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徒然ファンタジー5

慣れない外食でジェシカは戸惑う事は多かったが、運ばれてきたオムライスはメロンソーダと一緒に食べるとなかなか美味しかったのでシェリーとの会話もそこそこにジェシカは食事に集中していた。シェリーはそんなジェシカを優しげな眼差しで見守っていた。


食後、二人はリリアンのアパートに戻ってきて再びゲームで対戦し始めた。といっても先ほどと同じゲームではなく、シェリーの持ってきたメジャーな格闘ゲームをである。どこかしらバイオレンスの匂いがするシェリーは、初心者のジェシカをゲーム内でも現実でも挑発しながら一方的に叩きのめしていた。


「ほらほら、どうしたのかかってきなさい!」


「そっち行ったらまた『凄いの』やるくせに…」


説明書もなく、あったとしても文字が読めないジェシカは何となくこのゲームにおける『必殺技』の概念は理解しつつあったのが、何といったらいいか分らないので『凄いの』と表現していた。確かにキャラクターが凄い勢いで攻撃してくるので初心者は音声や映像で驚かされてしまう。


「やらないからいらっしゃいな。あなたから攻撃していいから」


「ほんとう?」


「ええ、ほんとうよ」


「じゃあ…」


と言って相手に詰め寄るジェシカ。しかしリリアンは約束を守らずニヤニヤしながら投げ技でジェシカのキャラクターを叩き落とす。接近し過ぎると投げが有効になってしまうので普通はみだりに接近してはいけないのがこういうゲームの特徴なのだが、ジェシカは知らない。


「やらないって言ったのに!!!」


「あ、しまった・・・てがすべった」


断言するが手が滑る筈がない。ジェシカはそれ以前に「手が滑る」ってどういう事だろうと疑問に感じている。シェリーは悪びれもせず、台詞も棒読みである。ただ、こういうゲームでのやり取りを通してジェシカは人間の…というか性格の少しねじくれている人のズルさを実感しつつあって、リリアンとは違うかたちで『人間関係』を構築しはじめていた。



そうこうしているうちに夕刻になってリリアンが帰ってくる時間になっていた。リリアンとの『約束』としては『猫』の姿で出迎えるようにと言われていたのだが、ゲームに熱中していたのとシェリーと話していたのでついうっかり忘れてしまっていて、リリアンが帰宅した時にも人間の姿のままだった。リリアンを出迎え「おかえり」と笑顔のジェシカにリリアンは言った。


「こらジェシカ。戻っておくように言ってたでしょ?」


「あ、そうだった…」


「あ、そうだったって…だってお昼はどうしたのよ?」


「あ、そう。あの、シェリーっていう人がご馳走してくれた」


「『シェリー』?」


リリアンはとても不思議そうな顔をした。ジェシカもそれを見て「あれ?」と思った。


「シェリーって誰?」


「シェリーはシェリーだよ…ご主人様のお友達の…」


「私にシェリーなんて友達はいないわよ」


「え…?じゃああれは誰なの?」


ジェシカはリリアンの腕を引っ張って、いそいで居間に向かう。もちろんそこには長い黒髪の女性の『シェリー』と名乗った人物が普通に座ってお茶を啜っていた。


「あぁ~!!!!!」



リリアンはシェリーを見るなり大声を上げた。


「こんにちは、リリアン」


「なに!?いつ来たの?あれ、今日来るって言ってなかったじゃん!!わぁ~」


リリアンは大喜びである。でもジェシカは先ほどの事が気になって質問する。


「シェリーはシェリーだよね?リリアンの友達の」


「そうよ」


シェリーは落ち着き払って言う。だからジェシカはますます混乱する。リリアンはシェリーを指さしてこう言った。


「ジェシカ、この人はシェリーなんて名前じゃないわ。立華京子よ」


「たちばなきょうこ?」


「ふふふ…その名前は捨てたわ…」


「なにふざけた事言ってんのよ。ジェシカ、京子はね、こういう悪ふざけをするのが趣味なの」


「失礼ねリリアン。シェリーという名前は私が幼い頃おばあちゃんがつけてくれた愛称よ。だから嘘ではないわ」


「たとえそれが本当だとしても、初対面の人に名乗る名前じゃないわ。騙されちゃダメよ、この人は『京子』よ」


「シェリーは京子…?京子はシェリー?」


ジェシカにとってこの説明は分かるようで分らない説明だった。はてなマークを浮かべているジェシカの様子を察してシェリー=立華京子は言った。


「ジェシカにはシェリーって呼んでもらいたいわ。私達の仲じゃない」


「シェリーでいいの?」


「いいのよ」


「シェリー」


「なあに、ジェシカ」


お互いに名前で呼び合う二人を見て、リリアンは何故だか不満だった。ほっぺを膨らませていたリリアンだが、ここで大事なことを思い出した。ジェシカが『猫』だという事である。


「京子。ジェシカが…その『猫』だって事は知ってるの?」


シェリー(以後はシェリーと呼ぶことにする)は神妙な顔つきでリリアンを見つめ、


「ジェシカに聞いたわ…。あなたがそういう趣味だって事は長い付き合いだけど知らなかったわ…」


ととても残念そうな声で言った。


「趣味?何の事?」


「あなた達は人に言えない関係なのよね…その…秘密の…」


「まあ秘密だし、信じてもらえないだろうし、人には言えないけどね」


「大丈夫よ、私とリリアンの友情は変わらないわ!」


「そう。そっか、知られちゃったけど驚かなかったんだね、京子は」


「ジェシカは良い子よ。こんな無垢な子に、ご主人様なんて呼ばせているのはどうかと思うけれど…」


「えぇ~!!だって、私が飼っている事には変わらないでしょ?人間の姿でも」


「ジェシカはここに迷いこんだそうね。きっと私達には言えない秘密の過去があるのよ…でも心配しないで、私も協力するから」


「あ、ありがとう。京子」


ジェシカはこのやり取りを「なんか変だな~」と思いつつも何が変なのかよく分からなかったのでボーっと見守るだけだった。
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