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ガララの旅

市の「ガララ対策委員会」は市の計画として「ガララ輸送計画」を公表した。実際の資料を見てみるとガララを市外に輸送する旨と、その方法について大まかに書いてある。肝の部分とも言える「超人的ヒーロー」については、「代理人と交渉の末、輸送に協力していただくことが決定している」と述べられており、僕が具体的な連絡係になっているのは流石に書かれてはいなかったが、あくまで「市」としての計画だという事を強調しようとした結果だと思われる。一市民でしかない僕では『TARO』のことについても信用がなかったかも知れないが、そこは工藤家の関係者という事で市も受け入れてくれたのだろうと思う。大切なところだが、市も計画にかかる費用については一部負担してくれるそうである。『TARO』の代理人に支払うであろう代金も代理人の口ぶりからすると、良心的にしてもらえそうなので、多分智恵子さんがしてくれるという支援と合わせて何とかなるだろう。


懸案だった法律関係も、形式上は「ガララについては市が管理する」という事になっているので無事パスすることが出来た。智恵子さんが計画を提出してわずか2週間でここまでこぎ着けたのは、対策が遅れていた市にしては上出来である。僕は少しだけ市を見直した。肝心の日程であるが、実行の日は計画を公表した3日後となっていて、その日は平日だったので仕事も有給をもらう事にした。上司から、

「まあ、話は聞いているから頑張って来いよ」

と言われた。計画に僕が関わっていることは小さな会社の中でもまあまあ知れ渡っていて、僕はちょっとした有名人である。これは裏話だが、うちの会社も実は工藤家の傘下の会社との取引が少しだけあるようで、話は上の方から伝わってきた模様だ。それでなくても小さな町だから、噂がいつの間にかほとんどの人に広まってしまっていて、例えば滅多に外出しない高良さんですら近所で有名になっているとか、運の良いことにマリアさんの塾で噂が広まった辺りから入塾希望者が増えたらしい。


「なんか、お金儲けって難しいけど出来ないことも無いのね」


計画が公表された日の翌日、計画実行前の最後の会合として集まった「おにそと」で、お酒を飲みながらマリアさんがぼそっと呟いたのが印象的だった。


「マリアさんはいいですよね…ボクなんて余計外に出づらくなっちゃって…」


そうは言うものの高良さんは以前よりも表情が生き生きしていて、満更でもないのは見ていて明らかである。


「小さい町だから、実はみんないろんなこと知っているのかも知れませんよね」


この町に住んで久しい僕も、今頃になってこの町の事を知ったような気がする。見えるものだけじゃなくて見えないものも確かにあるというか、人と人との繋がりのようなものを言葉だけじゃなくて実感するのである。この日はマスターのサービスが良くて、おつまみの沢山並んだテーブルで、高良さんを含めた三人で夜遅くまで語り合っていた。




月曜日。公園に集まったのは市の担当の三名と、万が一に備えて待機する業者、数名の報道関係者、智恵子さんとその執事たち、そして僕と高良さんとマリアさん、後は近隣に住む住人である。ガララは物々しい雰囲気になっているのを察して、ゆっくり立ち上がった。予定では10時に『TARO』がやって来る事になっていて、間もなくその時刻である。

「『TARO』はどこから来るんでしょうか?」

執事の加藤さんが訊ねてくる。

「超人的ヒーローは飛行できるので、多分空からだと思うんですけど…」


それにしてはその気配がないので僕は少しだけ不安になった。


「どこから来るんでしょうね…」


と僕が言った時だった。突如として公園がまばゆい光に包まれ、目を瞑ってしまった一同の前に数秒前までは居なかったガララよりもやや大きい超人的ヒーローが出現したのである。


「え…?」


皆一様に同じリアクションをしていた。「どこから来たんだ?」、「どうやって?」とかその場が少し騒がしくなる。吃驚して腰を抜かしてしまったような人もいた。


「みなさま、ご静粛に!」


そんな中でも一人冷静さを失わなかった智恵子さんが一喝した。その一声で気を取り直した一同は、ガララと『TARO』を見つめ、その後の成り行きを見守る。



『TARO』はガララに仁王立ちのまま対峙して、攻撃の意思がないことを相手に伝えようとしている。ガララはそれをじっと見つめて、何かを読み取ろうとしているようだ。危害を加えるつもりがないことを感じ取ってか、ガララは警戒を緩め、何を思ったか上空を見つめた。


「あれは何をしているところなんだろう?」


報道関係者の一人がカメラを向けながら言ったが、僕にはそれが…


「あ、動き出しますよ」


その時、『TARO』はゆっくりガララに近づき、ガララを抱きかかえるような体勢になった。そして、『TARO』はそのまま空に飛び立った。


「では皆様、移動を開始しましょう」


智恵子さんの掛け声で、それぞれがあらかじめ準備しておいた移動手段に乗り込み始める。智恵子さんは自家用ヘリで、市の担当は車でといった具合に。僕は加藤さんに「では、よろしくお願いします」と言った。高良さんとマリアさんで事が終わるまで、念のため公園で待機するようにとお願いされていたのである。


「到着しましたら連絡いたしますので」


ヘリに乗り込んだ加藤さんを見守る。空に浮いたままこちらを見ていた『TARO』はヘリが上空に浮き上がるのを見計らって東への移動を開始した。計画では、『TARO』がヘリの後についてゆく事になっていたのである。本来なら音速ともいわれる飛行が出来る超人的ヒーローだが、安全性を重視してヘリで誘導しながらの移動なのでスピードは抑えられていた。


段々小さくなってゆくヘリと『TARO』を公園から見つめて、見えなくなったのを確認して僕はほっと胸を撫で下ろした。取り残された公園で、ガララがいた場所に移動してみた。ガララが居座っていた時の痕がそこには残っていたが、これは後日業者が整備することになっている。


「居なくなっちゃいましたね」


高良さんが言った。しんみりとした口調だったから、僕も少し変な気持になって、


「ああ、そうだね」


と言った。マリアさんは何を思っているのか、ただその光景をぼんやり見ていた。



一時間くらいが経過して、加藤さんから電話があった。


『もしもし、こちら無事に輸送完了しました』

『了解です。お疲れ様でした』


無事に着いたことを待機していた人々に伝えると、自然と万歳が沸き起こった。残っていた市の担当や報道関係者に握手を求められ、それに応じた。加藤さんからの報告では、ガララも特に問題はないようである。広々とした牧場に舞い降りたガララは、ゆっくりとその場所を確かめ、ちょっと疲れたのかその後すぐに眠ったようである。


「あの子らしいわね」


とマリアさんはほほ笑んだ。
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