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ATJ アナザー㉓

その日以降、松木さんとは前よりも頻繁にメールのやり取りをするようになったし、平日でも時間が空いた時などは『シルフ』で夕食を一緒に食べるような事もしている。『シルフ』では既に事情を知っている高城さんが私達をひやかすのだが、高城さんは最初からそうなるんじゃないかという予感はあったようで、前よりももっと親しくさせてもららっている。絶品の料理を食べながら、松木さんと次の活動とかデートの約束などの話していると、自分の事とは思えないほど人生が充実しているように感じられた。


『ケロ子』の活動はそれ以後も続いている。相変わらず一週間か二週間に一度のペースだが、蒸し暑い季節になる頃には既にその近辺では有名な存在になっていて、ネットでちょっとした噂が起るくらいにはなっている。「キャラクターよりも隣にいるお姉さんが可愛い」というようなネタで語られているらしいので、私達としては少し複雑な気持ちである。だが、『ケロ子』に会いに来てくれる常連のお客さんも増えている。その人達はいつも、

「また来てね!!」


と言ってくれる。お客さんの方も来てほしいけれど、私達にも来てほしいという何ともほほえましい関係である。松木さんからは『ケロ子』についての指導がどんどん具体的になって飛んでくるが、付き合って以降もプロデューサと演者という関係は崩れない。というか、むしろこちらが本来の関係であるような気さえする。それくらい松木さんの熱の入れ方は凄い。しかしながら切り替えもすばやくて活動が終わった後にはすぐ次に「今度どこか出掛けましょう」と約束させるから、私はあっけに取られながらもすぐ了承してしまう。



こういう様子を見ると友人の言うように『ケロ子』に拘る理由が確かに気になってくるところである。趣味でやっているという事だけなら普通はここまで積極的になれない。私はなんとなく松木さんに引っ張られてここまで来たが、活動が2か月くらいになった時にそろそろ今後『ケロ子』をどうしてゆくか話し合ってみた方が良いような気がした。このペースで続けるのか、それとももっと積極的にアピールしてゆくのか。



その週はちょうど活動がない週だった。前からの約束で活動がない週の土曜日に松木さんの町でデートをする予定になっていた。いつも松木さんがそこから電車に乗ってやってくる隣町の駅で待ち合わせた私達。私は少しカジュアルな服装を意識したが、センスのなさからか普段着とあまり変わらない格好になってしまっていた。待ち合わせ時間通りにやってきた松木さんは流石年頃の女の子らしくお洒落で明らかにデートを意識した服装だった。服装については松木さんからは直接的には何も言われなかったが、


「最初出会った日に、Nさんの事実はもっと若いって思ってたんです」


「多分、その日に来ていた服がちょっと若作りし過ぎてたからなんじゃないかな」


「ああいう服の方がNさんに似合うような気がしますよ」


というようなやり取りがあった。このあと何かを思いついたような顔をして、


「よし!じゃあ今日は服を買いに行きましょう!!もうすぐ夏ですしね」


早速予定が決まってしまった。駅から繁華街の方に向かって歩き出す。人もだんだん増えてきて、何となくどう見られているのか気になってくる。年齢もある程度離れているから私が「他の人から見ると兄妹のようにも見えるかも知れないね」と言うと、


「でもNさんって童顔だから多分恋人同士だと思われてますよ」


と答えられた。童顔も悪くないのかなと思った。




デートは順調に進んで、ほぼ予定を消化してしまったがそれでも何かを出来る時間はまだあった。折角だから松木さんの通っている大学の方面に向かってどこかで話でもできたらいいのかなと思って提案する。


「それならキャンパスに入っちゃいましょう」


松木さんは結構乗り気だった。私も学生以来の大学のキャンパスには入ってないから久しぶりでなんだかワクワクしてきた。大学に来ると、土曜日だがそこそこ学生がいた。松木さんはお気に入りだという図書館のエリアに向かいましょうと言った。そこは緑で囲まれていて、涼しげな場所だった。木が並んだ場所にあるベンチに腰掛ける。


「ここでゆったり過ごすのが良いんですよ。すぐに図書館にいけますし」


「本好きだったんだもんね」


私も学生時代図書館には相当お世話になったので、こういう場所は好きである。ここは人もそんなにいないけれど、おそらく真面目な学生は今日も図書館で勉強しているだろう。


「私…」


松木さんは徐に語り始めた。


「ここで色々考え事していた時に、『ケロ子』が生まれたんです」


「そうだったんだ」


「学祭の日でした。考え事をしていたら、友達が「あっちに変なキャラクターが来てるよ」って教えてくれて向かってみたら皆がキャラクターに対して声援を送っているのが見えたんです。あ、これは良いなって思いました」



恐らくそれは高橋さんの入っていた「ゆめ」である。ただ松木さんは遠目にしか見る事が出来なくて、どんなキャラクターなんだろうと想像していたら『ケロ子』のアイデアが生まれてきたそうである。



「それで『ケロ子』をやってみようと思ったんだね」


「そうなんですけど、実はもっと前から何かが出来ないだろうかって考えていたんです」


「活動の原点みたいなものかな?」


「そうですね。原点はもっと前の話なんです」


そう言うと、松木さんは遠い目をして何かを想っているような表情をした。それはこれまで私が見たことのない表情だった。


「聞かせてくれる?」


「はい!」


松木さんはにっこり笑った。
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