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徒然ファンタジー4

二人に見える一匹と一人はしばらく対戦ゲームをプレイしている間に大分打ち解けていた。普通ならお互い見ず知らずの人に対しては警戒をするはずだし、それぞれ「不審」と思われる要素を持っているので事態はさらに複雑なのだが、今回の場合はジェシカの素直さと女性のストレートさが上手くかみ合って、互いに良い印象を抱かせていたようである。ゲームを中断してからそれがこういうところにも表れていた。


「そういえば、あなた名前は何ていうの?」


「ジェシカです」


「ふ~ん」


普通ならまだ名前を名乗っていない女性に対して「彼女が先に名乗るのが礼儀」という事を知っていれば彼女が妙に堂々としているかが分るのだが、ジェシカは疑問を抱かないで、素直に答えてしまう。ジェシカもジェシカなりに警戒はしているのだが、人間社会で名前を教えるという事の意味を彼はまだよく知らないのである。女性はまた「ふふ」と笑う。


「シェリーよ」


「はい?」


「わたしの名前よ。シェリーって言うの」


「あ、キラキラネームってやつですか?」


「…あなたがそれを言うのも可笑しいと思うのだけれど」


シェリーと名乗った女性は驚かされるのと同時に苦笑した。ジェシカは人間でいえば思った事をすぐに言うタイプだし、失礼かどうかという事まで考えが巡らないのも確かだ。だがそれらはジェシカが本来猫であるという事を知ればとても自然な事なのである。ただしシェリーは意外にもこの少年に対して良い印象を持った。彼女ははっきりした性格の男性が好みの模様である。


「あなた気に入ったわ。ご褒美に何か御馳走してあげるわよ」


「え、ご馳走?」


ここで普段のジェシカの食生活について紹介しなければならない。ジェシカは猫で居る間は普通にキャットフードしか食べないし、食べたくない。だが人間の身体になると構造も味覚も変わってしまうため逆にキャットフードなど食べられない。飼主リリアンはジェシカと一緒に食事をする為に一日一食は人間の食事をさせているのだが、リリアンも半分は猫で居てほしいという気持ちがあって、あと猫の姿で猫用の餌を与えている。家庭にもよるが一般的に猫は一日2~3食で良くジェシカもリリアンが返ってくるまでは普通にキャットフードを食べる事にしていて、実際この頃はゲームの練習が終わったら猫の姿で食事を摂っていたのである。しかし今日は予想もしなかったお客の来訪もあって、既に昼過ぎまで人間の姿のままでいた。


「どうしようかな…そろそろ戻ろうと思ってたんだけど…」


リリアンは当然のことながら見知らぬお客を家に入れた場合の、主にジェシカが『猫と人間のどちらにでもなれる』という事について伏せておくとか、普通だったらそうすべき判断というものをジェシカに教えていなかった。ジェシカは自分が人間になれるという事がいかに驚愕的な事実なのか、まだ十分に理解していなかったし、この後も普通にシェリーの前で猫に戻るつもりだったのである。



「戻るって、あなたやっぱり何処か別のところに住んでるの?」


「いえ、元の姿に戻らないといけなくて」


「その服装は普通よね。元に戻るとどうなるの?」


「『猫』になります」


「・・・」


シェリーはその言葉を聞いて唖然としながら顔を真っ赤にした。シェリーの頭の中ではいま『猫のコスプレをしたジェシカが、「ご主人様」と言う』の姿が閃光のように駆け巡っていた。ジェシカが最初に言った「ご主人様」という言葉、そして彼の中途半端な状況に鑑みて、リリアンとジェシカの関係がこのように誤解されたのである。


「あ…あなた達ってそういう関係だったの…。あの娘もなかなか侮れないわね…」


「?」


「まあいいわ。元の姿に戻るのはとりあえず後回し。これから外で何か食べてきましょう」


シェリーは立ちあがってジェシカを催促する。ジェシカは色々考えたが、一つには「悪い人そうではない」という理由で、彼女の言うとおりにする事にした。


「分かりました」


ジェシカが運が良かったのは、念のために渡されていた合鍵の使い方をレクチャーされていたという事である。リリアンは最初ジェシカが一人で外に出るのは危ないと思っていたのだが一週間もすると「人間だったら普通は外に出たいはずよね」と思うような事が多くなっていって、それならばと、ジェシカに鍵の使い方を教えておいたのである。考えてみると「猫の姿」で外に出られたら探すのが大変であるが、人間の姿だったら普通は誰かに気付かれて見つかるのである。鍵を貰って以降、ジェシカもほんの少しだけ一人で外に出る事もある。実を言えば朝のゴミ出しがジェシカの仕事になりつつあった。



それはそうと、二人は普通に外出している。ジェシカにとって更に幸運だったのは、シェリーが赤々とした自動車でここに来ていたので、人(猫)生初の車を体験できたことである。


「うわーすごく早いですね」


「ジェシカはまるで車が初めてのような事を言うわね」


「俺、初めてです」


「本当に不思議な子ね」


「前見たときにはちょっと怖いなって思ってたんですけど、乗ってみると気持ちいいですね」


「それは良かったわ」


そして二人がやって来たのはごくごく普通のファミレスだった。これはシェリーなりの配慮だった。シェリーは今どきの中高生がわりとファミレスを選ぶという事を聞いていたので、そこに合わせたのである。奥の方の禁煙席に誘導された二人。ジェシカはこれも初めてなのできょろきょろしていた。その様子から、あまり慣れていないという事を読み取ったシェリーはジェシカにメニューを渡して言う。


「ジェシカ。何にする?わたしはこの中では、そうね、パスタ辺りかしら」


「俺は、え~っと、これ…」


ジェシカが指さしたのはシンプルなオムライスだった。実はリリアンが一度家で作ってくれた事があったのだ。


「決まりね」


「ピンポーン」


店員を呼び出すブザーを押したシェリー。そそくさと駆けつける若い女性の店員。


「はい」


「これとこれ。あとドリンクはどうする?」


シェリーはドリンクのところを指さしていた。ジェシカの視線が緑色の液体の写真に注がれた。「なんだろうこれ?」と思ったのだが気になったのでそれを頼む事にした。


「じゃあメロンソーダと、アイスティーね」


「かしこまりました、ご注文を確認させて貰います・・・」


手際よく注文の確認を終えた店員は速やかに去ってゆく。一息ついた二人は会話を始める。


「シェリーは何処から来たんですか?」


シェリーは、教えた名前を呼ばれてちょっとだけドキッとした。彼女はさっきからさり気なく「ジェシカ」と呼んでいたのだが、ジェシカは自然に名前を普通に呼んでいいのだという認識になっていたのである。それは彼の信頼の現れでもあった。ちょっと満足そうな顔になったシェリーは、


「遠くよ。具体的には東北地方」


「何で来たんですか?」


「ジェシカの『ご主人様』の顔を見たくなったからよ」


「ご主人様とは知り合いなんですか?」


「高校時代からの友人よ。ちょうどあなたぐらいの年齢の時に、あっちからしつこく話しかけてくる娘がいたから「ウザい」と思ってたのに、いつの間にかそのウザさが気に入りはじめてね」


「『ウザい』?」


するとシェリーは「ふっ」と息をついて、遠くを見るような表情で言い始めた。


「まあ、あの頃わたしは「一人でいい」って思ってたの。クラスで浮いていようが何であろうが、わたしはわたしの思うままに生きていたかったの。でもあなたの『ご主人様』はある日こう言ったわ


『別に一人でも良いけど、一人になる必要がなければ一緒に居たっていいじゃん』


ってね。考えてみればそうなのよね。別に一人でも良いし、一人じゃなくてもいい。あの娘がわたしに憑りつくのもあの娘の勝手だから、そのままにしていても良いんじゃないかって。でも纏わりつかれるだけなのも癪だから、こうして時々お節介を焼きに来るのよ」


経験の少ないジェシカには理解しがたい話だったが、とにかくリリアンとシェリーが仲が良さそうだという事は分ったのでこう言った。


「二人はお友達なんですね」


それは素直過ぎる発想だった。言われてみればそうなのだが、<その一言で片付けるのも癪だからこうして説明したのに>と思ったシェリー。だが不思議と温かい気持ちになった。


「そうね、お友達よ。そういえば、ジェシカとご主人様は何処で知り合ったの?」


「俺は…あそこに迷いこんだんです。もう覚えていないのですが、ご主人様は俺が来た日の事を教えてくれました。雨で濡れた俺を拾ってくれたんだそうです」



「…そう…。ジェシカにもいろいろあったのね。あの娘はそんな事全然教えてくれなかったけど、確かにそういう事情なら仕方なかったかも知れないわね」


一応説明しておくと、ジェシカは迷いネコで、生後2ヶ月ほどの大きさで道をふらふら歩いていたらしくそれをリリアンが保護したというかたちになる。悲しくも温かい出来事だが、猫についてこういう話は山ほどある。だが対象が人間となると、壮絶な話になってしまう。ジェシカが『訳あり』だという理解で済ませたシェリーは、同情の目を向けて自身も少し涙ぐんでいた。


「でも今は幸せですよ。こうして元気に生きてますし」


「そう」


その表情はシェリーには眩しく見えた。だが一方でこんな健気なジェシカに己を「ご主人様」と呼ばせているリリアンに対して一言いってやらなければならないと思い始めるシェリーであった。
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