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魔法使いメリーちゃん

暴力的なほどに豪雨な散歩道を『魔法使いメリーちゃん』の真似をして歩く。『魔法使いメリーちゃん』という古式ゆかしい魔法少女ものに魅せられた5月はそれはそれは滑稽なほど愉快だった。

「君そういうのって軽蔑してたじゃん?」

「あれは善きものを認められぬ若輩者の過ちさ」

メリーちゃんを布教しようと思って見せたBDに10年ばかり付き合いのある友は若干拒絶の構えを見せたが、強引に押し切った。



[魔法使いメリーと機械兵団]



短髪の良く似合う少女メリー13歳は、中学校のクラスでも若干浮きつつあった。彼女はその歳の少女にしては珍しく機械フェチで、彼女の家の庭の古びた倉庫の中には何に使うのかすらよく分からない鉄や超合金でできた奇妙なパーツが所狭しと積まれてあった。その手の趣味が理解できない家の者は秘境と化した倉庫に気味悪がって近寄ろうとはしない。メリーは学校が終わるとそのまま倉庫で長時間技術者顔負けの製作を行い始め、そのまま夜な夜な怪しい機械を作っている。


中学校に上がる前の時代からの仲のよい友人であり理解者である「葉子」と「洋子」(何故か名前の読みが被る)とは別々のクラスとなってしまい、以前なら彼女らのフォローがあって周りとクッションが出来てメリーでも意思疎通できていたのが、今や彼女単独でコミュニケートしなければならず、常に設計する物の事を考えていて説明が疎かになるような彼女の性格からすると、入学式直後の自己紹介からして既に失敗の連続になってしまうというのはあり得る話だった。



「あ…自分…集積回路が好きです。あ、あのパーツが好きな方とお友達になりたいです。はい…」



同級生はそれに対して何と答えたらいいのか迷っているようだった。密かに彼女の事を気に掛けていた者もいたのではあるが…。それはさておき、彼女の家では母がいつもの様に旦那マイケルに愚痴をこぼしていた。


「どんな育て方をしたらメリーみたいな子になっちゃうのかしらね」


「さぁ…」


「昔から思ってたけど、あなたメリーに甘いわよ。あの時『倉庫を買ってやる』って言わなければ今みたいになってなかったのに…」


それはメリーの10歳の誕生日の事だった。プレゼントに好きなものを買ってやるぞといわれて、恥ずかしそうに「あのね…倉庫」と答えたメリーの姿がいじらしくて思い切って買い与える事にして以降、メリーとマイケルの会話の回数が倉庫に籠りがちになって著しく減少してしまった事をマイケルも後悔はしている。


「でも、メリーがそれでいいんだって言うんだから仕方ないだろ」


「それだけじゃないわよ。バカ高い専門書まで買わされてるんだから。まあ勉強になっているからいいのだけれど」


「メリーには可愛らしい女の子になってもらいたいなんて言ったら、時代遅れになっちまうのかな…」


「素直で良い子なのは確かなんだけどね…」



若干、両親とも教育についての悩みがあるようである。確かに自分達が思っても観ない方向に長所を伸ばし続ける子供がいたら、普通は躊躇うものである。が、現代は均質化された人間の世界ではなく極端に専門性が必要となる時代である。早くから長所を伸ばそうと思う事もまた奨励されていると言えるのかも知れない。そんな両親の思惑を知ってか知らずか、メリーは今日も薄暗い空間のライトで照らしだされた領域で真新しい専門書に目を通しながらノートパソコンで怪しげなプログラムを書いている。


「これをここでやると、あそこがああなって…あ、でも合理的でないかも」



既に日常のほとんどの事を論理的な思考によって処理しているメリーにも昔は子ども子どもしている時代があった。泣き虫なくせに正義感が強く、曲がった事が許せない性格で、周りを心配する事が多かった。そんな折、大親友の「葉子」に出会い、


「本を読むと色々な事が分るよ!!」


とアドバイスをされたのでその通り実行し、また同じころに親しくなった「洋子」に、


「自分で色々なものを手作りするのは楽しいのよ!!」


と教えられた事を切っ掛けに、『ものづくりとは何か?』という本を読んで感銘を受け、「折からのこの国の経済状況における活路は物を作って海外に輸出する加工貿易」だという学校で習う社会の参考書の、一文にはっとさせられ彼女自身の目指すものは殆どこれで決定した。よくよく考えてみると、素直で、その通りだと思った事はすぐに実行してしまうという極端な性格も彼女がこうなってしまった事に関係していたのかも知れない。もともと勉強は好きな方だった彼女が独学で面倒くさい数式が並ぶ本も読破してしまうころに、


「あれ…、これってもしかして凄く難しい本だったのかな…」


と気付いた彼女は間違いなく天然である。



さまざまな要因が彼女を作り上げたわけだが、幸福な事に「葉子」も「洋子」もそんな彼女を暖かく見守り続けた。というか、時には過保護ではないかと思われるくらいにメリーをかばい続けた。見た目の問題だが、メリーは誰から見ても愛おしくなるようなルックスをしていたので、二人とも大切な妹のように思えたのかも知れない。その庇護が期待できない新たなクラスで、何をしたらいいのか分らなかった彼女はそれを余計助長するような難しい書物と睨めっこしている。


「メリーさん」


突然自分が呼ばれたことに気付いて、メリーは顔を上げた。そこには満面の笑みの少年が立っていた。


「はい。なんでしょう?」


メリーは素で答えた。少年は笑みを崩さず続ける。


「僕と付き合って下さい」


メリーは不思議そうな顔で少年を見つめる。


「付き合うって何ですか?」


基本的に常識に疎い彼女にとっては、このシチュエーションが何を意味しているかすぐには分からなかったのである。俄かにクラスが騒がしくなる。新学期が始まって間もない頃で、まだクラスの成員を把握していない人も多く、「あいつ誰だ?」「あの子って確か…」という初々しい反応がある。そんな様子もおかまいなしなのか、少年はメリーに説明した。


「男女が仲睦まじく過ごしたり、出掛けたりする事ですよ」


やや説明の仕方に恣意的な部分も見られるが、説明としてはおおむね正しい。というか、そういう事をテレビや漫画などで読んで知っていればそれで十分に伝わるのだか、メリーは文字通り受け取った。


「要するに、お友達になってくれるという事ですか?」


「お友達よりももっと親密ですね」



「?」


少年の邪気のない優しそうな目を見る限り、別に『友達』くらいならなっても良かったし、メリーとしても丁度良いと思うところがあったのでメリーはこの申し出を受ける事にした。


「なんかよく分かりませんけど、いいですよ」


「そうですか。ありがとうございます」


この瞬間クラスが騒々しくなったのはお約束である。だが両者ともそれぞれの理由で意に介さず、メリーが自然なながれで差し出した手を少年が握るかたちでこの関係は始まった。


「ところで…」


「はい。なんでしょう?」


「お名前は何というのですか?」


「僕の名はカイキと言います」


「『カイキ』さん?よろしくお願いしますね」


「はい」


少年の落ち着き払った様子と、終始崩れぬ笑みはそれまでの事を考えるととても異様な事なのだが、皆よく知らない者同士、それは何となくあり得る事なのかなという空気が出来あがりつつあった。



授業が終わり放課後、カイキはメリーの席にやって来て言った。


「一緒に帰りましょう」


「ええ。いいですけど」


メリーは異性には友達といえる存在がそれまで居なかったが、同じようなものだと思っていたのであっさりと同意。「葉子」と「洋子」にカイキと「付き合い始めた」事を知らせにゆくと、


「え…そんなメリーちゃん。本気なの?」


と葉子。


「メリー。私達を置いて…」


と洋子。二人ともよく分からない涙を流し始めたので、どうしていいか分らずカイキが「二人だけにしてあげましょう」と言われとりあえずその日はカイキと二人だけで帰る事にした。特に何を話していたわけではないが、メリーの家まで半分くらいとなった頃にカイキはやにわに口を開いた。


「メリーさんって集積回路が好きだって言ってましたね」


「あ…。そうですね。人類の叡智がそこに詰まっているように感じるんですよね。カイキさんも好きなんですか?」


するとカイキは苦笑いをし始めて、


「人類の叡智だったら、やっぱり魔法だと思いますよ」


と不思議な事を言った。何の事かわからずに、


「魔法って?」


と訊き返すと。


「それはですね、こういうものですよ」


と言って突如手を空に翳し始めた。一瞬後、その手に緑の光の渦が出来あがり、それがどんどん大きくなってゆく。そして辺りにはどこからともなく轟音が鳴り響きはじめる。


「なに?なんなんですか?これ!!プラズマ?」


「だから魔法ですよ」


カイキはニヤリと笑うとその手の上に浮いている光を渦を直下のアスファルトめがけて振り下ろした。




ドーン!!!!!!




とんでもない爆音と衝撃がメリーを襲う。それは物理の勉強をした事がある者なら反自然というしかないような出来事だった。メリーの身体が少し宙に浮くくらいになって、衝撃の後、着地に失敗したメリーは尻もちをついてしまった。カイキはそこに手を差し伸べ、


「大分出力を抑えたんですけど、まあ攻撃魔法でしたしね」



「なななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななな!!!」



普段の様子でテンションが低いように見られがちなメリーだが、驚くときは目一杯驚くのも彼女だった。メリーは自分の常識が一気に崩れ去ってゆくのを感じた。


「なにこれぇえええええええええええええええええええええええええええええ!!!おもしろーーーーい!!」



と同時に、常識では測れない事に対して柔軟な心を持っている年頃なので、呆気なくその光景を現実のものとして受け入れてしまうメリー。これにはカイキも苦笑い。


「そういうタイプの人だったとは思いませんでしたけど、まあいいです。メリーさん。僕が付き合って下さいと言ったのは他でもありません。『僕と供に戦ってください』と言いたかったのです」


メリーは興奮を抑えて、基本的な質問をする。


「戦うって誰と?」



「ああいう輩とです…」



とカイキが言うと空に異様にキラキラ光っている物体が突如として現れた。物体は何故か機械のようなフォルムなのに、不気味なまでに「活き活き」と連動していて、それはまるで生きているかのように蠢いていた。それにしてもメカフェチなメリーですら鳥肌が立ってしまうような異様なカタチである。それを生物に喩えるとしたら、「G」と「ミミズ」を足し合わせたようなものである。密かに虫が苦手なメリーは、


「なんて冒涜的な物を作っているの?信じられない…」


と怒っているような、気味悪がっているような反応。


「あいつらは、基本的に機械なのに魔法が掛かってるから『反重力』なんですよね…これが面倒なんです」


どうみても動力が無いのに浮いているのは異常だと思っていたけれど、説明されても「そうなんですか…」としか言えないメリー。こうなると何でもアリの様相を呈してくる。それでもカイキはいつのまにやら真剣な表情になって説明する


「でもあいつらには弱点があって、『核』となる部分は集積回路だったりするんですよね」


「え…そうなの?」


「だから、ご存じかも知れませんがその部分の特性を知っていると戦い易くてですね、でも魔法が受容できる思春期あたりの年齢の人でないと魔法がそもそも使えなくてですね…」



「魔法を受容?」



「そうなんです。手っ取り早く言うと、メリーさんも使えるようになるんですよ、魔法」


「本当に?」


「本当です」



しばらく沈黙が訪れた。どうやらメリーは魔法が受容できるという事を彼女の頭で受容できないようである。その間にも空の物体は徐々に彼等に接近してきている。


「とにかく、もうすぐに封印を解きますから」


「え…?」


カイキが両手で何かを包み込むような素振りをし始めると、その上に再び光の渦が出来あがる。先ほどとは違って紫の柔らかい光である。そして、その光の渦はメリーの身体に入り込む。メリーの全身が紫に発光する。


「これって…」


「先ずは空を飛べるようにしました。とりあえず一旦退避して下さい!!」



そういわれてもどうしたらいいのか分からないメリーは、


「どうやって!?」


と叫んだ。その時、物体がメリーに急接近してきた。全体が異様に稼動して、ひどく軋んでいる。本能的恐怖を感じたメリーは「助けて!!」と思ったが、次に気付いた時には何か様子が変だった。身体が先ほどの上空で浮いているのである。


「…本当に飛べちゃった…」



そこにカイキもやって来て言った。



「じゃあ次は基本的な攻撃魔法。トラックで突っ込んだのと同じくらいの衝撃を一か所に集中してぶつけられます。言い忘れましたが、呪文とかはなくて念じるだけで良いです」


カイキのさきほどと同じような仕草から今度は緑色の光がメリーの中に入ってくる。



「これで使えるのね」



「はい。集中力が途切れない限り使い続けられますが、闇雲に使ってもしょうがありません。やはり敵の特性を見極めて使ってください」



「あの…ゴキブリみたいな奴の特性…?」


メリーが彼女の持っている知識を動員した結果、あの物体は速度が速いわりに接続部に弱さがありそうだと感じた。メリーは叫びながら魔法を再び接近してくる物体に放った。


「っていうか、あんたは美しくないのよぉー!!!」



意外にも美的感覚はしっかりしているメリーの連撃により、接続部はボロボロに剥がれ、『核』と思われる部分が剥き出しになった。


「あ…メリーさん。そこでタイム」


「え?どういうこと?」


するとカイキは高速で物体のところまで飛んで、何か持って再び上空に戻ってきた。


「何をしたの?」


「集積回路は出来る限り集めないといけないんです。まあ、研究の為なんですけどね」


「っていうか、基盤ごと持ってくるのね…」


あえなく『核』を剥がされた物体は動作を停止し、いつのまにか消滅した。




その後何事もなく帰宅を再開した二人の間には何といったらいいのか分からない沈黙が訪れていた。徐々に耐えられなくなりメリーは色々な事が知りたくなって、やっとの事で質問した。


「ねぇ、あの機械はどこから来たの?」


「4次元以上の空間っていえばいいんですかね」


「何で来るの?」


「3次元空間の生物を研究する為と言われていますね」


「…誰が言ってるの?」


「僕の知り合いです」


「ど…」


「そんな話より、付き合い始めたんですからお互いの趣味の事について話し合いましょうよ」


「…」


いまいち納得できなかったが「付き合う」というのはこういう事に巻き込むためだけではなかったらしい。


「じゃ、じゃあ、どんな本を読んでるの?」


「『カイキ』って呼んでください」


「え?」


「僕の事は名前で呼んでくださいよ」


「…『カイキ』くん?」


「呼び捨てでお願いします」


「…カイキ、どんな本を読んでるの?」


「ドストエフスキーとかですかね」


「…の、何?」


「未成年とか好きですね」


「…あたしはヴィトゲンシュタインの論理哲学論考…」


「そ…そうですか。今度読んでみますね」


相性がいいのか悪いのかよく分からない二人の物語が何となく始まった。



[しがない男の普通の話]



「これのどこが魔法少女メリーちゃんなんだよ…」


BDを視聴し終えた友人は呆然としながら言った。


「まあ、最近は複雑な設定にしないと見る人も満足しないんだろうね」


「胃がもたれそうな設定だな…」


暴力的な豪雨の中を魔法使いメリーちゃんの真似をして歩くと言っても、ごく普通に歩いているだけだったりする。6月の雨はリアリストには辛いものだとも思う、そんな午後。
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ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

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