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徒然ファンタジー7

ジェシカの正体を知ったシェリーは、リリアンがもう一度ジェシカを人間の姿に変身させたところを見て、観念するように言った。

「もう、これは認めるしかないわね。わたしの前で、猫が人間になったわ。間違いなく…」

驚いているような、落ちこんでいるような、喜んでいるような、よく分からない口調である。ジェシカはそんなシェリーを気にかけて何かを言おうとするが、言葉が浮かばない。

「あの…その、どう思ったの?シェリーは」

適切かどうかは分らなかったが、ジェシカは純粋にそれを聞いてみたいと思ったのである。

「ジェシカ…。う~ん、その前に訊きたいのだけれど、ジェシカは自分が人間になれる事に対してどう思ってるの?」


「俺は…」

訊かれてジェシカは少し戸惑ってしまった。ジェシカも最初は驚いていたけれど、『そういうものなんだな』と素直に認めても別にジェシカのそれまで知っている事の中ではおかしなことは無いというのか、特に問題は起らなかった。ただ、リリアンとは違った受け止め方をしているシェリーを見ると、自分がそう思う事が実際はとんでもない事なのかも知れないと思い始めたからである。


「よく分からないんだけど、嬉しいかな…」


「嬉しい?」


「だって、ご主人さまやシェリーの言っている事が分るし、色々な事ができる」


それはジェシカの素直な気持ちだった。何よりあの謎の男性が渡してくれた道具で変身した場合には自然に「言葉」が分るし自分でも発する事ができるようになっている。これがいかに非常識…不思議な事なのかはジェシカはぼんやりと分っていた。自分を表現できる喜びと、言葉を通じて理解できる事がジェシカに新しい世界を見せつつあった。


「そう。それは良かったわ」


リリアンとシェリーは親が我が子を優しく見つめるようにジェシカを見ていた。


「それでシェリーはどう思ってるの?」


「そうね…。今の言葉を聞いて、素直に私も『嬉しい』と思っているわ」


「私もよ。ジェシカ。あなたとこうやって会話できる事は本当に嬉しい事よ」


二人は笑顔で答えた。それにつられてジェシカも満面の笑みを浮かべる。その日三人で色々な事を話して、一緒に食事をして、ゲームをしているうちにすっかり眠る時間になってしまったのだが、シェリーはもともとリリアンの家に泊まるつもりだった。そこで一つ問題が生じた。


どうやって狭い部屋で三人が眠るかである。


ただこれは容易に解決できた。リリアンはジェシカをまた猫に戻した。こうすれば二人と一匹なので、部屋は全然狭くない。そしてこの方法のメリットは、二人がジェシカと一緒に眠れるという事だった。ちなみに、ジェシカが眠る時には人間の姿になっている事はない。そして猫と飼い主が一緒に眠るだけだからこれは何にも問題はない。だが、ジェシカを最初『年頃の男の子』だと認識してしまったシェリーは、一緒に眠っている猫を、微妙に複雑な気持ちで見つめるのだった。実を言うと、『ジェシカ人間バージョン』が結構好みのシェリーなのである。




さてそんな一日が過ぎ、シェリーは次の日の早朝少し早めに目覚めていた。シェリーは気持ちよさそうに寝ている猫のジェシカを見て、


<昨日の事は本当なのだろうけど、やっぱり確かめたくなる…>


とリリアンが管理している例の道具を密かに拝借して、寝ているジェシカの前で道具を使用してみた。やはりいつものように一瞬にしてメタモルフォーゼが起って、目の前には普通に服を着た男の子が眠っていた。シェリーは何を思ったかデジカメを取り出して、寝ている姿を撮影した。


基本的に合理的な思考をするシェリーは『なぜ変身していると服を着ているのだろう?』とか、『人間に換算するとこの年齢で合っているのだろうか?』とかいろいろ面倒くさい事を考え始める。特に『服』の件については、明らかに何かに配慮しているようにしか思えない。そしてジェシカが突然喋れるようになったという昨晩の話から察するに、この道具は単純なメタモルフォーゼではなく、とても人間の意図が絡んだ『変身』をさせるかなり特殊なものであるということが明らかだった。リリアンとジェシカの説明で、ジェシカにこの道具を渡してくれた謎の男性の事を了解したのだが、その人物の登場からしても、お伽噺というよりもまるで『異世界』の『超文明』とか『魔法』というものを想像したくなる。



リリアンはそのまま素直に起った事を受け入れたに過ぎない。だが、危い思考になりそうではあるが、何かを『仮定』して推論を進めてみれば、もしかしたらもう少し何かが分りそうな気がしていた。それこそ自分が持ってきた『黒い猫の置物』も、そういうものに関係している可能性もあるのではないか…


その辺りまで考えたところで、リリアンが物音で目覚めて人間になっているジェシカを見てシェリーがした事に気付いて彼女に注意した。


「ちょっと京子!!勝手に使わないでよ!」


「それは謝るわ。でも昨日の事が本当なのかって…」


とは言え、リリアンもシェリーが色々と思うところがあるだろうから本気にではなく、勝手に使った事に対して注意をしたのである。


「まあいいけど…で、ちゃんと信じれましたか?ふふ」


「ええ、間違いないわ。念のためデジカメで撮ってみたけど、ちゃんと人間の姿ね。間違いないわ」


「もう…疑り深いんだから…」


「そんな事より、リリアン、ジェシカが服を着ている事についてどう思う?」


その質問の意図がよく分らなかったリリアンは、


「え…?似合う服だと思うけど?」


「これはあなたが用意したものではないわよね」


「う…うん。変身するといつもこの姿だよ」


「どうして服を着ているか気にならない?」


リリアンは一瞬絶句したあとこう言った。


「…京子って、変態さん?」


これにはシェリーも絶句した。


「はっ!?何でよ、なんでこの流れでそうなるのよ?」


「そんなのまるで服を来ていないのが普通みたいな言い方されたら誰だってそう思うわよ!!」


「あなたこそおかしいわ!!普通は、というか一般常識があったら、猫が人間に変身するところまではいいけど、いつも猫が着ていない服を着て現れるのは変だと思うわよ」


「そんなの大した問題じゃないわ!!」


「大きな問題よ!!謎だわ!!」


「いつも思うけど京子って、時々変よね…」


「そっくりそのまま返すわ。リリアン」


「うぅ~あぁ」


天丼的な状況だが、まだ夢の中に居るジェシカの横で二人はお互いに呆れているのだった。
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