帰路はこの方角ではなかった。ただ、乙女が会場から少し遠い駅まで歩くというので、何となく「送るよ」と言ったのである。生憎私も徒歩で来ていたから、実際はただ一緒に歩いているだけなのだが。


「いや、全然。ところで、」


私は先ほどから気になっていた事を訊こうと思った。


「最後の問題、どうして答えなかったの?」


乙女はちょっと苦笑いになって、


「実は私、このお祭りがここであるって聞いて、よく分からないままエントリーしたんです。それも締切間際。で、あろうことか商店街の名前確かめてこなかったんですよね」


と言った。私はちょっと笑って、なるほどなと思った。このお祭りの趣旨は多分友人が言った通り、「ゆる過ぎて不人気なキャラクター」を集めることにあって、それは商店街も言明はしないものの明らかに狙ったのだと思われる。けれど、チラシにはさすがにそういう事は書けないから、「キャラクター祭り」としか記名されていない。遠くから意気込んで参加した乙女には、そういう噂は伝わってこなかったのだろうし、慌てて準備をしていた彼女はそういうことを確かめるどころではなかったのだろう。


「そうだったのか。残念だったね…」


ちなみに優勝したキャラクターには商店街で使える商品券と、あの商店街の公認キャラクターにしてもらえるという副賞があったのだ。残念がるだろうなと思うと、何故か様子が違った。彼女はちょっとはにかみながら言う。


「いいえ。それはいいんです。落ち込んでたのはそういう事じゃなかったんです」


「どういうこと?」


「私、あの問題に答えられなかった時、『ケロ子』だったらどういうリアクションするのか分からなくなっちゃったんです」






「ん?」


「いえ、だから、優勝する事ばかり考えていて、『ケロ子』になりきる事を一瞬忘れてしまったんです」


「あ、そういう事か」


私は確信した。この娘はとても真面目で、本当にキャラクターを愛しているのだと。普通なら、優勝させてやれなかった事を悔やむのだが、それよりも、キャラクター愛の方を優先させるあたり、愛し方が本物である。というか、友人だったら「思い込みが激しい」と言うかも知れない。何せ、その『愛』について教えたのは、他ならぬ私で、私は私で本当のところよく分かっていないからである。確かに彼女は『ケロ子』になりきることでキャラクター愛を私に見せてくれたのである。


「いや、でもそれも正しいんじゃないかな?」


私はあまり考えず言った。


「どういう事ですか?」


「だって、キャラクターを活躍させたいと思うのは、キャラクターを生み出した者としての愛じゃない?その愛と、もう一つキャラクターになりきるという愛がたまたまぶつかってしまっただけだよ。どちらを取るかは、どちらを優先させるかだけど、この場合、どちらも正解だと思う」



「そうですか?う~ん…」


乙女は少し悩み始めた。そして悩んだと思っていたら、突然何かを閃いたように、


「そうか。だけどそうすると…」


と呟いた。私はまた嫌な予感がし始めたが、何故だろう夕陽の美しさに無防備になっていたと、後から振り返るしかない。乙女は言い出したのである。


「そうです。二つの愛を実現するには、一人では十分ではないんです!!私が生み出したものとしてプロデュースして、他の誰かにキャラクターになり切ってもらうしかありません」


私は先ほどの落ち込みから急激に復活した様子に戸惑いながらも


「あ、そ、そうだね」


と相槌を打っていた。しかし、また彼女の表情が曇り出す。



「だけど…私、頼める人がいません…」



ああ、何故だろう。その表情がとても悲しそうだったから、そんな顔は見たくないと思ってしまったのは、夕焼けが美しかったからだろう。しかし結局のところこの日の私はどうかしていたのだ。何故、どうして、


「私でよければ…え?」


と口が動いてしまったのだろうか。


「え…、ほ、本当ですか?」


「う…うん…」


どうして、頷いてしまったのだろうか?未だにその理由が分からない。
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