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ATJ アナザー㉔

「高校時代に好きな人に告白して振られちゃった話はしましたよね」


「うん」


「実はその後から続いているんです」


「引きずっているってこと?」


「ううん。そうじゃなくって、振られた後しばらく失恋ソングみたいなのを聴いてたんです。そこで偶然耳にしたあるミュージシャンの音楽を聴いたら、何だか今までにないような感動があったんです。それこそ心を奪われちゃうような…」


「あ…あるよね、そんではまっちゃうみたいな…」


「それはあるロックバンドだったんですけど、ボーカルの人の雰囲気が良くてすぐに全部曲を揃えてずっと聴きっていました。メッセージ性も強かったんですけど、なんかいつでも元気づけてくれて勇気を与えてくれるような曲が多かったんです」


「そうだったのか…」


「この話にはまだ続きがあるんです。ちょっと、というか結構悲しい話になっちゃうんですけど」


笑顔を見せながらも松木さんは切なそうな表情だった。


「大丈夫?」


「ええ…。大丈夫です」


というと彼女は大きく深呼吸をして、上を向いて眩しそうに太陽を見つめる。その時ちょうど風が吹いて木々がざわざわと揺れた。


「死んじゃったんです」


「え?」


「そのボーカルの人、事故で死んじゃったんです。こういうのってなんかロックスターの運命みたいなものなんでしょうかね?」


松木さんは笑顔を崩さない。それはなんというか色々な事を受け入れた笑顔のように見える。私は何も言えなくなってしまう。


「私、何となくですけどそのバンドの曲を聴くとその人達と一緒の時間を過ごして頑張っているんだなって気分になれたんです。おかしいですよね、会った事もないのに。でも、新曲が出るたびに、「ああ、この人達は今度はこういう方向に進むのか、じゃあ次はどこに行くんだろう」って想像を掻き立てられて、何となくどこまでも続いているような気がしたんです。実際、曲もそういう詩がありましたし…」


「もしかして、学祭の時には既に亡くなって…?」


「はい。学祭の1か月くらい前だったかも知れません。これから自分はどういう方向に進むのか悩んでいたのもありますし、学祭の頃は色々迷ってました」


これまでの話を聞いて、私は何となく松木さんが『ケロ子』に一生懸命になる理由がわかったような気がした。松木さんは続ける。


「一緒に進んでゆくのは無理かも知れないけれど、私が貰った元気とか勇気とかって、その人がいなくなったとしても続けてゆかなくちゃいけないような気がしたんです。それからは必死で…」


私は黙って聞いていた。だが松木さんは少し不安そうに、


「でも、どう考えても「その先」って無いんです。それは分かったんです。でもそしたら…」


「そしたら?」


「私が居なくなったら、同じように『ケロ子』も居なくなって、全部忘れられちゃうんじゃないかって…」



それはいずれ誰もが考える事なのかも知れない。続けている間は何かは続いているように思える。でも、それが終ったら人は忘れてしまう。少なくとも同じ時を生きるものとしてはそれを見る事は出来ないのだ。


「だからNさんが協力してくれるって言ってくれた時に私とっても嬉しかったんです」


「可奈ちゃん」


私は思わず名前を呼んでいた。その先はあまり自信が無かったが、私は自分の考えを述べる事にした。


「忘れられちゃうけど、それは同じ時を生きるものとしてではない何かとして残ってゆくんだと思うよ」


「え?」


それは友人とのやり取りの間に私がいつの間にか気付いていた事だった。


「私達は今に生きている。今に生きている人として言葉を聞いている。でもいつかそれが過去になってもそれこそそれを言った日の事が忘れられた頃になっても、変わらずに同じようにいつでも私達に届くように発せられた何かがあるんじゃないかな?」


「…」


「多分、私は遠い未来の人達に対しても、『諦めるな』って言いたいけど、それは時代が変わっても変わらない事だと思う。そういうメッセージを送り続けてくれたんじゃないかな?だから最初に可奈ちゃんがそれを聴いた時に引き込まれたんだと思う」



「最初の…」


松木さんは「あっ」と言った。そして、どこか遠くを見つめて「そうか」と呟いた。ちょっとだけ瞳を潤ませた彼女は、私の方を見て


「Nさん。手を繋いでもらって良いですか?」


と言った。


「喜んで」


松木さんの手は柔らかくて小さかった。彼女はそれまでの弱気を誤魔化すように言う。


「前から思ってたんですけど、Nさんの名前って変わってますよね」


「あ、それ言っちゃう?」


「だって、『虹野橋』って何ですか?」


「うちの親父が奇天烈だからね」


「じゃあ弟さんの名前は?」


「『虹野七光』。笑っちゃうだろ?これ本当なんだから」


松木さんは爆笑した。そして「ふふふ…」と不敵な笑みを浮かべて、


「今度弟さんにも会わせて下さいよ」


と言った。


「良いけど、凄い奴だぞ。兄から見ても!!」


「お兄さんも結構凄いですけどね!!」






これからどうなってゆくかは誰も知らない。でも知らないなりに、何か漠然と前よりも分っている事があって、意味はないかも知れないけれど、今もこうして続いている何かを確かめながら、夢ではないこの世界で、何度も何度もやり直すように何かをしていけたら、きっと間違いではないと思うのである。




下らないおしゃべりをしよう。喋れるということを確かめるための。
全部忘れてしまおう。やり直せるということを確かめる為に。
続きのない夢を見よう。夢を終わらせるために。
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