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そらまちたび ②

繋がりを見ている者にとって『今』はどんな意味を持つだろう。何気ない一日が、その者の中では何か特別な意味をもっている事もあるに違いない。

例えば…


[城跡]


乗客が殆ど僕一人と言って良いバスに乗って、観光地とされる城跡のあるところまでやって来た。6月の初めで天候は良く、気温は僕が住んでいるところとあまり変わらない。史跡巡りなど滅多にしない僕は、城の前にある武士の銅像が何なのか分らないまま写真を撮る。観光シーズンではないからなのか僕の他には人がいないようで、辺りは大分静かである。最近は城の前でイベントを頻繁に行っている地域もあるが、城自体が無いのであまり雰囲気が出ないのかも知れない。


「何を見たらいいのかな…」


おじいさんに聞いたところによると、春先は一帯にたくさんの桜の木があって花見にはうってつけだそうなのだが、今の時期ではどちらかというと緑が豊かで手入れもされているのでスッキリした印象を受ける。何があるのかは分からないが、階段を昇って城の門を潜る。



正直言ってしまうと僕のような者にとってそこから先は専ら写真を取るだけのエリアであった。確かに歴史を感じさせるものが幾つかあって、更に上に行ったところではよく分からない人の像があったりしたが、とにかくだだっ広い敷地の中心ががら空きなので、ただ歩いているだけという気分になってしまう。案内なしでは駄目だったのだろうか。


と、その時目の前をゆったり通り過ぎる白い何かが居た。兎…ではなくて白猫だった。毛並みが綺麗で思わず目を奪われる。実は僕は大の猫好きで、猫のグッズを集めているような人間なのだけど、何だかその猫はこちらを全く気にしていないようだった。野良猫だったら近づいてすらこないけれどこの猫は人に慣れているのか飼い猫なのか、まるで勝手知ったる庭を歩くようにどこかに行こうとしている。


これはこれで面白かったので、僕は猫のあとに着いてゆく事にした。



猫は白い尻尾をふりふりして、気分良さそうに散歩しているように見える。つい追いかけるのに熱心になってしまって前をよく見ていなかったのだが、ちょっと視線を上にずらすと奥の方に同い年くらいの男性が立ってこちらを見ているのに気付いた。何となしに会釈をすると、相手も返してくれる。


「こんにちは」


「こんにちは。もしかして猫の飼主の方ですか?」


相手は小首を傾げて、


「え?猫なんて居ましたか?」


と不思議な事を言った。もっと不思議な事に、先ほどまで追いかけていた白猫がどこかに消えてしまっているのに気付いた。


「あれ…?さっきまで追いかけてたんです、白いの」


すると男性は何やら難しい顔をする。


「そうですか、もしかして…」


「どうなされたんですか?」


「あ、いえちょっとしたことなんですけどね…おっと…」


「あ…」


この時僕の顔に冷たいものがあたった。先ほどまではそんな気配がなかったのに、空は曇り出していて雨がパラパラと降り出したのである。


「まずいな…雨宿りできそうな場所って何処だろう…」


「ここら辺はちょっと何も無いですからね…私は車で来たんですが、もしよろしければそこで雨宿りしませんか?」


「あ、わざわざありがとうございます。ではお言葉に甘えて」


猫の事は気になったが、とにかく今は急いで男性の車に移動する事にした。城から下に降りて、だだっ広い駐車場に停まっている車の中に乗り込む。雨はますます強くなっているようだった。


「どうもすみません。僕今日観光というか、まあ行き当たりばったりの旅行でここに来たんです」


「あぁ、そうでしたか。あそこにいた私が言うのも何ですが、この時期は観光で来る人は少ないんですよ。さっきの場所は本当は秋に来ると賑やかなんですがね」


「そうなんですか。恥ずかしながらよく知らないまま来てしまったので…」


「ははは。でも本来はそういう人にも分かり易く何かを設置するべきなんだとは思うんですけどね」


「そういえばさっきの猫の話で何か言いかけたように思いましたが」


「ああ、はい。本当に大したことじゃないんですが、ここ最近、ちょっとした噂を聞くんです。というかネットとかでたまに目にするくらいなのですが、何でも、観光でこの町を歩いていると色んな所で真っ白な猫を見る事があるって。でも地元の人はそういう猫は見かけないし、そんなに野良猫がいるわけじゃないのでちょっと不思議だって」


「それはどういう事なんでしょう?」



そう訊くと男性は首を捻って、


「う~ん、私は多分地元の人に限ってあまり町を歩かないから、逆に観光客の方が目撃する機会があるだけなのかも知れないなって思ったりしましたが、そうですかあなたも目撃しましたか…」



男性は不思議そうである。僕は間違いなく白い猫を見たはずである。しかし男性の話によると、あの場所はそもそも猫がいるような場所ではないらしく、ますます謎なのだそうである。


「それはともかく」


と男性はフロントガラスを指さし、


「しばらく雨が止みそうにないので、もしよろしければどこか休める場所まで送りますけど?」


「え、いいんですか?」


「ええ、私はちょっと時間が空いて気晴らしに立ち寄っただけだったので」


城はあまり良く見る事ができなかったが、おじいさんが教えてくれた場所は幾つかあったので雨の事もあるしここは頼んでみてもよいと思った。


「じゃあよろしくお願いします」


「はい」
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