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徒然ファンタジー8

自分の用事を果たすためにリリアンの家を後にしたシェリー。出てゆく間際、

「これからも時々来ると思うけど、ジェシカについて何かあったらメールで教えてね」


と告げられた。リリアンは頷いたが、「具体的な何かがある」とは考えていなかったので、<多分ジェシカとの生活についてのメールをすればいいのかな>と彼女なりに解釈していた。玄関まで人間の姿で見送りに来ていたジェシカは、


「行ってらっしゃい」


と言った。言葉が分るジェシカも、具体的にどういう場面でどういう言葉を使ったらいいのだけは経験的にしか分からないので、どうしてもリリアンに教えてもらった『いつもの見送り』の言葉が出てしまう。ただ、その言葉は場合によっては完全な間違いでもなく、


「ふふ…そうね、『行って』きます」


シェリーは満足していた。こうしてリリアンとジェシカの二人っきりの生活が戻ってきた。ただ二人とも何だか最初は寂しさというのか、先ほどまでと違うという事に少し戸惑っていて少しぎこちなかった。


「あ…ジェシカ、そう言えば私は今日土曜で休みなのよ」


「家にずっといるんだよね、ご主人さま…」


「…京子にはペースを乱されてしまったわね。今日どうしよう…」


リリアンはそう言うとジェシカの顔を窺った。素直なジェシカは眠りたさ半分、遊びたさ半分という感情がそのまま表情に出ている。ワクワクしつつも、先ほど起きたばかりだから眠そう。眠気覚ましにどこか散歩でも行けばいいのかも知れないと思ったリリアン。


「よし、とりあえず公園まで散歩してから考えよう」


「外に出るんだね。分かった」


よくよく考えてみると二人の日常は基本的にはごく普通の事から成り立っている。それこそ飼主が猫を鳴き声や、態度から色んな事を感じとって、彼等のしたいようにさせてあげようとするから飼主は何かを考え、何かをする。今もそれと同じ流れで、する事は自然に決まってゆく。


「そのままで出る?それとも元の姿になって?」


「う~ん。どっちでもいいかな」


結局利便性を考えて人間の姿のままで散歩に出掛ける。この二人の様子を見ると、歳の離れた仲の良い姉弟が一緒に歩いているという感じなるのだが、見る人が見たら、違う仲の二人という風にも見えたかも知れない。具体的にどういう仲なのかは、ご想像にお任せするという事で良いのかも知れない。



近所の公園までの道程はすっかりジェシカも覚えてしまっていた。そして昨日車に乗車した経験もあって、その前まではなるべく離れるようにしていた車に対しても別の見方が出来るようになっていた。


「車って速いよね。びっくりしたけど楽しかった」


「京子に乗せてもらったんだったね。そうか、車が大丈夫だったら電車とかもそろそろイケるかも」


「『でんしゃ』?」


「うーんとね、車よりももっと大きくて細長い四角い感じの乗り物かな。一杯人が乗れるのよ」


「それってもしかしてあれ?」


ジェシカが指したのは少し前の停留所で止まっているバスであった。確かにリリアンの言った条件を満たしている。リリアンは苦笑した。


「うん。そうだね、あれも細長くて四角いんだけど、電車は比べ物にならないくらい長いし大きいの」


「うーん…見てみないと分らない」


「ふふふ」


しばらくしていつもの公園に到着した。8時半くらいだったのでまだ人は居ないようで、時計台を中心にした広場の隅にあるベンチに腰掛けて、少し休憩する。するとジェシカは何か気になるものがあるのか、急にきょろきょろしだした。


「どうしたのジェシカ?」


「…」


訊かれても無言で時計台の上の方を見て左右に首を動かしている。ただしリリアンはこの動きには見覚えがあった。そして時計台の上の方を見てすぐさま納得した。


「な~んだ。鳥か」


「鳥…沢山いる」


朝の時間にこの辺りに集まってくる小鳥。猫だったら自然な事だが、人間の状態でもやってしまうあたり、変身に際してやはり本質的な部分は残しているようである。リリアンは気になることがあったので訊ねる。


「ジェシカは今の姿でも鳥を捉まえてきたいと思う?飛びかかって」


「気になるけど、口で咥えたいとは思わないかな。それにこの身体だと飛び上がれないし…」


いくら長身になっても猫のような身軽さや俊敏さはない。とはいえ、これまでの経験から運動神経及び嗅覚と聴覚と視覚については普通の人よりはやや優れているらしく、スポーツなどをやらせてみたら案外いい結果を出す可能性があった。色々考えた末、意外とスポーツは得意な方なリリアンは二人で出来るスポーツを探してみるのもいいと思い始めた。ただリリアンはその他にも少し考えていることがあった。それは先ほど思いついた事だ。


「ジェシカ、今度『電車』に乗ってみない?」


「『でんしゃ』?」


「ちょっと大変だけど、面白いと思うの」



シェリーはジェシカの事を知らなかったとはいえ自然とジェシカに新しい経験をさせていた。リリアンはこれまでどうしても『猫』だという事を気にし過ぎていて、どうしてもジェシカの可能性を狭めていたと感じた。他にもリリアンが今考えている事を実現するにはとりあえず電車に乗る事が出来るか試してみる必要があった。


「うん。分かった」


ジェシカの方も、シェリーとの出会いで少し積極的になってきたようである。
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