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運命はなんぞ

例によって晴れ。

僕みたいな世間から切り離されそうな人間は物事を曖昧に、自らを愚昧にすることでなんとか精神を保っている。

例によって冗談。

僕は限りなくニートに近い大学院生である。しかも引きこもり気味で、趣味とよべるものはアニメ。典型的な駄目人間直行中である。

例によって卑下。

挨拶もそこそこに僕の悩みを打ち明けようと思う。やっぱりやめた。僕は携帯をしまってレジに向かう。チョコレートとパンを持って。


「そこのお兄さん!!」


突然身長の低い人間が僕の前に立ち塞がった。身長が低いとはいってもそれは相対的な評価であって、この場合少しばかり体格に恵まれている僕よりも小さい人間という事になるから、そいつも160センチはありそうに思われる。


「誰ですか?」


と僕はオーソドックスな質問をしてみた。この場合最もオーソドックスなのは「何ですか?」なのかも知れないと言ってから気がついた。


「私が何であろうと関係ありません。貴方はとにかく何かと関わらなければならないのです。だから私がその役を買って出たまでなのです。とにかく今はさっさと精算を済ませて私の後についてきて下さい。」


新手の勧誘だろうか。

「新手の勧誘ですか?」

そのまま聞いてみた。

「質問は一切受け付けません。とにかく事態は一刻を争います」

「何っ!?そうだったのか!じゃあ僕はさっさと録画しといたアニメを見なきゃいけない」

と僕はレジに向かって走り店員さんに向かって品物と210円を差し出した。店員さんも慣れたもので、

「はい、調度お預かりします」

と気を利かせてレジスターを見ないで精算を済ませてくれた。僕の昼飯はコンビニの菓子パンとチョコレートに決まっているのだ。袋詰めにしてくれている間に先程僕を見上げていた人間がいた方向に目をやる。案の定ふて腐れている。やばい、目が合ってしまった。奴はまた近付いてきたかと思ったらおもむろに


「いいですかお兄さん。人間諦めが肝心です。私の言う通りにすれば万事うまく行きます。でも貴方が貴方のやり方を貫こうとすれば必ず不幸になります」


僕はそこで初めてこの人間の性別が気になった。といっても、そいつはほぼ間違いなく女性である。まず声と顔でわかる。特徴はまるでない。敢えて挙げるとするならば眼鏡をかけていないという事くらいだろうか。僕の周辺にいる人間は眼鏡だらけだからかえって珍しいのである。『彼女』は視線に気付いたのか


「いま貴方は私の身体的、主に容姿における特徴に興味がおありのようですね」

と切り出した。

「いや、あんまり。僕って極端なまでに名称に興味がないから君の髪型が『おかっぱ』ではないとかアニメによく出て来るような奇抜なヘアスタイルでないとかくらいしか感想抱けないんだよね。どちらかというとショート?」


「私も私の髪型が何と呼ばれるものなのかは存じ上げておりません。貴方が見たまま『どちらかというとショート』で良いのではないでしょうか?」


レジ袋を受け取ると僕は出口に向かって歩き出した。やはり彼女もついてくる。それどころか先導しようとさえしてくる。


「私はこれでも容姿には自信があります。その気になれば彼氏の一人くらい軽くゲット出来るのではないかと」


僕はこれ以上ないくらい疑いの眼差しを向けて言った。

「嘘でしょ」

「はい。今のはちょっと調子に乗りすぎました。でもそんなに悪くないでしょ?」

先程から一貫して彼女は努めて真面目を装っている。だが時折覗かせる照れ臭そうなそぶりに僕の心は揺れそうになった。でもそれは無理に揺さぶったのかも知れなかった。僕は実のところ異性がどれほど可愛いそぶりを見せたところで興味がない。それはどうも相手の目線に立って考え、さらに同性として扱ってしまうからのようである。相手が女心を持っているなら僕もまた女心を持ちたがる。そんな感じだ。


「うぅ・・・私の事なんてあんまり興味ないんですね・・・」

「そりゃまあ、出会ったばかりだからして」

「それ、理由になりませんよ!だってもし私が魅力的だったら見た瞬間に興味津々でしょ?」

そこで僕はふと考える。たしかに。でも。

「いや、僕の場合自分が関わると決まった人しか眼中に入れないようにしてるからね。今だって君が、あ、いや貴女がこれ以降僕に関わらないんだというのなら僕は記憶の片隅に置くだけに留めて深入りしない。ようするに」


「お兄さんが面倒くさがり屋ってことなんですね。私に魅力があろうと無かろうと、そんな事には惑わされないくらい」


「まあそういう事だね。だから君も・・・」

と言いかけたところだった。突然彼女は言った。

「実は私には2歳年上の姉がいます。この近所のアパートで私達姉妹は生活しています。どうですか?」

「どうって何が?」

「だから!これで少しは興味を持ったでしょ?私だけでなく私の姉も。両手に花ですよ、これって」

僕もさすがに混乱してしまったために


「はぇ?」

と間抜けな声を出してしまった。世の中のことを知らない僕でもこういう人がいるという事に驚愕せざるを得ない。ますますもって目的が不明である。女性は尚も自信満々にまくしたてる。


「「はぇ」じゃないですよ。ラブコメでもラノベでもアニメでもなかなかそんな状況はないんですよ!!お得!!」


流石に常識人を地で行く僕は突っ込まなければならない。


「お得じゃねぇよ!自分を安売りすんなよ!!なんだ今はそういうのが流行ってるのか?こういう状況の方が滅多にないよ!!」


大声を出すと彼女は急に不敵な笑みを顔に浮かべて僕をじっと見つめる。

「お兄さん。なかなか出来る人だね。私の見立てだと突っ込みにピッタリ。どうだい、アタシと漫才コンビを組まないかい?ふふふ」

もはや目的がずれている。我慢の限界に達した僕は厳しい口調で言った。

「僕はね、将来研究者になりたいの!!今はこんなんだけど」

今はこんなんだけどと補足しないと本当にどうしようもない人間に見えてしまう格好の僕。自分で言ってて悲しくなる。謎の女性はそれでも挫けないようである。

「うん。知ってる。だってお兄さん、『運命管理局』に目をつけられちゃったってうち等の中では有名だよ」

「は?(真顔)」

僕は訊きなおした。

「うんめ?何て言った?」

「『運命管理局』だよ。お兄さん」

「何それ?」

本気で分からなかったので、素で質問してしまう。好奇心旺盛な自分の性格が出てしまったようである。

「この世界には大雑把な『運命』があってね、あんまりそれに逆らいすぎると身を亡ぼすっていうか、あんまりいい思いをしなくなるの。でね、その『運命』の中で世界の行方に関わる大きな『トリガー』にあたる人が一定数いて、その『トリガー』をなるべく早いうちにそのままの方向とは違う方向に向けるように仕向ける仕事をするのが『運命管理局』でお兄さんはそこにマークされちゃったの」


電波が飛んでいる。ガラケーの電波とかじゃなく、関わっちゃいけない電波がこの女の人から出てる。いくらアニメに造詣が深い僕でも現実と区別のつかないこの強力な電波には驚愕せざるを得ない。とはいうものの、一応「中二病」の範疇としては設定として面白いので好奇心のあまり、僕は女性に尋ねてしまう。


「ちょっと質問なんだけどさ、『世界の行方』ってどういうレベルの話なの?たとえば地球環境とか?」

「…人類滅亡」

先ほどまでとは違って重々しい口調だったので、僕は少しだけ話に引き込まれそうになった。が、そこは大学で難しいことを勉強した身。冷静に思考しながら相手の情報を引き出すように話す。

「すごいせって…いやすごいことだけど、仮にそれが本当だとしてどうして僕なんかがそんな『トリガー』になっちゃうわけ?」

「お兄さん。難しいこと知ってそうだから『バタフライ効果』って知ってるよね」

「うん。知ってる。アバウトにいうと、蝶々の羽ばたきが竜巻とか台風とかになるとかだったはず。難しく言うと初期値のちょっとした違いが、大きな差異になって表れてしまう事だ」


「さすがだね。私は理論はアバウトにしか知らないけど、でも『運命ベクトル』っていうものが実際に見えるんだよね」

「『運命ベクトル』?」

僕は相当胡散臭そうに思っている。というか日常生活でも単なる「向き」の事をわざわざベクトルとかいう人は胡散臭いと思ってしまうのである。というのも、数学の厳密な定義がある対象であるベクトルは、スカラーとかテンソルとかそういうものと一緒に考えられた時にこそ、多くのことを記述するのに、日常生活でテンソルって言う人がほとんどいないからである。とはいえ、アバウトな感じだと今自分が進んでいる方向というのはある程度イメージできるし、ダメとか良いとかという評価もその方向に向かっているかどうかで判断するなら、まあ通じなくもない。

「要するにそれって、僕の運命がおおよそ見えるってことでしょ?」

「話が早くて助かるよ!!でね、ここからが大切なの」

「なに?」

「私たち『運命ベクトル』が見える人は、実はささいなことだけど微妙に意味のある一見すると意味不明な行動をとって『運命ベクトル』をずらすってことをやっているんだよね。まあ『運命管理局』のお触れが出されることはめったになくて、大体の場合はそれぞれの判断で、それぞれが望むような方向に変えていいから自由度はあるんだけれどね。要するに危機的な状況さえ回避してよければ基本的になんでも良し」

「本当にアバウトなんだね。じゃあ、自分がそうしたいという方向に操ることもできるってこと?」

「それもアクションの激しさ次第かな…実際、今私がお兄さんに無理やりで不自然な行動を起こせば大きく変わるんだけど、やりすぎると私が注意されちゃうし、また別の人が動き始めるしね…難しいんだよねその辺」


「でも、そんな管理局があったとしたら、その管理局の思惑通りになっちゃうじゃないか」


そう言うと女性は言いづらそうに、

「その辺はそのあれなんだけど…管理局は自戒の意味もこめて、直接お触れを出すのは誰にとっても良くない結末の時だけで、ほかは見守って何もしないんだよね。それでこれが一番重要なんだけど、管理局に強制力はないの。だから実際のところみんながそれぞれいいと思った行動をとるだけなんだよね。ヤバいとき以外。実際自然災害は未然に防げないし、誰かの事故を回避するようにできるかというとそれは無理で、精々確率が低い方向に誘導することくらい…」


「つまり、そのヤバいのが僕の行動ってこと?」

「そう」

これはあっさり言われた。

「でもそれ言われても信じられないでしょ?じゃあ変えられないじゃん」

「それは別にいいの。実は私がこうしてアクションしたことでも結構無理やりになっていて、お兄さんに接触して私の言ったことがどこかに残っているだけでも大分違うの。まあ一番確実なのは、これから私としばらく一緒に行動してもらえば確実なんだけどね」


僕は深く考えた。彼女のいう事が確かかどうかは僕には分かるはずもない。僕の意思次第で世界がどうなるとか、そんなことも信じれるわけがない。だが、この女性と一緒に行動したからと言って暇な時間が少し減るだけであんまりデメリットはなさそうである。信じてはいないけど、アニメを見るくらいなら暇つぶしにこの女性と行動してみるのも面白いのかも知れない。それでも念のため訊く、


「ねえ、やっぱり新手の勧誘じゃないよね?」

「お兄さんって面白いね。お姉ちゃんに紹介してあげるよ」

「だからそういうのが勧誘じゃないの?」

「ん…でも考えてみれば勧誘でもいいんだよね。あ、そうなの。実は勧誘なんです」

ケロッと言われても、今までのことが頭に残ってなんとも中途半端になってしまっている。僕はやけくそ気味に言った。


「じゃあいいよ。勧誘に乗ったってことで。変なもの売りつけなければ」

「ありがと!!お兄さん」


実のところ、僕はこの女性がそんなに嫌いではなかった。好きというとかでもないが、要するに、ファンタジーにちょっと付き合って人助けしたと思えば、まあまあ受け入れられる「運命」だったのである。
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