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そらまちたび ④

[寺]


男性は「片山」さんと言った。雨が弱くなってきた頃を見計らって店を出て車に乗り、そのまま坂を下り始める。片山さんの言うには、


「ここら辺の名所というと大抵は寺だけど、お城のお殿様の墓がある寺は有名な方かな」


という事だったのでとりあえずそこに向かってもらう。神社仏閣などには疎い僕は、一応スマホで検索した情報を読んでみようと思って寺の名前を聞いたものを入力したがそれらしいものが見当たらないので不思議に思っていると、


「あ、漢字がちょっとややこしくて珍しい字が入っているんだよ」


「え?」


教えてもらった通り、入力すると確かにその寺を紹介するホームページも見つかった。読んでみるが細かい字で書いてあるし言葉遣いが難しくてなんだかよく分からない。細かいところの説明は片山さんに聞いて何とか概要は分かった。それによると結構歴史があるそうで、訪れる人もまあまあ居るようである。



少し陰気な感じが裏通りに出て、先ほど城で見掛けたような若い武士の大きな絵が掛けてある比較的大きな建物が目に留まる。「あれはなんですか?」と尋ねると、


「ああ、土産物屋さんと、食事処…かな」


「じゃあ、あとで寄ってもらって良いですか?」


「良いけど、期待し過ぎないようにね」



と意味深な事を言われる。結構見た目は派手だが車があまり停まっていないのが気になると言えば気になる。とりあえずその反対側にあった寺の階段の横で車を降りる。いかにも「寺」という雰囲気はある。幅が広い階段を登ってゆくと厳かな様子になっていって、林立している木で鬱蒼としていた。


「お寺とかは結構行くの?」


片山さんに訊かれたので「いえ、あんまり」と答えると、


「まあ若い人はあんまりね・・・」


とある程度予想されていたようである。


「片山さんも結構来るんですか?」


片山さんは「にやっ」と笑って、



「いや、滅多に来ない」


とはっきり言った。その表情にちょっと首を捻ってしまったが、そうしているうちに早くも頂上に到達していた。そこに広がっていた光景は、何というか「普通の」寺だった。どちらかというと、途上が雰囲気があるにしては「地味」とも言えて、ちょっとだけだが残念に思ってしまった。


「どうだい?」


「ええ。まあ「寺」ですね」


「でしょうね。でもどちらかというと、墓が大切だから」


「お殿様の墓ですよね、どこにあるんです?」


「あっち」といって指さしてくれた方向は、本堂の横に続いている道の向こうで、奥まった方に歩いてゆくと、意外と敷地が広いという事に気付いた。そこから再び階段を登り、もはや暗い林の中を歩いているような状態になったが、ちょっとするとかなり異様な物が目に飛び込んでくる。大きな墓石である。というか、墓石と言って良いのかよく分らないが、とにかく大きな石が沢山並んでいる。読み難いが何代目のお墓なのかも分るようになっていて、不思議だったのが古い順番で並んでいるのではなく、ほとんど無秩序に並んでいるという事だった。


「初代を正面に作って、あとはそこまで歴史が続くとは思ってなかったからとかいう話を聞いたことがあるけどね。何故か両隣が5代目と7代目の墓だね」



9代目の位置に至っては、その開けた場所ではなくて途中の道の脇に無理やり作ってあるような感じだった。


「不思議ですね…」



「私も不思議だよ」



そう言うと片山さんはおかしそうに笑った。分った事だが何というか片山さんはこの寺をそのまま評価しているというよりは、ちょっと変なところに目をつけて一人で面白がっているようだ。自分もここに住んでいたらその面白さが少しは分かるかも知れない。と、笑っていた片山さんだが急に真面目な顔になって、


「さて、今度は少年達の供養塔だよ」


「供養塔?」


「そう。さっき本堂の左の奥に目立たないけど例の少年たちを供養する塔があるんだ」



「ああ、なるほど」



階段を降りて、その場所に向かう。確かに10数名分の小さな石造りの塔があって、その前には花が添えられていた。


「私も全ての名は覚えていないけれど、みんな10代前半から後半の人だよ」


「本当に少年ですね」


その人達の事をそこまで知っていないけれど、そういう事実を知るとやはりその少年達が偲ばれる。手を合わせて目を閉じる。



「興味があったら、なにかで読んでみてほしい…としか言うことは出来ないかな。でも忘れられないようにすることは意味がある事だと思う」



僕にはただ話を聞いただけで分らない事かも知れないけど、色々な想いがありそうである。目を閉じながらそう思った時、何処からか「にゃ~」という鳴き声が聞こえた。猫の鳴き声だと思って目を開けたが距離的にそこらへんだと思ったところには何も居なかった。


「幻聴かな…猫の鳴き声がしたような…」


そう呟くと片山さんはちょっと気になったのか、


「ふむ…そうか」


と何やら一人考え始めたようである。取り敢えず戻る事にして、階段を降りていると来る時に目に留まったあの大きな建物の事を思い出した。


「あそこ入ってみます」


「…あぁ、そうだったね」


僕は片山さんの歯切れの悪い返事の理由をすぐに理解する事になる。その店と食堂が一緒になった建物はなんというか寺よりも薄暗く、売っている品物も特にそこの名産というものがない。


「商売っ気がないのかな…」


片山さんは苦笑いしている。
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