FC2ブログ

運命のガララ

以前3人で撮りに行った時の写真を載せた「ガララ応援隊」というブログにあるコメントが入ったのは更新して3日後の事だった。「加藤」と名乗る人で、コメントによると市内在住だそうである。その加藤さんは

『ある人の代理でコメントをさせていただきます』

と断ってから、期待していなかった「ガララ基金」について詳しく話をしたいと申し出た。『ある人の代理』だから、寄付を考えているのはその人という事になるのだろうか?コメント欄での会話から僕のメールアドレスを教えることにして、以後のやり取りはメールになっているが、送信者が「工藤家執事 加藤」という情報と文面から分かったことだが、加藤さんは市内ではかなり名の知られている「工藤家」の執事らしかった。工藤家はこの地域で事業を起こして今では多角的な経営を行っている財閥のようなもので、財界のみならず政治でもかなり影響力のある名家だ。


地元のことにそれほど詳しくなかった僕だが、気になったのでネットで調べてみると、工藤家は著名人を輩出しており現在の当主は5代目らしいが、その兄弟には芸術の方面で活躍している人もいた。産業だけでなく、地元の文化の発展に貢献していて、地元の美術館などは工藤家が支援していたりすることが調べていくうちに分かった。


その工藤家が個人でやっている「ガララ基金」などに興味を持つのも少し変だと思ったが、連絡先を一応調べてみて間違いなくそれが「工藤家」のアドレスであることが分かったので僕は一応マリアさんと高良さんに連絡してみることにした。マリアさんはとても驚いたようで『詳しく話して』というメールが返ってきたが、予想してなかった事だが高良さんは、


『それ、もしかすると色々分かるかも知れません…』


と含みのある様子だった。気になった僕は、『今度また会いましょう』と二人に連絡して、いつものように土曜の夜に3人で集まった。僕は自分が調べたことと、考えていることを述べた。


「とにかくこの加藤さんに一度会ってみるのが良いと思います」


結論付けた私の意見に高良さんが言い出しにくそうにしながら、


「実は、ボクその加藤さんのこと少しだけ知っているんです…」


と言った。


「それってどういうことですか?」

と訊いてみると、


「実は家の父がその工藤家で執事をやっていまして、時々帰ってくる父が仕事場のことで話している別の執事の加藤さんだと思います」


「え!!そうなの!!」


マリアさんだけでなく私も驚いた。高良さんについては知らないことも多かったが、こういう方面から知ることになるとは思いもしなかった。高良さんは続ける。


「なんでも、その家にいる長女…『お嬢様』なんですけど、その人には6人の執事が付いていて、まあ何というか色々と苦労しているそうです」


「もしかして…」


僕は一つ思い至ることがあった。


「加藤さんが言っていた「ある人の代理」って、もしかしてその『お嬢様』の事なのかな?」


「ええ、多分そうだと思いますよ」


「それなら話が早いわ。タカラくん、君がお父さんに連絡して加藤さんと会う場所をセッティングしてもらってよ」


高良さんはちょっと面倒くさそうだったが、自分が適任だと思ったのか、


「わ、わかりました」


と引き受けてくれた。そのことについては話がついたのだが、肝心の寄付をしてくれる『お嬢様』の考えについては未だ不明なことが多かった。加藤さんのメールでは、

『その人(多分、お嬢様)は貴方がたの活動に興味を持たれていて、ご自身でブログを拝読しています』

とあったが、一体我々の活動の…本当に写真くらいしか取りえのないブログに何を期待しているのだろうと少し疑問だった。それを二人に伝えると、


「まあ、そうよね。コウタロウくんの写真がよっぽど気に入ったのかしら?」

「まだよくわかりませんね…」

と二人も大体おんなじことを思ったようである。


後日、加藤さんにメールを送信して執事の「高良さん」の関係者がいるという事を伝えたところ、山田さんの方も話が伝わっているらしく、そこからは話がぽんぽんと進んだのだが、


『話はご存知かと思いますが、実は私の仕えているお嬢様が直々に山田様(僕の名前)にお会いしたいとのことで、宜しければ工藤家にお足をお運びいただければと思っております』

というメールが来て、僕は動揺してしまった。ごくごく普通の感覚だとそういう人と関係することはないので、加藤さんを通してなら何とかなるだろうと思っていたが、こういう展開になるとどうしていいのか分からなくなる。何にしても一人では心細かったので、『3人で行っても良いですか?』と返信すると、

『もちろん歓迎いたします』

と言われた。マリアさんと出不精の高良さんにお願いをして、なんとか3人でいける日を探して加藤さんに報告する。



会合の日、僕はややおめかしをしているマリアさんとやたら緊張気味の高良さんとともに工藤家を訪れた。常識的な感覚からすると「馬鹿でかい」としか言いようのない館は、煌びやかでかなり大きな庭の手入れも行き届いていて、ガララに会う時とはまた別の非日常的な感覚があった。門から遠目に執事やメイドと思われる人々が見える。一人の執事がこちらに歩いてきて、


「ようこそお待ちしておりました、わたくし執事の加藤です」

と言った。僕たちは恭しく礼をした。


「本日はお招きいただき、何といったものか…その…」

「誠にありがとうございます」

途中で緊張して詰まってしまったところでマリアさんの助け舟があった。こういう時に度胸のある人がいると心強い。高良さんは執事の方をきょろきょろ見回し、ある人…おそらく父親を発見して「うわっ」と言った。そのまま家の中に招かれ、客間と思われる一室で少し待機した。豪華そうな作りで、何枚か前衛的にも見える抽象画が飾ってあって、そういうのになれていない僕はまるで美術館のようだと思ってしまった。


「お待ちしておりました」


弾んだ声とともに部屋に入ってきたのは20代前半くらいの女性。


「わたくし、工藤家の長女の「智恵子」と申します」


どうやらこの人が例の『お嬢様』らしい。僕は緊張気味に、


「初めまして、ぼ、僕は山田太郎です」


と言った。そのあとマリアさんは堂々と、高良さんは何かを気にしているかのようにおどおどと名乗った。智恵子さんは


「ブログを拝見いたしました。なかなか面白い活動をなさっているようで、わたくしも興味を持ちまして詳しく話を訊いてみたくなりましたので、執事を通して連絡させていただきました。なんでも、そちらに家の執事の身内がいるとのことで…」


「は、はい。ボクです。執事の高良はボクの父です」


「なるほど。偶然ですが、きっとこれも何かの縁。是非お話をお聞かせください」


話してみると中々しっかりした人だという印象を受ける。高良さんの話だとなかなか一筋縄ではいかない人らしいけれど確かに我々に興味を持ってくれたのは確かだった。


「単刀直入にお話ししますと、この町にいるガララのためになることをしたいのです!」


最初に話し出したのはマリアさんだった。しかもいつも言っている事とちょっと違っていて、少しでもいい印象をもたれようとしているのは明らかだった。僕は少し動揺したが、


「具体的にはガララが荒らした道路の補修とか、市では手におえないことをなんとかできないかと思って活動しているのですが、その手始めに写真を撮ってブログに公開してみようかなって」


すると智恵子さんは何かを感じ入ったかのような素振りで、


「ええ、存じ上げております。例の写真、素晴らしい才能を感じましたわ。どなたがお撮りになったのですか?」


「あ、ボクの弟です…」


自信なさそうに答えた高良さんに対して智恵子さんは吃驚した様子で、


「ってことは、高良の身内!?」


と言った。その突然の口調の変化に一同が変な表情になった。


「あ…これは失礼…わたくしとしたことが取り乱してしまいました」


「ええ、大丈夫です」


僕は一応フォローした。智恵子さんは言い出しづらそうに、


「その…写真を撮った弟さんは今は…?」


「あ、今は家にいます」


高良さんは答えた。それを聞くと智恵子さんは首を捻って「う~ん、まあこっちの方が自然よね」と小さく独り言を言った。何か思案しているらしい。その後何か思いついたのか、こう提案した。


「寄付をするにあたって、一つ条件があります」


「なんですか?」マリアさんが応じる。


「弟さんにわたくしとガララが一緒に写っている写真を撮っていただきたいの」


「え?」

僕は一瞬戸惑った。それにどんな意味があるのだろう?そう思ったのはマリアさんも同じだったらしく、


「チエコさん、写真がお気に召したのですか?」


と訊ねた。


「ええ。わたくし芸術方面に関心があるのですが、あの構図は素晴らしかったですね。ですのでわたくしも撮っていただきたいと思いまして」


智恵子さんは肯定した。考えてみると高良さんの父が執事なのだから、わざわざ僕らを通さなくても直接お願いすればよかったことになるのだが、多分義理を立ててくれたのだろう。


「そういう事ならお安い御用です…弟に話してみます」


父親の立場を気にしてか高良さんにしては積極的だ。


「では、よろしくお願いしますね、高良」


智恵子さんは無意識すぎて高良さんを呼び捨てしたことに気づいていないようだが、何となくこの人の普段の様子が透けて見えたような気がする。


「では、詳しい日程は加藤さんに連絡しますので」



この日の会合はここで終わった。まあ前進といえるのではないだろうか。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

なんとかさん

Author:なんとかさん
ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
普通のカウンター
投票
無料アクセス解析
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR