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安らぎのガララ

ガララが東に輸送された事は後日地元の夕方のニュースで取り上げられた。報道が撮影した動画にはガララと『TARO』が空に飛び立って遠くに消えてゆく様が映し出されていて、僕へのインタビューも一言だけ映った。


『いや~感慨深いです』


もっと気の利いた事が言えていれば良かったけど、あの時は本当にそれだけしか出てこなかった。ニュースではアナウンサーが「地元の努力が実を結んだ」という風に締めくくっていたが、確かに今回の計画は多くの人の協力なくしては実現不能だったとも言える。僕らが見ていないところで多くの人が様々な処理を行って、いろんなものを手配し、関係各所に働きかけた結果があの日の事だったのだ。


あの日の夜、僕の家に『TARO』の代理人が訪れていた。以前に会った時と同じ格好で、相変わらず正体が掴めない人だったが彼が、


「報酬についてだけれど、今回はボランティアという事で構わないよ」


と言い出したので、僕は吃驚してしまった。


「それってどういう事ですか?」


「どういう事も何もそのままの意味だよ。君にも想像できるだろうと思うが、今回は工藤家やマスコミにしっかりアピール出来たし、私としては十分だったのだよ」


「でも…」


「それにね、実をいえば個人的に君達の事が気に入ったのだよ」


「気にいった?」


「そう。人類にとって怪獣との平和共存は思ったより難しいことだ。だが今回のことはガララにとって最善だったのではないだろうか。それに思い至るという事は、それだけ君たちがガララについて真面目に考えてくれたということなのだよ」


僕は彼に褒められているという事が分かった。謎多き人だが、彼の言っていることが恐らく本音なのだろうと思えた。


「ただね、ガララもこの町を気に入っているようだったよ」


「気に入っていた?」


「まあ、それは私の勘のようなものだと考えてくれ」



そう言うと、代理人は立ち上がってそのまま僕の部屋を後にした。その一言は何を意味するのだろう。しばらく僕は考えていた。


そういう出来事はあったが、これで一つの事がしっかり終わったのは間違いなかった。今大きな達成感があるのは当然と言えば当然なのかも知れない。数日間は、なんとなくぼんやりしていた。それはマリアさんも高良さんも同じだったようで、珍しく金曜日の夜に集まって、


「なんか寂しいというか、話題がなくなっちゃたわねぇ」


「久々に人のいるところにいたのでちょっと疲れましたね」


とそれぞれ言っていたのを思い出す。そのとき「おにそと」のマスターが「いまガララどうしてるんだろうね」と素朴に問いかけてきたので僕が、


「広々としたところでゆっくり眠ってるんじゃないですかね?」


と言うと、いつものようにマリアさんが思いついたらしい。


「明日ガララに会いに行きましょうよ!」


マリアさんなら何となくそう言うと思っていたし、実は僕もそう提案してみようと思っていた。


「弟も連れて行って良いですか?」


高良さんの珍しいお願い。今回のことで何となく高良さんには変化があったようで、実はこの日の会合を提案したのは高良さんだったりする。


「全然かまいませんけど、何かあるんですか?」


「弟も「ガララの里を見てみたい」って言ってたんです」


そういえば「ガララの里」と命名したのは光太郎くんだった。あの後、智恵子さんと個人的にメールでやり取りしているらしい。光太郎くんの撮った写真をメールに添付して見せているそうである。


「じゃあ明日、みんなで行きましょう!」



次の日、僕等はガララのいる東の牧場に向かった。車で移動すると2時間半はかかる道のりだったが、県内であまり長距離を移動してこなかった僕にとっては新鮮で、移動中も「地元にもこんなところがあったんだな」と感心することが多かった。牧場に到着すると、馬が何頭もいる牧場に、一匹だけ異様な大きさの生き物が気持ちよさそうに昼寝しているのが見えた。牧場には既に話を聞きつけたのか数名の観光客が先に来ていて、皆ガララを見て感激していた。


「おみくじって当たるのね」


マリアさんが突然思い出したかのように言った。


「ほら、『災い転じて福となす』ってあった通りじゃない」


「確かに、もうこれだけ効果があるとなると将来的にはもっと期待できそうですね」


純粋に喜んでいる観光客を見ていると、ここに来た事によってガララが一層引き立っているように思える。ガララはのっそり立ち上がって上空を見つめる。その視線の先は淡い雲が浮かぶ青空である。僕はあの日ガララが飛び立つ前に空を見つめていたことを回想していた。

「ガララって、」


「何ですか?」


不思議そうに訊ねる高良さん。僕は続ける。


「ガララって、あの町の空が好きだったんじゃないかな。僕等の町ってさ、本当に空が綺麗だって言われてるから」


「空はどこでも同じじゃないの?繋がっているし」


マリアさんはクールに言う。それもそうかも知れない。けれど、


「でも、そういうのってあると思いますよ。ボクも」


珍しく高良さん。光太郎くんはその言葉を聞いて、カメラを上空に向けて「ちょっと違うかも」と呟いた。


「そうかしら…地元愛なんじゃない、それって?」


「やはり違いますわ。わたくしもあの町の空が好きですの」


いつの間にかそこにいた智恵子さんがにこやかに笑いながら言った。吃驚したマリアさんは、


「まあ、空気が澄んでて綺麗だから、多少は綺麗なのかも知れないですけどね…でもわたしの国の空も…」


となんとなく不満そう。高良さんはそのやり取りを見ていて、


「たまには外に出てみるのも悪くはないかも知れませんね」


と僕に言った。こちらはなんだか満足そうである。いま思えばこれまでマリアさんに引っ張られて来たような気がする。


「今度皆さんで地元の温泉に行きましょうよ。ね、マリアさん」


僕からのちょっとした提案。


「そうね!!じゃあ明日!!」


「え?明日ですか?」


するとマリアさんは細い紙切れを取り出して言った。


「だって、昨日引いたおみくじに『善は急げ』って書いてあったもの」


マリアさんには敵わないなと思った。それはみんな同じだったようで、ちょっと可笑しくなって吹き出してしまった。ガララがそんな僕等について「何だこの人達?」と思ったかどうかは定かではない。
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