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徒然ファンタジー3

ジェシカは留守番をする。家猫だから当然である。だが、飼主の希望で寝る時以外は基本的に人間の姿になっている事が多くなったジェシカがその姿で留守番をするという事は当然何らかの事態を引き起こしてしまうはずだ。あの日から二週間ほど経った頃に最初の事件(?)が起こった。


リリアンが出勤するのを見送ったジェシカはとりあえず最近覚えたゲームに興じ始めた。リリアンはそこそこゲームが好きで、特に「テトリス」やら『ぷよ』な感じの所謂落ちものゲームを多く所有していた。小さな機体を持ってちまちまとプレイするジェシカ。あまり操作の難しくない簡単なルールのゲームは直感的ですぐに覚える事ができた。単純だが奥が深いという事が往々にしてある落ちものゲームは対戦になる事で面白味が倍増する。一人暮らしのリリアンはネットで対戦するというところまではいかないライトユーザーなので、ジェシカが操作を覚えてしまうと


「よし、これジェシカにももう一つ買ってくるから!!」


と対戦相手ができたことを喜んでいた。そもそもリリアンがジェシカを人間の姿にさせている理由の一つが、ジェシカにこのゲームを上手くなってもらうというわりと安直なものなのである。


「う~ん…こいつにはなかなか勝てないなぁ…」


標準的なプレイヤーが苦戦を強いられる相手との対戦のところでジェシカも同じように躓いていた。こういうゲームには運の要素もあるが、戦略的に効率の良い方法をプログラムされている相手とか、時々『予知』めいたことをする相手とかになると、当然手ごわくなる。ジェシカは『コンピュータ』とか、『プログラム』が相手をしているという事があまり分っていないので、素直に手ごわい相手だと認識する。彼のイメージでは、どこか遠方から操作して戦っているという感じなのである。



ジェシカは手ごわい相手との対戦に集中し切っていた。既に10時くらいになっていたので場合によっては人が訪ねてくることもあるだろう。とはいえ一人暮らしのリリアンのアパートを訪問するのはしつこい業者とか、ねちっこい業者とか、あきらめない業者とかである。そういう事だから、リリアンもジェシカに家の留守番は頼んでいても、基本的に


『うちは間に合ってますから』


と玄関口で言えば良いと教えてあった。ただ、予期しない事が起るという事も当然想定しておくべきだったのである。


「ピンポーン」


唐突にチャイムが鳴った。ジェシカはそれに気づいたが、慣れないしゲームが中途半端だったのでそのままちょっとだけ様子を窺うことにした。


「ピンポーン」


やはり訪問者は存在を主張してくる。ジェシカは気が進まなかったものののそのそと玄関に向かった。


「ピンポーン」


その間にもう一回。返事をしないジェシカも悪いのだが、何分どう対応したらいいのか分からないためこうなってしまう。


「うちはまにあってますから」


聞こえるか聞こえないのかよく分からない大きさで自信なさ気に言うジェシカ。だが想像もしない事が起る。


「何が間に合っているかいないかは実物を見てから判断するものよ」


ドアの向こうからでもしっかり響いてくる、自信のありそうな声。女性のものである。


「うちはまにあっていますから…」


尚も繰り返すジェシカ。この場合の対処をそれしか知らないのである。


「あなたが見たらそんな事を言えなくなると思うわよ」


何だかよく分からないやり取りになっているが、ジェシカは相手の自信ありげな言葉に何となく耳を貸してしまって、ちょっとだけドアを開けてしまった。そこに立っていたのは大きな荷物を抱えた長い黒髪の女性だった。ジェシカが言葉を知っていたら、『ミステリアス』とでも表現していたかも知れない。


「あら?あなた、ここの住人?」


相手はジェシカを見るなりこう訊ねた。


「ここに住んでます。ご主人様と…」


事態をややこしくしたのはリリアンが最近自分の事を『ご主人様』と呼ばせている事だった。


「あの娘にそういう趣味があったなんて意外だけれど、まあいいわ。あの娘の同居人という事ならわたしを中に入れなさい。あなたにはそうする義務があるはずよ」


「え、でも見知らぬ人は入れちゃいけないって言われているし」


「ああそれなら大丈夫、わたしとあの娘には関係があるの。ただならぬ関係がね…」


「ただならぬ?」


女性は妖しい瞳でジェシカを見つめてニヤリと嗤った。当然ながらジェシカには何の事やらさっぱり分らない。だがとりあえずリリアンの知り合いだという事なので、中に入れる事にした。


「二人で暮らしているわりには狭いわね」


部屋に入るなり女性は呟いた。実際その感想は正しい。そもそも人間と猫一匹だったらそれで全然問題のない広さなのである。


「それに…なんというか男の子が使っているようなものがあんまりなさそうね…あなた達って本当に主従関係だったりするの?」


ジェシカは頭にはてなを浮かべている。テーブルの辺りに腰を下ろした2人の間には微妙な空気が流れだした。女性は明らかにジェシカに対して不信の目を向けているし、ジェシカも謎の女性の登場に緊張して何をしたらいいのか分からなくなっている。


<この人は何なんだろう…>


そう思いつつも、相手のプレッシャーに耐え切れなくなったジェシカは重々しく口を開いた。


「あの…これやりますか?」


といって先ほどまで熱中していた携帯ゲーム機を女性の前に差し出す。女性は一瞬戸惑いを見せたが「ふふ」っと嗤って、


「あなたって面白いのね。…それなら大丈夫よ」


と言って荷物をごそごそし始めた。


「わたしもそれ持ってるから」


取り出したのはジェシカが持っているのと同じ型の色違いの赤い携帯ゲーム機であった。運良くソフト一本あれば通信対戦が出来るゲームだったので、二人はそのまま対戦を始めた。


「あ…ここに出てるのあなたなんですね」


「そうよ。っていうか知らなかったの?」


ジェシカにとっては対戦相手が『プログラム』よりは生身の人間である方が自然であると思われた。ジェシカの頭の中では微妙に「じゃあさっきの(コンピュータ)対戦相手もどこかに居るのかも知れない」と思ってしまっているが、一昔前ならともかく現代ではそういう勘違いをしてしまいそうになるほど通信技術は発達しているというのも不思議な話である。


「じゃあ勝負よ!!」


「はい!!」


先ほどの微妙な空気は何処に行ったのか、二人はゲームを楽しみ始めた。女性の方はお世辞にも上手とは言えないのだが、このゲームのルールをよく知っていて、ジェシカが上手くやれそうなところをピンポイントで『邪魔』をする作戦に出ていて、プログラムではこういうプレイは出来ないのでジェシカを焦らせていた。


「ズルい!」


「勝負は勝負よ」


「さっきの人達はこういう卑怯な方法は使わなかったのに…」


「さっきの人って、あなた一人でやってたんじゃないの?」


「え?戦ってましたよ。なんかカエルのような人と」


「…それってこのゲームのキャラクターよね」


「ええだからその人と」


「…随分素敵な感性をなされているのね」


女性はジェシカの発言を比喩として受け取った。さすがに15、6歳くらいの男の子にしては発想が独特な気がするが、今どきは不思議な子もいるかも知れないと言い聞かせた模様である。
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