FC2ブログ

ガララの里

ある朝何気なくテレビを見ていると、白い馬の像の映った。そのあと広大な牧場の光景が映し出され、そこで数頭の馬がのびのびと牧場を駆け回っている。一連の動画はニュースとCMの間に挟まれた地域の天気予報で、字幕で今日の天気が晴れらしいことが分かった。この動画を見ていて、

<こんなに広々としている場所があるんだな>

とぼんやり思っていただけだったが、この市では窮屈な思いをしているであろうガララがもしあそこに降り立ったら、さぞのんびり暮らせるだろうにと思った。そういえばこの県の東には競走馬を休養する為の施設とか牧場とかがあるらしい。何とかならないものか…


考え込んでいた僕だが、ちょうどその日が工藤家の長女「智恵子」さんと一緒にガララのところに行く予定だったので、ぼちぼち準備を始めて執事の加藤さんに、

『それでは今日ですが、たぶんあの公園にいると思いますので』

と言った簡素なメールを送り、『分かりました。これから参ります』という返事を受け取ったのを確認して僕は出掛けた。行く途中でいつものようにマリアさんと高良さんのところに寄り、マリアさんと高良さん兄弟を拾う。高良さん(兄)が外出するのは珍しいことなのだが、どうやら工藤家が関係すると話は別のようである。少し緊張気味の兄と、前のように冷静でレンズ磨きに余念のない光太郎くん。


10分もせずに公園に到着すると、既にもう一台の車が停まっているのを見つけた。いわゆる縦長の高級車で、その付近には3人の執事を侍らせて特注の椅子に腰掛けている智恵子さんがいた。椅子はわざわざ持ってきたものと思われる。それを見たマリアさんが小声で一言。

「ああいうのって、実はあんまり得意じゃないのよね」

「どうしてですか?」

訊ねると訳を教えてくれた。

「だって、無駄な労力を払っているじゃない。合理的に考えれば公園のベンチで良いのよ」

「まあ、確かに」

マリアさんはあまり飾らない人である。更に言えば経済的で実用的な判断を良しとしているところがあるので、無駄に思えることには何か言いたくなるのだろう。


「お嬢様…ですしね。まあ、その辺は」


高良さんも感覚的にはマリアさんに賛同するのだろうけれど、どうも智恵子さんのこととなると普段よりもぎこちないというからしくない感じがする。一方で光太郎くんは智恵子さんを見て、

「…まあまあかな、被写体として」

と呟いていた。智恵子さんを評価したものらしい。僕は執事の中に加藤さんを見つけ、会釈をした。加藤さんはこちらに歩いてきた。


「どうも。お待たせしてすみません」

「いえいえ、智恵子様も少し前に到着したばかりでございます。ところで山田様…」

「はい」

「お嬢様はあそこに立っているガララを拝見なさって、「あの子は今何をしているの?」と仰っています。どう答えたものかわたくしめには分かりかねて、」

僕もガララの方を見た。午前中で日もそんなに高くないのでお昼寝の時間ではないようで、ガララは立ち上がって少し遠くを見ている様子だ。


「多分、遠くの方を見ようとしているんじゃないでしょうか?動物も遠くを見ることがありますし」

たやすく考えられることを述べたまでだが、加藤さんは「確かにそうかもしれませんね」と言って、再び智恵子さんの方に向き直した。それが合図になったのか、智恵子さんは椅子から立ち上がって、残りの執事とともにこちらにやって来た。加藤さんが智恵子さんに耳打ちする。


「ふむふむ…なるほど。あっと、わたくしとしたことが失礼いたしました。皆様、本日はご足労いただき誠にありがとうございます」

智恵子さんはそう言うと深々と丁寧なお辞儀をした。僕らもそれに見倣ってそれぞれお辞儀をする。すると智恵子さんは光太郎くんの方を見て、

「あなたが光太郎さんですね。写真拝見いたしました。構図がとても素晴らしかったですよ」

と言って顔を輝かせた。光太郎くんは慣れていないのか口ごもりながら、


「あ、ありがとうございます」

「うふふ…緊張なさらずとも良いのですよ。今日は是非美しく撮っていただけると幸いです」

「頑張ります…」


ぼちぼちして、写真撮影が始まった。人間とガララという大きさの違う被写体にとって一番見栄えのする構図を一同で考える。立ち上がったガララの全身が映るように撮るとなると大分遠距離からの撮影になるが、そうなると「ガララに寄り添う智恵子さん」というよりも「ガララを背景にした智恵子さん」になってしまうようである。智恵子さんがカメラに接近して、ガララが遠くに見えるといったような。智恵子さんはガララと一緒に映っていて、尚且つ自分の顔がはっきり見えるという要望を出していたが、光太郎くんは丁度いい構図を見つけて、智恵子さんに支持を出しながらシャッターチャンスを待つ。ガララは微妙に動いてはいるが、いつも通りおとなしく、撮影は順調に進んだ。


そうやって撮れた写真の一枚は、ガララの迫力が損なわれていなくて、智恵子さんの微笑がはっきりとわかる素晴らしいものだった。カメラのディスプレイに写っていた画を見て一同は光太郎くんを称賛した。


「すばらしいですわ!光太郎様。さすがわたくしが見込んだ通りの腕ですわ」


特に智恵子さんは最大級の賛辞を送り、かなりご機嫌な様子であったのが印象的だった。



僕は何気なくガララを見た。ガララはまだ遠くの方を見ている。もしガララにとって良い場所があるとしたら…ガララもそういうところを探そうとしているのではないだろうか。僕は智恵子さんに言った、


「あの、こんな話をここでするのも何なんですが、支援について僕なりに考えていることがあるのです」


「なんでしょう?わたくしに出来ることならなんでも協力させていただきますわ」


「それは光栄です。実は、ガララがのびのびできる広大な土地を探しているんです。たとえば県の東にある牧場のような土地です」


「あら、そんなことですか。その牧場、わたくしの家が経営してますの」


予想もしていない返事が返ってきて、僕は一瞬自分の耳を疑った。


「え!!そうだったんですか?」


「ええ、そうですよ。土地はまだ余っていますし、あの子ならゆったりできると思いますけど」


「それは…凄いですね」


マリアさんと高良さんは話の流れに置いてかれそうになっていたが、執事から説明を受けて感心した様子だった。あの天気予報で見た牧場が工藤家の所有物だったという事は初めて知ったのだが、こんなに話がうまく進むとは想像もしていなかった。


「でも、」


執事の加藤さんはおずおずと重要なことを言った。


「どうやってガララを連れていきましょう?」


それは確かに一つの問題だった。一同が頭を抱えて、「ヘリコプターじゃだめよね…」とか「歩かせるのは難しいだろう…」とか言っている中、高良さん(兄)がある解決策を提示した。


「その、超人的ヒーローに運んでもらうのはどうでしょう?退治じゃなくて輸送をお願いするんです」


「「「それだ!!」」」


公園に一同の声が重なった。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

なんとかさん

Author:なんとかさん
ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
普通のカウンター
投票
無料アクセス解析
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR