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お嬢様の退屈

お嬢様はいつも退屈そうである。名家の長女として生を受けたお嬢様は我々執事に対して手厳しい。突然サングラスを手渡されたかと思ったら、「いいともが終わるから、お前らタモさんになれ」と無茶ぶりをした。育ちがいい割に大衆受けするものを好むお嬢様は長年「いいとも」を視聴してきたのだが、此度の番組終了には一定の理解を示しつつも身勝手な性格がそれを良しとしない。何かあると代替物を用意しなければならない我々執事一同、総勢6名は毎度出される無理難題に、「これじゃまるで『かぐや姫』の大臣たちみたいだ」と不平を溢しながらも、このご時世に恵まれた待遇で出来る仕事が非常に惜しいと思っているのか、プライドはずたずたになりながらも何とかしてお嬢様のご機嫌をとろうとしている。


一人目の執事「田中さん」は、結構イケメンなのに黒いサングラスを掛けるとただのSPみたいになってしまったが、それだけではなくマイクを掲げておなじみの「明日も見てくれるかな?」を堂々と実演した。しかしお嬢様は、

「明日はねぇんだよ。お前タモロスなめてんじゃねぇーぞ!!」

と怒鳴られた。そこにすかさず二人目の執事「高宮さん」が

「ですが、新番組もなかなか期待できそうではないですか?」

とフォローを入れる。私はナイスだと思ったのだけれど、

「そんなありきたりなお世辞いらないから。視聴者はいま厳しくなってんだよ!」

これでは取り付く島もない。長身でサングラスをもってしてもタモリさんには程遠い「高宮さん」は「おっしゃる通りです」と言ってあっさり引き下がってしまった。見た目のわりに頼りない。


空気的に三人目の「大谷さん」の出番になった。この人は中々『出来る』人で、マニアックな知識と演技力を生かして、

「産まれたばかりの小鹿」

と宣言して、足をフラフラさせている小鹿の様子を再現したタモリさんの物まねを始めた。大谷さんを買っている節があるお嬢様もこのネタには少しだけ頬を緩めて、ちょっと吹き出しそうになっている。だが一通りネタが終わると、また不満そうな顔に戻って、

「私は「いいとも」のタモさんが好きなんだ。他番組で水を得た魚のようになっているタモさんじゃダメなんだ」

とさらに条件を厳しくしてきた。プライドが高いお嬢様はこれくらいで「満足した」と言いたくないのだろう。だが、「いいとも」のタモリさん限定となると、ダラっと司会している方が多かったので、それでどうやってお嬢様を満足させればいいのか若干困るところである。他の執事も私と同様に芳しくない反応だ。そんな中自分の番となった四人目の執事「高良さん」は、

「準備をしてきますのでしばし時間をいただけますか?」

と言った。この人は執事の中でも年長で、かなり大きい二人の息子さんがいるらしい。咄嗟に時間稼ぎが出来る冷静な判断はベテランの味である。お嬢様の部屋を出て行って数分後、廊下から馴染みのある音楽が流れてきた。そう、それは「いいとも」のオープニングの音楽である。音量をかなり大きくしたスマホで音楽を鳴らして現れた高良さんは、

「いいともぉ~♪」

とタモリさんと同じところで歌い、それなりにしなを作りながら最後までネタをやり切った。これはさすがに評価してもらえるだろうと思ったが、お嬢様は意地でも認めたくないようで、

「それをやるなら「いいとも青年隊」を加えるだろう常考」

ダメ出しをする。これで残り二人となったが、私はここで少し思案して、もう一人の「高橋さん」に耳打ちした。「高橋さん」は私の目を見てこくりと頷いた。私はお嬢様に言う。


「次は私と高橋で、テレホンショッキングをやりたいと思います」


先ほどのお嬢様の発言から「二人でやるのもOK」なのだと判断して、二人ならば「テレホンショッキング」ができると思ったのである。一発本番なのでやや緊張するが、ここはやりきるしかない。


私:「今日のゲストはこの方」

高橋:「こんにちは、ビートたけしです。コマネチ!!」


最後がたけしさんになるという情報はすでに知られていたので、高橋さんは何とか自分のイメージの北野たけしを演じている。若干テンションが高いような気がするが、テンプレートを入れてそれらしくしようと努力しているのだろう。私は続ける。

私:「久しぶりですね」

高橋:「そうですね。コマネチ!!」

私:「いいとも終わりますよ」

高橋:「そうだね。なんだバカ野郎!!」


…嫌な予感がする。もしかすると高橋さんはこれで通すつもりなのだろうか。若手の高橋さんはたけしさんを真似するタレントを真似している感じになっている。不安になった私は、自分から笑いどころを作ってなんとか時間稼ぎすることにした。


私:「いや~我々も歳をとりましたね…」

高橋:「ダンカン!!ダンカン!!」


高橋さんは明らかに暴走していた。会話になりそうにない。苦肉の策で、


私:「いったんCMにはいりま~す」



と言って強制的にネタを終わらせた。だが、高橋さんは若さゆえか、たけしさんのネタを永遠にやりつづけている。一部始終を見ていたお嬢様は、最初冷たい視線を送っていたがふと何かを悟ったかのように、


「やっぱりプロは違うよな。本当に終わるのが残念だ。でもブラタモリとかあるからいっか」

と告げた。お嬢様は手厳しいが悪い人ではない。我々が一生懸命やったことは評価してくれるのだ。ただ、例外はあるようで、


「高橋。今度たけしさんのネタをやらせるからもう少し研究しておくように」


と高橋さんには宿題を出した。こうやって我々執事は腕を磨いてゆくのである。


「はい…」


我に返った高橋さんは恥ずかしくなったのか、うつむいて顔を真っ赤にしながら返事をしていた。
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