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眠りのガララ

パンケーキにしようか、パンアメリカにしようか…なんて冗談をいつかのために記憶の片隅に保存した僕は怪獣ガララが現在居座っているとある公園に向けて車を走らせているところだった。車にはマリアさんと高良さん…の代理で来た高良さんの高校生の弟が乗車している。高良さんの弟は高良さんに目元がよく似ていて、兄と同じで目の下に隈を作っているのが印象的である。下の名前が「光太郎」だそうで、呼びやすいので光太郎君と呼ぶことにする。なぜ光太郎君が車内にいるのかというと、マリアさんも含めた三人で以前計画したガララの写真を撮りに行く道のりなのである。飲み屋では参加しないことを表明していた高良さんは後になって申し訳ないと思ったのか、メールで

『代わりに弟を派遣しますので』

と報告してきた。なんでも光太郎君、高校では写真部に入部しているらしく、前々から被写体としてのガララに目をつけていたそうである。車にて家まで迎えに行った際、

「兄がいつもお世話になっています」

と丁寧な口調でどこか大人びている雰囲気がある人だと思ったのだが、今も静かに高級そうなカメラのレンズを真っ白な布で磨いている。

「光太郎君はラテン語に興味ない?」

気を利かせて話しかけるマリアさんだが、ここでも勧誘するあたり流石といったところである。

「いえ、どちらかというとドイツ語に興味があります」

マリアさんが塾を経営しているのを知ってか知らずか、光太郎君はこれを躱す。

「そう?ドイツ語なんてあんまり役に立たないわよ」

さり気なく他言語をディスるのはやめた方が良いと思ったが、マリアさんの母国が財政が厳しいのにあまり支援してくれないEUの一国に対してちょっとした恨みがあると以前聞いたことがあるので、もしかするとそれなのかなとも思った。

「もうそろそろですね、ほらあれ」

僕がそう言った頃には既に公園が見えていた。大きいガララはそこからでもかなり目立っていて、慣れてない人には一種異様な光景が広がっている。

「やっぱりデカいわね」

「ああ…」

二人ともガララを見て何か思うところがあるようである。光太郎君はすぐにカメラを構えて、レンズ越しにガララを見ようとしている。「プロっぽいな」と僕は感じた。マリアさんはというと何故か手鏡を取り出して表情筋を動かしながら自分の顔を見ている。

「どうしたんですか?マリアさん」

と訊くと、

「スマイルの練習」

と言った。ガララに分かるのかどうか不明だが、マリアさんらしいといえばらしかったのでそのまま受け流した。

公園に到着すると光太郎君は勢いよく車から飛び出した。若さあふれる俊足でガララに接近すると、パシャっと遠距離から一枚。マリアさんと僕はゆったり車から降りて、その様子をボーっと見ていた。ガララは丁度睡眠中で、公園の真ん中で仰向けになって寝ていた。天候も良かったので、気持ちよさそうにも見えた。

「なんか、ほのぼのしちゃいますね」

「あの子はお昼寝が好きだって言うからね」

ズーズーと少し大きめであるが体格からすると常識的な範疇の寝息を立てるガララ。それを見物している数人の子供とその親。人間に危害を加えないと分かっているから、子供もガララの体をペタペタと触ったり、

「おーい」

と声を掛けていたりしたがガララは熟睡しているようである。ガララがこの公園を居住地にしているのには幾つかの合理的な理由が考えられる。それはこの公園の付近には電柱がなく、電線が地中に埋められているため、ガララが移動しやすいからである。電柱から伸びている電線に引っかかることを気にしてか、ガララは特定の範囲しか動き周らない。電柱がないこのあたりの移動は楽なのだろう。それともう一つの理由は、この公園が割と郊外にあるので人が迷惑をしないという事なのである。


「ガララって知性があるんですかね?」

僕はマリアさんに尋ねてみた。

「なんていうか、空気を読むわよねあの子」


怪獣について先進的な考え方をしているマリアさんの国では、研究も多くなされていると聞く。ネットで調べてみると一定の知性はあると証明されているようである。僕もこういうほほえましい光景を見ると実感として、ガララも僕らの仲間なのではないかと思えてしまうときがある。ただ一つだけ解明できないことがあって、ガララたち怪獣が一体何によってエネルギーを取り入れているかが今のところよくわかっていないそうなのである。ガララもそうだが怪獣が食事や排せつをする瞬間を誰も見ていない。まあそもそも人類にとって怪獣が存在することの方が不思議なので、殆どその問題も未知の力によってで説明されてしまうことが多い。ある仮説では宇宙に存在するダークマターを取り入れているのだと言われているが、それも定かではない。とにかく起こっている現実は…


「ガララ、寝てますね」


写真を数枚撮り終えた光太郎君がこちらに戻ってきた。謎と言えば何もガララだけでなく身近にいるマリアさんも高良さんも謎多き人なのだが、光太郎君はどうなのだろう。一見すると普通の高校生だが、お兄さんの影響で何か変な事でもしていたりするのではないだろうか…


「光太郎君は写真以外になんか趣味あるの?」


それは本当に何気ない質問だったのだが、光太郎君は深く悩みだして、


「う~ん…」


と頭を抱え込んでしまった。真面目そうだなということだけは分かった。


「わたしは温泉に行くのが趣味よ!!」


訊いてもいないのにマリアさんが答えた。


「だから今度連れて行ってよ」


と言うのを忘れないあたり強者である。僕は「気が向いたら…」と言葉を濁して、

「そんなことより僕らも写真撮りましょう!!」

と切り替えた。




後日、飲み屋に集合したマリアさんと僕と高良さんは撮り終えた写真を見比べていた。光太郎君が撮った写真が一番出来がよく、マリアさんの写真はちょっとピンボケが多く、僕のは無難な写真が多かった。


「やっぱり餅は餅屋ね!光太郎君に任せてわたしはその『編集』って事でいいわよ」


「編集はボクがやりますけど…」


「そしたらわたしにお金入ってこないわよ…あ、そうだわ!!」

また何か思いついたらしいマリアさん。


「わたしが直接写真集を売るからそのマージンをいただくことに…」

何でもいいけれど、一つ言っておかなければならないことがあったので僕はいう。


「どっちにしても『ガララの寝てる姿』だけじゃ写真集になりませんよ。だからこれはブログにアップしますね」


「えぇ~そんなぁ…」


そう口では言うけれど、これはマリアさんお得意の大げさなリアクションで実際のところマリアさんはあの日ガララを見ただけで喜んでいたのである。

「お金儲けって難しいわね…」

それは多分、マリアさんが自分で経験してよく知っている事だったし、こういうリアクションは我々の集まりで何かを始めるきっかけとして確かに良い効果があるのである。


「今度温泉に連れて行ってあげますから、ね、高良さん!!」
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