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流離のガララ

判然としない状況をコウモリ傘と呼ぼう。なんちゃって。判然としないというわけではないが依然としてパッとしない状況には変わらないこの市。律儀な怪獣ガララが現れて早3ヶ月、期待はしていなかったものの市の対応はよくある話で常に後手後手に回っていた。荒らされた道路の補修にしても市道と県道の国道の管轄が違うという事で一括して管理を行えないという事情がガララ対策の中で大きな問題となってしまった。

そもそも国の方針は数年前に制定した「特定怪獣保護法」に従って処理を行う事で決定しており法律においては怪獣によって荒らされた場合の損害については一定の基準で国が助成金を出すと明記されてあるのだが具体的な事については詳細を規定してあるガイドラインが存在し、ここに一癖があって、『道路』についての補償については県道なら「50%」、市道なら「40%」を上限とするというどういう基準で定められたか分らない数値に設定されていて、過疎化が進む一地方都市でしかないこの市にそれを適用すると、凡そ半分の道路については60%を自治体で賄わなければならないという計算である。


皮肉な事に律儀なガララは事故になる可能性の少ない=交通の少ない道路、つまり私道や市道ばかりを選んで歩くために、県や国はそれほど懐が痛くない計算なのである。国は「国際怪獣会議(IMC)」で提唱された『愛獣』を採用しているという国際的な評価を得られるし、県は地元怪獣として多くのメディアなどに売り込む事が出来る。それに対して現地である市のレベルになると事態は徐々に深刻化していって、いっその事「害獣認定」を得て超人的ヒーローに退治してもらった方が財政的には良いので、という意見が増えてくる。しかしながらここからがややこしくなるのだが、「害獣認定」をしてもらうには独立法人「怪獣ネットワーク」に申請をしてもらい、独自の調査を受けて、一定程度の「害」があると認められなければならない。独立法人とはいっても国の依頼で動く法人なので、第三者としての意見というよりは国の意向を無視できない機関で、調査も長期にわたる為、「害獣認定」の敷居は高い。なにより「害獣」として退治するとなると住民の良心も痛む。そして地方行政としては、超人的ヒーローに払う金もそれなりに多いし、退治によって蒙った影響は自分達でなんとかしなければならないという『契約』なので、貧乏な自治体ではどういう選択をするにしても金が掛かるのである。



長々と語ってしまったが、3ヶ月経っても一向に変わらない、どころか悪化さえしてきている状況に対して僕と、マリアさんと高良さんはまた愚痴半分で話し合っていた。


「先週、ガララに遭遇しましたよ」


僕は先週あった事を二人に話す。


「ガララって近くで見ると本当にデカいんですね。びっくりしました」


「そりゃそうですよ、なんたって10メートル級ですからね。写真で見れば分りますよ」


「でも近くで見たときの迫力で、本当にこれ踏み潰されたらたまったもんじゃないなって」


僕はその日近くのコンビニに酒を買いに行っていたのだが、目の前が急に陰り出して「何事か?」と思ったら、ガララが熱いのか汗を拭いながらダラダラと歩いているところに遭遇していたのである。話には聞いていたが、怪獣らしい覇気があまり感じられなくて、意図的というよりはむしろ不注意で何かされそうだと不安になった。


「あの子は優しいからそんな事しないわよ」


愛獣家のマリアさんはすかさずフォローする。今日のマリアさんはやたら上機嫌で、口調もどこか優しい感じがする。


「マリアさん何かあったんですか?」


話ついでに訊いてみる事にした。


「うん?なんでもないんだけど、塾の生徒に「先生って二十代ですか?」って言われちゃって。ふふ…」


謎多きマリア女史の年齢についてはこの会合の中では触れない事にしていたが、やはり二十代ではなかったようである。


「マリアさんはそんな事で喜べていいですよね。ボクなんてネトゲ―廃人になってまだ数年で甘いって言われてるから早くランクアップしたいくらいですよ」


「いっつも思うけど、何のゲームしてるの?タカラくん?」


マリアさんに質問された高良さん20歳は、不敵な笑みを浮かべて言う。


「ふふふ…訊いちゃいますか?いやー最近はサービスが終わったりしてあれなんですけど、古参の多いRPGですよ…」


「あ…そう」


自分で訊いておいて答えを聴くと嫌そうな顔をするマリアさん。本当は興味が無いのだろう。たまたま機嫌が良かっただけで。インドア派の窮みとでもいうべき高良さんがこの飲み屋に来るのは外の情報を仕入れるのに「効率が良いから」らしい。ゲーム内で効率ばかりを求めて多少嫌われたりもする『効率厨』を現実の方でも続けようとする高良さんの気概には目を見張る処があるが、真似をしたいとは思わない。だがネットの知識は高良さんが一番良く知っているから僕も高良さんに訊いてみる。


「そういえば高良さん、ネットでの動きは何かありましたか?」


「うん、それがね、ガララについては愛嬌があって徐々に人気が出ているらしいんですよ。アイドル路線もいけるんじゃないかとの噂が出ていて、秘密裏に県からも視察が送り出されたそうです。あくまで噂ですけどね」


「私はアイドル路線でいいと思うの」



あまり実りのない話をしている我々の中でも情報共有によって一定の共通した見解と意見が出来つつある。実をいうと僕もアイドル路線には賛成している。実際にこの目でみた感想だが、ガララには独特の『憂い』があるように思えるのである。それはなんというか、怪獣として生まれてきたけれど、その事に対して肯定的ではないというか、どこか人懐っこいところがあるというか…そういう雰囲気の事を二人に話してみると、


「太郎さんって、案外情に脆いタイプですか?」


と高良さんに言われ、マリアさんには


「やっぱりあなたには見る目があるわね。私が思った通り」


と自信満々に告げられてしまった。どちらも否定するわけではないが、そんなにはっきりした事ではない。ガララの気持ちは推し量っているだけだし、偶々ガララが汗を拭う様に同情しただけかもしれない。しかしマリアさんは何を思ったか話を広げはじめる。


「じゃあさ、まず私達でガララをアイドル化させてみるのはどうかしら?手軽なところでネットで適当にツイッターとかブログを立ち上げて、ファンクラブみたいにするのよ」


「はぁ…」


僕も高良さんもこれにはあっけに取られていた。高良さんがとても厭そうな顔をしているのは気のせいだろうか?


「ネットでやる事って結構時間取られるんですよ…ただでさえログインし続けているから同時進行でやるのはきついですよ…」


いや、それはゲームをし続けながらやるときついけど、ゲームを中断するという選択肢はないのだろうか?気にはなったが、高良さんの性格を考えると訊くまでもないと思ったので、僕はとりあえず火の粉が自らに降りかかってこないように注意する。


「僕はネットとかあんまり詳しくないですし…」


「私も詳しくないもん。日本語」


「そこですか?問題ないように思えますけど…」


「文章を書くとなると話すのとは別なのよ。別に英語で書いてもいいけど、この辺で英語が堪能な人って限られてくるわよね。ということは、タロウくん」


「はい」


「あなたが勉強して立ち上げてちょうだいよ。ファンクラブ!!」


押しの強いマリアさんに言われて押し付けられそうになっているが、僕はそんなに乗り気じゃない。第一、僕の気持ちはファンというよりは、同じ生物としての同情に近いもので、『生類憐みの令』的なものである。それに4度パンクした車を弁償して貰わなければ僕としても納得がいかない。まあ、それについてはほぼ許してはいるのだが、けじめがついていない気がするのだ。マリアさんにそれを伝えると、


「これだから日本人は…そんな事じゃ、金もうけにならないわよ?」


「は?」


意外な言葉が出てきたので、訊き直してみる。


「あの…金もうけって何ですか?」


「金を儲ける事じゃないの?普通」


「いえ…それは分かってますけど、どうしてファンクラブから金もうけになるんですか?」


「ちっとは知恵を使いなさいな。ファンが集まれば、『ガララ支援金』ってのを募って、お金を集められるじゃない。それに今はブログにアクセスするだけでお金が入ってくる仕組みもあるみたいよ。アクセスが増えて、お金ががっぽがっぽ!!」


「マリアさん一体どういうところでそんな知識とか、日本語を覚えてくるんですか?「がっぽがっぽ」って女の人はあんまり使いませんよ」


つっこみどころはそれだけではないのだが、マリアさんのお金に対する執着はガララに対する愛着よりも強いのではないかと疑われるほどである。高良さんも呆れていう。


「マリアさん。今どきアフィリエイトなんてそんなに儲かりませんよ」


高良さんが言う事は確かなのだが、根本的なおかしさをスルーするのが彼らしい。


「あ、そうだわ。タカラくんそういうの詳しそうだから、ビジネスになりそうな事を次に集まる時までに調べてきてよ」


「え…?面倒くさいな…まあいいですけど」


了承するのも高良くんらしい。だが高良くんはこう続けた。


「じゃあ太郎さんにメールしますから、適当に始めちゃってくださいね」


時々、この会合の進行が不安になる。とにかくガララについては小さなレベルで何かが始まるのかも知れないという事だけは言っておこう。
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