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嫉妬して猫

嫉妬という醜い感情を誰もが持っている。自分ではさっぱりした性格だと思っているわたしも時にはそういう感情を持つことがある。ただし普通なら性格のまったく違う同性が異性に対して上手く取り入っている様子に嫉妬するという事が一般的なのだけれど、わたしの場合嫉妬の対象は猫である。どういうことかというと…

「よしよし、いい子だね。クロ」

現在わたしと交際中の彼は、異様に猫好きでわたしが家で飼っている猫に対してやたらめったら溺愛している。彼は『クロ』という黒猫をまるでわが子のように可愛がり、普段しゃきっとしている人だけど、その子にだけしか見せないふにゃふにゃの顔つきで今もクロを見つめている。わたしは自分でそんなに可愛げのある人間だと思っていないけれど、初めてこの部屋に彼がやってきた際の豹変ぶりにはさすがに「何だこの対応の違いは!?」と当惑せざるを得なかった。以来、わたしのところに来るたびに猫用のおもちゃを毎回持ってきて、家にいる間中ずっと猫の相手をしているような状態である。一か月くらいは我慢できたわたしもさすがにイライラしてきて、

「あのさ、猫とわたしどっちが…」

と言いかけるところまで来てしまった。

「ん?何?」

これを言ってしまうと嫉妬したということになってしまうのでその時はこらえたが、

「うん。何でもない」


と返したら本当に何も気にしない様子で「そ」とだけ言って猫と戯れ続けていたので呆れてしまった。ちょっとは気にするだろう普通。こういう話はよくあることなのだろうか?と疑問に思ったわたしはネットのSNSでこんな投稿をしてみる。

『彼が猫ばっかり構って、わたしの相手をしてくれません』

すると、似たような経験をしている人が何人も見つかって、その人達と愚痴をこぼしあうような展開になってしまった。でも、これを投稿した時点で、「猫に嫉妬している」という事は確定してしまったようなもので、わたしは自分に似合わないことをしてしまったと思ってちょっと頭を抱えた。SNSの友達には、

『じゃあいっそ、あなたも猫耳をつけて彼を誘惑しちゃったらw』

と茶化されたが、まさかそんなことは出来るはずもない。わたしの心情がそれを拒んでいる。もちろんその人も本気で言ったわけではない。ほんの冗談のつもりだったはずだ。でも…



なんの因果だろう。わたしは最新のセンサー内蔵の猫耳をつけて部屋で彼を待っている。この猫耳はわたしの脳波を感知してわたしの気分に応じた挙動をしてくれる代物なのだ。わたしがイライラしていると猫がそうするように耳を立てて…とかそんな感じに。10代でもこれは恥ずかしいのに、いい歳の女がこんなものを着けているなんて一種の屈辱とも言えないだろうか。商品開発者には悪いけれども、こんなの一般の人にはハードルが高すぎる。とはいえ、なんだかんだ言って新し物好きで、テクノロジー万歳なところがあるわたしは、「これなら彼も気づいてくれる」と思ってつい衝動買いしてしまった。


「やあ、陽子。来たよ」

彼が部屋に入ってくる。クロの方を見ようとした彼がわたしを二度見したのを見逃さなかった。

「これどう?」

何か凄いものでも見つけたようにわたしを見つめる彼。

「あ、それ…」

しばし間があって彼はこう続けた。

「可愛いね。こういうときって何て言うんだっけ、も、萌え…」

案外これはいい作戦だったのではないだろうか。でも何か様子が変である。彼はわたしに近づいてきて、猫耳を触りたがっている。

「ああ、いいなこれ…俺ほしかったんだよな…いいなぁ」

わたしは嫌な予感がした。

「俺も買おうかな」

彼はわたしのことなどそっちのけで、猫耳に興味津々になってしまったのである。ついでにさりげなく「クロ」を抱きかかえて、「クロ」に触らせようとしている。

「ほらクロ。これいいよな~ふわふわ」

椅子に座ってじっと耐えるわたし。猫耳は立ったままである。でも段々哀しくなってきて、次第に猫耳はふにゃっと垂れ下がってしまう。


「あ…これってリラックスしたわけではないよね?もしかしてガッカリさせちゃった?似合うねって言わないとダメな感じ?」


「似合うとは言ってほしくないけど…」

これでわたしのことを気にさせて、配慮してくれるのは少しうれしいけれど、なんだか無理やり彼を誘導しているみたいで心から素直に喜べない…でも彼はこの後なにか言い出しづらそうにぼそぼそ言い始めた。


「あのさ…その実は今日この後外食しないって誘おうと思ってたんだよね」

「え、別にいいけど急になんで?」

「だって今日はさ、付き合って丁度一か月の日じゃん」

「!」

「食事の後さ、なんかプレゼントしようと思ってたんだけど、何買ったらいいか分かんなかったからショッピングでもしようよ。記念日ってことで」

わたしは突然のことだったのでジーンと感動してしまった。猫耳はそれを読み取ってせわしなく動き出している。


「あれ、どうしたの?これって何だろう、なあクロ」

するとクロはわたしの方に飛び乗ってきた。そしてわたしの顔に鼻をすりすりさせて「にゃ~」と鳴いた。そう。わたしは思い出した。彼と出会う前に寂しいときわたしを慰めてくれたのはクロだったのである。クロはわたしの可愛い猫。いま思うとクロに嫉妬していたのはおかしなことだったかも知れないし、クロも彼がやってきて、少しだけ彼に嫉妬してくれていたのかも知れないのである。


「やっぱりお前もご主人様がいいのかな…」

クロの懐き方を見て彼は少し残念そうである。でもわたしは彼に言った。

「でもわたしはあなたがいいにゃん!!」

それを聞いて驚いた彼。わたしの性格上、猫耳でもつけた今だから特別サービスのようなものである。多分、二度と言わない。多分…
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